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一時休止

「ありがとうございます。助かりました。でも」

「どんな計画を立てていらしたか存じ上げませんが、あなたは二・三日動かないでください。体を壊して儚くなるおつもりなら別ですが」

 宿に戻ったところで口を開いたエミーリアの言葉を遮り、ラウドは暖炉に向かう。

 口止めと称されて甘い菓子を存分に奢られたので、魔力は充実している。エミーリアの熱くらい下げてやっても大丈夫だが、そうするとエミーリアは無茶をやらかすし、そうすると反動で熱がぶり返す虞がある。だったらここはじっくりエミーリアに体を休めてもらって体力の回復を図った方がいい。

 灰に埋もれていた熾き火を掻き立て、手際良く火を大きくする。

 そして、

「いいですか、燃料と、何かあったかいものを貰って来ますから、おとなしく寝てるんですよ」

 と、子どもに言い聞かせるような口調で言い残すと、足早に部屋を出ていってしまう。

 残されたエミーリアは、のろのろと外套を脱いでハンガーにかけ、暖炉の前に椅子を持ってきて座り込む。

 火に当たっているのに寒気がするのは、やはり熱が上がり始めているからか。霙の中を歩き回ったのがまずかったか。

 ……まずかったのだろう。こんな時期に雪が降るのは想定してなかった。いや、雪ならまだいい。積もっても払えばいいのだから。

 湿った咳が出る。

 肺に来たか。

 やはりベッドに入った方がいいだろうと立ち上がる。熱のせいか少しふらつくので、ゆっくりと。

 外出着を寝間着に着替えてベッドに潜り込む。

 そういえば、どうして今朝は起きた時裸だったんだろう? やはり昨夜の、夢にしてはやけに生々しいあれは……

 ごとり、とドアの外で重い音がする。

 そろそろとドアが開き、ラウドが部屋の中を覗き込む。

「よしよし。おとなしく寝てらっしゃいますね」

 満足げに言うと、足元に置いたバケツを行儀悪く爪先で押しながら部屋に入ってきた。

 片手で捧げ持ったトレーをテーブルの上に置き、バケツを取りに戻る。

 トレーの上には、深めの皿と、持ち手のついたつぼ、あと、何か蓋つきの容器が載っている。

「スープ、召しあがられますか? 食欲はありませんか?」

「ん……喉が、痛い」

 ベッドの上から呻くような返事が返ってくる。

「では、甘くした薬湯がよろしいでしょうか? 準備が多少掛かりますが」

「今は、いい。……こっちに、きて」

 ベッドの上から白い手が手招きをする。

 いくらか警戒しながらラウドがベッドの横に立つと、エミーリアがごめんなさい、と呟くように言った。

「どの事を謝られているのか解りませんが、今更ですよ?」

 少し間をおいて、ラウドが呆れたように応えた。

 そう言われてみると、謝るべき事ばかりかもしれない。

「……すみません。……今後も、お世話をかけるかもしれませんが、見捨てないで戴けると助かります。……それと」

「まだ何か?」

「……『エミーリア』があなたと行動している事を、他の人には知られたくなかったのに。……いえ、こういうこともありうると、あなたに偽の身分を用意しておくべきだったかもしれません」

 どうやらさっきサムエルと顔を合わせた事について言っているらしい。

「……何か問題があったのでしょうか? 私あの時、名乗ったりはしてませんでしたので、身元は割れていないかと思いますが」

「それでも……私と一緒に行動しているひとがいる、と、知られるのは……目くらましの意味が薄れます」

「目くらまし?」

 何を目論んでいるのか、と問い質す口調でラウドが聞き返すが、すぐに、

「いえ、いいです。今はとにかく、体を休めて、体調を恢復させるのが優先です」

 返答しようとするエミーリアの先を制して口を鎖させた。

「それに、喉が痛いのでしょう? 無理にしゃべらなくていいんですよ」

 言いながらエミーリアの額に手を置く。

「起きてるといろいろ考えてしまいますよね。少し眠った方がいいでしょう。……子守唄、要ります?」

 何か含みのある口調でラウドが訊ねる。

「……子守唄?」

「はい。寝つきが良くなるように」

「……考え事、しないように?」

 ラウドが頷く。

「だったら……何か話をしてください。《学院》の事とか、植木の事とか、……あなたの故郷の事とか」

「……何でもよろしいんですか?」

「何でも。……できれば、わたくしの知らない事を」

 エミーリアの知らない事……?

 どんな事を話せばいいのだろう?

 それも、落ち着いて眠りに就けるような。

 ……ああ、そうだ。ちょうどいい機会だから、『あまり魔法を当てにしないでほしい』っていう理由を話した方がいいかもしれない。熱のせいでちゃんと理解できないかもしれないけど。

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