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仕切り直し

いつの間にかお気に入り人数が2桁になっていました(そこの人「おっそーい」とか言わないように)。

地味な話ですが、エンドマークにたどり着けるように頑張りたいと思います(でないと次世代以降の話がリリースできない……)。


(2012/11/07)誤字の指摘をいただきましたので、修正いたしました!

 エミーリアの熱は、丸一昼夜休んでようやく治まった。

 更に翌朝までベッドにいるよう、ラウドにに厳命されて、エミーリアはくさった。

「おとなしくしている、と約束しますから、せめて室内だけでも」

「そう言って目を離した隙に下の温泉まで出歩いて、あげくに熱をぶりかえしたのは、どこのどなたでしたっけ」

「……」

 前日の夜の為体(ていたらく)を指摘されて、エミーリアはそっぽを向いた。

「ここは、お嬢さまが普段お泊りになっているような宿とは違って、廊下まで暖めてはいないんです。ですから、お部屋を出る時は、きちんと温かい格好をして下さい。解りましたね?」

 ……あれ?

「私は前のお宿を偵察に行ってきますので、ちゃんとお休みになっていてくださいね」

 外套(コート)を身に着けたラウドは、そう言い置いて部屋を出ていく。

 今の注意は、上着を着れば部屋を出ても良い、ということだったのだろうか?

 そう思ったエミーリアが体を起こそうとしたら、何かに引っ張られて逆戻りさせられた。どうやら魔法のようだ。だが……これでは用足しにも行けないではないか。


 戻って来たラウドに苦情申し立てをすると、

「だから、お部屋を出る時には外套を」

 ベッドの上掛けの上に広げられた外套を指差して、ラウドが言う。

 試しにエミーリアが手を伸ばして外套を取り上げると、体を起こしても引き戻されなかった。

「解りにくいですよ!」

 エミーリアが一言そう叫んで、外套を引っ掛けて部屋を走り出ていく。

「たかが半日くらい何ですか。私は早朝から深夜までだったのに」

 箱詰めのことをいまだに根に持っているラウドは呆れたようにつぶやいた。

「……でも、ちょっとやりすぎ、だったかな」

 熱を下げさせるために水分の摂取を促していたラウドは、少し反省した。


「お宿の方ですが、侍女の方が残ってらっしゃいました。他の方たちは予定通り出発なさったようですが」

 エミーリアに茶菓を振舞いながら、まるで世間話をするような調子でラウドが言った。

「他の人は、って、……彼らは別の宿を取ってたんですが、どうやってお調べに?」

「馬車を覚えていましたので。ここまで来る途中で、前通りましたよね? その宿」

 どうだったろう? エミーリアには『別の宿』という事だけしか知らされていない。あまり離れたところではない、というだけしか。

 初手からなんか後れを取っている気がする。

「……そういえば、発熱して足止めされていることになっていましたよ、偶然にも」

 発熱とは誰が、とは言わずもがなだろう。

「追っ手の気配は?」

「さあ、そこまでは。侍女殿はお部屋に籠りっきりとのことでしたが、お嬢様のようにこっそり出かけてらっしゃるかもしれませんね」

「どうでしょうね?」

 誘拐とも失踪ともとれるような痕跡を残してきたので、侍女は判断を仰ぐべく残っているのだろう。引き払ってしまったら、宿の者にきれいに掃除されてしまう。

「では、明日は、昨日来るはずだった『お迎え』を寄越すことにしましょう」

「……『お迎え』とは、誰が?」

 外部の協力者がいるなら、自分が巻き込まれる必要はなかったのでは?

 そう言いたげにちょっとムッとした顔になったラウドを見てエミーリアが笑みをこぼした。

「さあ、ね。明日のお楽しみに」


「……そんな服、持っていらしたんですか?」

 翌日、朝食の片付けから戻ってきたラウドが、目を丸くしたのを見て、エミーリアはほくそ笑んだ。

 長い髪を(うなじ)で一つにまとめ、紳士服に身を包んでいる。

「自前の、ではないので、ちょっとサイズが大きいですが」

 全体的に、丈は足りているのだが、胸周りも胴回りも、どうにも緩い感じだ。エミーリアが華奢だからだろう。

「というと……お兄上の、どなたかの、ですか?」

 ラウドは面識がないが、エミーリアには、兄ばかり六人いる、と聞いている。つまるところ、男ばかりの七人兄弟、という訳だ。ちなみに、同腹だそうだ。

 想像するだけでむさくるしいが……ああいう屋敷に住んでいればそうでもないのか。

「ええ。五番目の兄に譲ってもらったものです。すぐ上の兄の方が親しいのですが……体型が違いすぎて」

 身長が、なのか横幅が、なのかは聞かない方がいいだろう。

「昨夜のうちにお申し付けくだされば、手直し致しましたのに」

「……そうしたら、こんな驚いた顔は窺えませんでした」

 ドア口で固まっているラウドの手を引き、奥に進ませる。

「さて。次はあなたが着替える番ですよ。……ドレスに」

「……はい?」

「それと一緒に贈りましたよね? 持って来てますよね?」

「……はい。……って今、ここで、着替えろ、と?」

 エミーリアの目の前で着替えて見せろ、という事だろうか。

「昨日は平気で着替えてたじゃありませんか」

「それは、そうですが……」

 いや、よく考えてみると『目の前』ではなかったと思う。……っていうか、寝ていたんじゃなかったのか?

「ウェストには余裕があるはずだから、コルセットは要りませんよね」

 ウェストを締め付けるコルセットを着けるのならば、一人では着られない。代わりに胴回りの生地に芯が入っていて厚めに作られている。そこはありがたいのだが……

「気になるなら、後ろ向いてますよ?」

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