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『エッチ』


 それは遺伝子を後世に残そうとする生命体の生殖行為。

 本来の目的は、それ以上でもそれ以下でもない筈だ。


 その筈なのに・・・。


「つまんない」「ヘタクソ」「役立たず」等の言葉がこんなにも男の心に突き刺さるのは何故なんだろう・・・。



 妻がそそくさとキッチンを出て行った後、茫然自失となった俺は、しばらく妻を抱き締めた時の姿勢のまま硬直していた。


 妻は今朝からすこぶる機嫌が良かった。

 朝からメシを作ってくれて、弁当作ってくれて、風呂も入れてくれて、ビールまで用意してくれた。

 帰ってからも、始終にこやかにカレーの用意をしてくれた。

 だからこそ言える。

 機嫌が悪くて、俺に八つ当たりして吐いた暴言ではなかった。

 常日頃から思っている、悪意のない本音がポロっと出てしまったに過ぎないんだろう。


 だからこそ・・・。

 だからこそ、尚更、救いがねーじゃんか、それ!


 悪気もなく「つまんない」って言えるほど、俺のエッチに愛情を感じてなかったって事なのか?

 夫である俺との生殖行為は、昨日感想書いたホモ小説よりも価値がないってことなのか・・・?

 てか、真司のモデルは俺なんだろう?

 ヤツは小説の中で、真司に生産性のない生殖行為をさせてたってのに、リアル男の俺はつまんないってどーいう理屈だ?

 そりゃ、俺はそんなに女性経験が豊富でもないし、エロ本読んで日々研究するほど暇ではない。

 それでも最低ランクって訳でもない(筈)。

 あの女王様は生殖行為に何を求めていらっしゃるのか・・・。


 完全脱力した俺は、一人テーブルに向かって残りのジャワカレーに手をつけ始めた。

 こんな時でもジャワカレーはおいしい。

 さすがは世界のハウス食品だ。


 ただ今日のジャワカレーは、さわやかな大人の辛さよりも塩味がキツイぜ・・・。

 俺は熱くなる目頭を抑えながら、残りのカレーを口の中に掻き込んだ。



◇◇◇



 一人になったベッドの中で、俺は再びケータイを開いた。

 そして、既にブックマークしてある『小説家になろう』にアクセス。

 エロバナーが貼られたトップページが現れ、俺は早速ログインしてみた。

 すぐに『星屑綺羅々』のマイページが現れ、昨日お気に入り登録したホモ小説『紫陽花の咲く頃に』がそこにあった。

 もう二度と見たくもないが、渋々、その作品を開いてから作者『美波マリリン』をクリック。

 そしてようやく、俺はヤツのページに辿り着いた。


 何故にお気に入りユーザー登録しないかというと、システム上、俺が登録すれば向こうからも分かってしまうのだ。

 絶対にバレたらマズイ俺は、感想やポイントは入れつつも、ヤツとの直接的なやり取りは極力避けたかった。


 ヤツの言ってた通り、そこには完結したばかりの連載小説があった。

 タイトルは『As you wish』

 なんだ、そりゃ?


 偉そうにイングリッシュできやがったな。

 基本的に頭が悪い上に、どちらかというと理系の俺には、この時点で意味不明だ。

 あのヤロウ、知ったかぶりしやがって。

 自分だってグーグル翻訳サイトか、yahoo知恵袋で調べたに決まっている。

 こんなんだからアクセス増えないんだ。

 世の中には英語のタイトル見ただけで「ケッ!」って思うヤツだっている筈だ。

 この俺みたいに。

 万人にアクセスして欲しけりゃ、タイトルくらい日本語で書きやがれ!


 なんて、自分のガクの無さを棚に上げてブツブツ文句を言いながら、俺は昨日と同様にあらすじに目を通した。

 同じ失敗は繰り返したくない。

 感想書くにも、モノには限度ってものがある。

 あらすじ見て「これは無理!」って思ったらもう読むのは諦めよう。

 少なくとも、ノーマルなものじゃないと正常な俺の体は拒否反応を起こすのだ。

 昨日、体中が痒くなったのを思い出しながら、俺は見てはいけない危険物を覗き見するかのようにチラチラとあらすじを読み始めた。


『ファンタージェン王国の姫、ロザリー。美貌の姫と謳われた彼女が密かに思いを寄せるのは、子供の頃から彼女の護衛を努めてきた剣士、リゲルだった。身分の違い故に思いを伝える事ができないまま、17歳になったロザリーに結婚の話が持ち上がり・・・?』


 なんじゃ、こりゃ?

 俺は思わず鼻で嗤ってしまった。

 ヤツの脳内が腐ってるのは了承済みだが、まさかファンタジーでくるとは思ってなかった。

 いい年して、何がお姫様に剣士だ。

 大体、ファンタージェン王国ってどっかで聞いたことあるぞ。

 てか、この話そのものがどっかで聞いたことある鉄板ストーリーだ。

 あれは確か、子供の頃にテレビでやってたフランス革命の少女マンガ!

 王道過ぎて笑えてくるぜ。


 大方、この剣士も実は姫の事が好きだったんだけど、自分は下働きのガードマンだからってじっと耐え忍んでたんだろう。

 読む前からもう結末が分かっちまった。

 流行んねえんだよ、身分違いの恋とかって。

 昭和の少女マンガじゃないんだから。

 でも、姫x剣士の鉄板カップリングはともかく、少なくとも男x女の正常カップルだとは言える。

 昨日に比べたらまだ見られるモンには違いない。


 一日だけ感想書いてもう見放されたら、さすがのアイツもガッカリするだろう。

 夫として、せめてもう一日くらいポイント入れてやらなければ・・・なんてのは、大義名分だ。

 その時、俺は既に復讐モードに入っていた。


 人のコトをつまんないとか言いやがって。

 お前の三文小説がどんだけマシなのか、この目で見てから笑ってやる!


『本文を読む』を俺はワクワクしながらクリックした。






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