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妻が『小説家になろう』で三文小説を投稿し始めてから半年が過ぎた。
ベッドに入った俺は、今夜もケータイでヤツの更新をチェックしていた。
現在『お気に入り』登録してるのは連載中の2作品『四六時中傍にいて』と『僕の全てを君に捧げる為のプレリュード』
ベタな少女趣味の作品だ。
出てくる男はイケメンばっかり、主人公は年中モテキ。
こんなんある訳ねーだろ。
グダグダ文句を言いながらも、更新は毎日チェックしてポイントは必ず入れてやる。
感想は、その時の状況を見て臨機応変といったところだ。
誰も感想書いてくれない作品には、仕方ないから何か書いてやる。
すると、次の日の夕食は俺の好きなものが出てくるというシナリオだ。
そんな事を繰り返しながら、早半年。
俺も全く成長していない。
寧ろ、この一連の作業は日課になってしまっていた。
正直言えば、ヤツの小説の更新を俺は楽しみに待つようになっていた。
最初はイタイタしい程に恥ずかしい作品ばっかりだったけど、連載も回数を重ねる度にレベルアップしていくのが分かる。
ヤツが首都高速で東京まで舞台挨拶に行くのは果てしない物語になりそうだが、小説の方は少しではあるが成長している気がした。
最初に無駄に長いタイトルの『僕の全てを君に捧げる為のプレリュード』をサクっと読んでから、俺は少しドキドキしながらもう一方の連載小説を開いた。
現在連載中の2作品の中でも、個人的に気になってるのが『四六時中傍にいて』の方だった。
何故なら・・・。
気のせいかもしれないけど、何となく主人公の女の恋人が俺っぽいのだ。
自意識過剰と言われればそれまでだが、何となく今回は確信があった。
初期のホモ小説で、ネコ役の男のモデルは俺だったとヤツにカミングアウトされた時は、正直、自覚はなかった。
でも今回、この小説に出てくる『朝霧奏』は絶対に俺だと、最初に読んだ時から直感があった。
小説の中のそいつは小柄な少年体型に、くせっ毛。
二重のデカイ目で洋風でバタ臭い顔立ち。
色白でか弱そうなのに、実は体は丈夫。
バカなので風邪もひいたこと無いのが自慢。
常に面倒臭そうに話し、時々キレる。
性格は横柄で、亭主関白。
なのに、外では引っ込み思案で女の子と話もできない。
よって、今までの人生でモテた事もない(悪かったな!)
ここまで読んだだけでかなり嫌なヤツだ。
もう俺しかいないだろ。
でなければ、この時点で全く魅力を感じないこのキャラを登場させる意味が分からない。
俺の事を書きたいんだろうか・・・?
やっぱり、あいつは少なからず俺を愛してるんだ。
でなければ、こんなにつまらない男を準主役に持ってくる必要性は全くない。
ニヤニヤしながら、俺は『四六時中傍にいて』の更新したページを開いた。
付き合い初めてからずっと「俺様」キャラで、乱暴で、口下手な彼氏、朝霧奏。
ある日、奏の職場の自動車組立工場(そこは俺の職場だ!)で待ち伏せしてた泣き虫キャラの主人公、風香ちゃん。
門で待ってた彼女を見るなり、奏は「そういうの、うぜぇよ」と言って泣かせてしまう。
「あたし、もう奏の事分かんない!あたしの気持ちなんか全然解ろうとしてくれないじゃない!」
本当は風香ちゃんの事が好きで、待っててくれたのも嬉しかったのに・・・。
それを上手く表現する方法が分からなくて立つ尽くす奏・・・。
歯痒いことに、昨日はそこで終わっていたのだ。
読者を引っ張りやがって・・・。
こんなとこで終わられたら、続きが楽しみで仕方ないだろ。
ヤツもアクセスを上げるポイントを掴んできたか。
まあ、成長したもんだ。
俺は奏が次に起こす行動が楽しみで仕方なかった。
何故なら、俺達はこういうやり取りの末に喧嘩した事が何度もあったからだ。
元来、ぶっきらぼうな俺は、今で言う「ツンデレ」の部類だが、付き合ってた当時はただの偉そうな「俺様」だった。
「あたし、南クンが何考えてるのか分かんない!」
何度、ヤツに言われた事だろう。
俺に言わせれば、常に何かを妄想しているヤツの脳内の方がよっぽど分からない。
多分、女の方が感情を口に出してやらないと不安になる生き物なんだろう。
とにかく、小説って書いてる人間の本性や願望が出る。
それはヤツの今までの作品にも顕著に表れていた。
きっと、アイツは俺にして欲しい事を、小説の中の奏にさせようとしてるんだ。
そう思うと、乙女ちっくなヤツが少しいじらしく思えてきた。
果たして。
俺がモデル(の筈)の朝霧奏。
彼は今回、驚愕の行動に出た。
「分かった。俺の全てを見せてやるよ」
そう言って、奏は風香ちゃんを自分の車に押し込むと、自宅マンションに強引に引き摺り込んだ。
突然の奏の行動にパニくる風香ちゃんの前で、奏はいきなり服を脱いで全裸になると、ネクタイを渡して言った。
「俺を縛って好きなようにしろよ。お前の気の済むまで貸切にしてやる!」
奏のまさかの行動に、呆気に取られて固まる風香ちゃん。
ケータイを握りしめたまま、俺も呆気に取られて硬直していた。