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魔法が失敗したら……?

(2012/11/07)校正のご指摘をいただきましたので、修正しました! ありがとうございます!

「エミーリア様は、魔法が失敗すると、どんな事が起こるかご存知ですか?」

「何も起こらない、のでは?」

 エミーリアが考えるそぶりも見せずに答える。

 その答えを訊いてラウドが頭を振る。

「それは魔法が発動しなかった場合、ですね。それもまあ、失敗といえば失敗ですが……怖いのは、ちゃんと発動したのに、規模や作用対象を誤ってしまった場合、です」

 誤って、とエミーリアが口の中で繰り返す。

「……なんだか、とても怖い事になりそうな気がします」

 ラウドが、形のよい唇の端をわずかに上げた。

「はい。とぉっても、怖い事になります。殊に、魔法使いたちが『大技』と呼ぶ上級魔法ほど。……失敗例、聞きたいですか?」

「ええと……それは、眠気を誘うようなお話なのでしょうか?」

 怪訝そうな表情でエミーリアが訊き返す。

「さあ……どうでしょう? 私は眠くなりませんでしたが、同じ講義を聞いていた学生たちの中では居眠りが続出していましたけど」

 それはもしかしたら居眠りではなくて気絶なのではないのか?

 そう思ったのでエミーリアは遠慮しときます、と応えた。

「では、どうして失敗するのか、についてお話しますね。……たいていの場合、魔法が失敗するのは何らかの『不足』が原因です。魔力の不足、対象についての知識の不足、……コントロールする技量や気力の不足」

 ずいぶんと簡潔にまとめるなぁ、と布団の下でエミーリアが苦笑する。

「バカにできないのが、『対象に関する知識の欠如』です。例えば、『発火』の魔術ですけど、火をつけたい対象が、小さな火口なのか、湿った薪なのか、はたまた鉄の扉なのか、対象によって集めるべき熱の量は違います。私の使う【癒し】もそう。例えば、『頭が痛い』という訴えに対し、考えられる原因は幾つもあります。その原因を取り除かないで『痛み』だけを取り除くのは、【癒し】ではなくて、『その場しのぎ』です」

 対象に対する知識が重要なのは、何も魔法に限った事ではないんだけど。

 それとも、魔法使いが必要とする『知識』っていうのは、何か違いがあるんだろうか?

「それから、『魔力』ですが……実は、たいていの人はこれ、持ってるんです。人に限らず、動物や植物も。だから、《学院》は基本的にすべての人に開かれているんだそうです。ただ、魔力を魔法に変換する事ができる人とできない人があって……できる人でも、得意不得意、っていうのがあって……」

 エミーリアの額に置いた手を入れ替える。

「私の場合、いくつかの上級魔法は、条件がそろわないと使えないんです。……だから、何度も言っているように、あまり私の魔法は当てにしないでください」

 エミーリアは伏せていた目を上げたが、入れ替えた手の陰になってラウドの表情は窺えなかった。

「……できない事は、できない、って言って戴いて構わないんですよ? 何か手を考えますから」

「だから、最初から当てにはしないでください、って申し上げているでしょう?」

 額に手を置いたままラウドが苛立たしげに身動ぎする。それから、小さく溜息を吐いた。

「何か手を考えるのは、熱が下がってからにしてください。とりあえず今は、頭と体を休めて」

 額に載せた手のひらがゆっくりと瞼を覆う。

「おとなしく寝ないと、強制的に落としますよ?」

 恐ろしげな言葉がラウドの声で紡がれるのを聞いて、エミーリアがベッドの外に伸ばそうとした手を戻した。

 指一本動かすのもままならないほど弱っているならともかく、この状態でおとなしく寝ていろというのは……

 だが。

 『強制的に落とす』という言葉の意味を、身をもって知りたくはないので、とりあえず今日のところは言われたとおりに休んでおこう。

 眠りに落ちる瞬間、そういえば昨夜のことを聞き損ねた、と気が付いた。


 呼吸のリズムが睡眠中のそれに代わったのを確認し、ラウドは額に置いた手を離す。

 熱で消耗していても、相変わらず美しい。

 ……そしてやはり、男性には見えない。

 頬にも、あごの下にも、もちろん口の周りにも、髭の気配はない。

 喉とか、胸とか、触れればそこが明らかに女性のそれとは違うことは判るものの、衣服に隠されていては判らない。

 不意に、その肌の感触がよみがえる。

 自分の体のあちこちに散らされていた痕のことも。

 確認できる限りは消したが、見落としがあるかもしれない。

 ……昨夜のことは、なかったことにしよう。全力で。

 彼(未だにそう考えることは難しいが)が熱で朦朧としている今なら、きっと大丈夫。

 頬に上った熱を意識して、そっとベッドのそばから離れ、窓辺に向かう。

 夜半に霙に変わった雪は、建物の陰にわずかに残るばかり。今日中にも消えるに違いない。

 さて、どうしようか?

 本当の小間使いならば、こういう時どうする?

 窓枠に凭れてしばし考える。……が、想像もつかない。

 同じ邸に勤めていても、外勤と内勤では交流もないのだ。参考になるお手本の心当たりがない。

 仕方がないので、荷物の整理でもしようか。

 エミーリアが寒さに弱くて熱を出しやすい、というのは十分に思い知ったので、熱さましの類を用意しておこう。多めに。

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