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 胸の鼓動を抑えつつ、俺は「美波マリリン」のページにアクセスしてみた。

 そこには短編小説が4作品、現在連載中の小説が2作品投稿されている。


 まずはヤツの作品を読んで理解してやらなければ、今後の対策が立てられないだろう。

 俺は夫として、男として、弱り切ったアイツを励ましてやらなければならないのだ。

 俺がやっているのは興味本位の覗き行為じゃない。

 夫の役割を果たすために必要不可欠な仕事なのだ!


 かなり強引な理論武装を脳内で完成させた俺は、「俺は悪くない、俺は悪くない」と口の中で呟きながら短編小説の一つを開いてみた。

 そう言ってる時点で、俺が悪い事は自覚済みだ。

 なのに、俺はもう手を止める事はできなかった。

 腐ってるであろうアイツの脳内が今解き明かされる!と思うと、好奇心は既に暴走寸前だ。


 俺が開いたのは、『紫陽花あじさいの咲く頃に』というベタなタイトルの短編だった。

 タイトルをクリックするとあらすじと作品情報のページが現れた。

 ヤツが言ってた通り、本当にポイントも感想も何にも書かれていない。

 よっぽどつまんねーんだろ。


 ニヤニヤしながら、俺は素早く目を走らせる。

 胸の鼓動はどんどん激しくなっていって、緊張してきた。


 なんだろう、この高揚感は。

 こんな感じ、子供の頃あったな。

 そうだ!

 あれは俺が小学5年生の時、女子の間で交換日記が流行ってて、体育の授業中に着替えに移動した女の子の机の中をヤロー連中で引っ掻き回して盗み読みした時のドキドキ感!


 女子の誰かが「あたしの好きな男子は誰々です!キャ!」なんて書いてくれてないかって俺たちは期待してたんだけど、その内容たるや「先生、ハゲててキモイ」とか、「あの女超ウザ」とか、女子の本性丸出しで、大いに幻滅した俺たちは再び日記を机の中に戻したんだっけ・・・。


 思い出したら、自分があの頃から全く成長してない事に気がついて更に凹んだ。

 女子の心の奥底を知りたいと思うのは、男の性なのだろうか。

 いや、俺が単にバカなのか。

 こうやってアイツの小説を盗み見しようとしている今も、俺は期待しているんだ。


「もしかしたら、俺がモデルの男とラブラブになる女の子の話を書いてんじゃないかな?」って。

 なんだかんだ言って、アイツは俺に惚れている。

 その証拠をこの小説から掴みたいんだ、多分。


・・・やっぱりバカだな、俺は。


 ヤツを励ますという当初の目的から、どんどんズレてきて、これじゃ俺の自己満足の為じゃないか。

 ってか、もはやナルシストになってんじゃねーかよ!

 さっきの理論武装がもうブレている。

 考えるな、俺!

 俺は悪くないんだって!

 これ以上ヘコんでヤル気がなくなる前に、俺は『紫陽花の咲く頃に』のあらすじに目を走らせた。


タイトル 『紫陽花の咲く頃に』

あらすじ 

真司しんじが高校時代に初めて告白したのは、陸上部の先輩、拓海たくみだった。

 一夜限りの思い出をくれた拓海は、突然、高校を退学。

 消えてしまった拓海を、真司は今年も待っていた。

 彼が思い出をくれた紫陽花の咲く頃に・・・。』




「・・・は?」


 それだけ読んで、俺は一瞬固まって首を傾げた。

 真司と拓海?

 どっちも男じゃねーのか、それ?

 高校生の男が先輩に告白してって、ありえねーだろ!?

 しかも、一夜の思い出をくれたってどーいうコト!?


 高校生っつったら、ヒゲとかスネ毛とかボーボーで、汗臭くて、クラスでエロ本回してんだぞ?

 そんな血気盛んな年頃の男同士で一夜って、どーゆーコト!?


 ドン引きしながらも、俺はアイツの好みを思い出して一人頷いた。

 これが世に聞くBLというカテゴリーか。

 だったら、さしずめアイツは貴腐人というヤツだな。

 確かに腐ってやがるぜ。

 むさ苦しい高校生の男同士で、ンな事あるわけねーだろ!


 これでアイツの脳内が腐ってる事が一部証明された。

 妙に納得した俺は、今度は躊躇いもなく本編をクリックした。



 今まで縁のなかった驚愕の世界がそこに書かれているとも知らずに・・・。





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