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 手に手を取って城を脱出したリゲルとロザリー姫だったが、国境まで来た時に彼女の方が「やっぱり行けない」と言い出した。

 責任感の強い姫に、戦争になるかもしれない両国から自分だけ亡命するなんてできる筈もなかったのだ。

 がっかりしたリゲルではあったが、姫がそう言い出すのは想定の範囲内だった。

 正直、この展開は俺も予想はしていたので、多分、読者の誰もがっかりしなかっただろう。

 二人は国境の森の中で今まで押し殺してきた思いをぶっちゃけ合い、この物語で最初で最後のR15性描写を経て、朝が来る頃にはお互いの国へ戻っていった。

 その時、姫は恐ろしい事をリゲルに約束させる。


「本当に戦争になった時には、いの一番に城を攻撃して自分を殺しに来るように」と。


 愛する彼に命を奪われる事こそ、ロザリー姫の願いだったのだ。

 やがて、姫の努力も虚しく両国は戦争を始め、籠城する姫の元にリゲルは約束を果たす為に向かった。

 燃えさかる城の中で再会した二人は、ようやく添い遂げる事ができたのだった・・・。


THE END



 こ、これで終わりかよ!?

 なんて救いのない物語なんだ・・・!


 読み終えた後、俺は悲しすぎて布団を抱き締めたまま号泣した。

 ヤツの単純な脳内から、どうやったらこんな可哀想な展開が構築されるのか。

 二人の命をかけた愛は、惰性で生きてる俺の心に染み込んだ。


 リゲルに比べて俺はなんて適当に仕事してるんだろう。

 命をかけた彼らのエッチに比べたら、そりゃ、俺なんかつまんないだろう。

 ヤツが求めるモノって、こういうドラマチックな『愛の証』的生殖行為なのか?

 だとしたら俺にはハードル高すぎる。

 コトが終わったら食い殺されるカマキリじゃあるまいし、毎回命がけでそんなコトしてられない。


 どうでもいい事も考えつつ、しばし余韻に浸って思う存分泣いた後、ティッシュで鼻をかみながら一度閉じたケータイを再び開いた。

 感動して泣いてる場合じゃない。

 俺の目的は小説を読む事じゃなくて、ヤツのテンションが上がるような感想を書く事なんだ。

 この俺を泣かすような小説を書くとは、ヤツはなかなかやるのかもしれない。

 昨日は心にも無いことを絞り出して書くのが非常に苦痛だったが、これなら少しは褒めてやれそうだ。


 そう思って、『小説家になろう』に再びログインした時、俺のマイページに赤い文字が書かれているのが見えた。

「書かれた感想が返信されました」とある。

 俺が『星屑綺羅々』として書いた感想は昨日が初めてであるので、返信してきたのは間違いなくヤツだ。

 このサイトにそんな機能があるなんて初めて知った。

 俺はドキドキしながら、その文字をクリックする。


 うわあ・・・!

 なんだろう、この高揚感!

 返事をくれたのが、さっき人のことをつまんないって言ったあの天然女だって分かってるのに、何でこんなに嬉しいんだ!?

 まるでラブレターの返事を貰ってウキウキしてる中学生だ。

今回のはまあまあ秀作だったとは言え、ヤツの正体は腐れホモ小説家・・・。

 分かっちゃいるのに、こうやって返事がくるとヤツが大先生に思えてくる・・・って、待て待て!!

 それじゃ俺が「マリリン先生」のファンみたいじゃねーかよ!?


 嬉しさに弾む心とそれを認めたくない心が俺の中で戦っていたが、ヤツの返信を読んだ時、そんな葛藤は吹き飛んでしまった。


・・・・・・・・・・・・・・・

 初めまして!

 感想ありがとうございます!

 一生懸命書いたので、綺羅々さんに楽しんで貰えてホントに嬉しいです。

 綺羅々さんの感想にすごいパワーをもらいました。

(思わず早起きして朝ご飯作っちゃいました;)

 これを励みに次回作も頑張りますね!

 これからもよろしくです!

 美波マリリン

・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ヤツの返信を読みながら、俺は柄にもなく穏やかな優しい気持ちになっていた。


 アイツは思い立ったら考えなしで、際限なくぶっ飛んで、一人で勝手に盛り上がっては、勝手に落ち込んでいくどうしようもない単純な女だ。

 でも。

 それでもヤツは頑張ってた。

 小説を書き始めてから、寝る間も惜しんでひたすら書き続けていた(俺のメシもなかったけど)。

 アイツが一生懸命書いてたのは、これ以上ないほどないがしろにされていた俺が一番知っている。

 無理やり絞り出した俺の感想だったけど、アイツは本当に嬉しかったんだ。

 たった一人の感想でも、アイツの全ての苦労はそれだけで報われたんだろう。

 きっと書いてるヤツにしか分からない、最大級のご褒美なんだろうな。


 残念ながら、俺には人の作品にケチはつけても、自分で物語を紡ぎだすことはできない。

 アイツの感じてる「書く楽しさ」を、俺は本当に理解することはできないんだろう。

 そう思うと、アイツが少し羨ましかった。


・・・なんて、いつまでも感傷に浸ってる場合じゃない。

 さっきの余韻が消えない内に、次の感想を書いてやらねば!

 ハタと我に返った俺は、既に完結している『As YOU WISH』のページをクリックする。

 そこで俺は信じられないものを見て、思わず目を疑った。


 最初に出てきた小説情報のページ。

 そこに、『書かれた感想』が5となってるではないか!

 俺以外にどんな奇特な人物がヤツの作品を読んでるんだ!?

 しかも、少なくとも5人はいるってことかよ。


 俺はどきどきしながら青い字で書かれた『感想』をクリックしてみた。


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