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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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「たかが、キスくらい浮気じゃない」と言っていた婚約者が死にました。たかがキスで。

作者: Ash
掲載日:2026/07/02

「たかが、キスくらい浮気じゃない」


 浮気相手とのキスを責めたら、婚約者はそう言いました。


「たかが、キスくらい浮気じゃない」


 母に婚約者の浮気を言ったら、婚約者と同じ言葉を言われました。


「たかが、キスくらい浮気じゃない」


 婚約解消して欲しい、と父に言いましたが、駄目でした。

 そうです。

 この国は妻や婚約者以外とのキスを見られても、不貞とは見做されない国でした。

 何なら、純潔を失っていても、不貞とは見做されないんです。

 某夫人は夫が愛人を優先して、『女として魅力がない』『あの二人のほうがお似合いだ』と嘲笑されているくらいです。

 男も女もモテるのは当たり前で、不貞をしないのはモテない野暮ったい奴、そんなことを言われている始末。

 まあ、一晩に何人と寝れたかを競う人もいるそうですし、そういう国なので、人前でのキスくらい浮気にもならないんでしょうね。

 そういう国なので、私の主張は受け入れてもらえませんでした。

 お隣りの国なら、人前のキスは既成事実になって婚約解消にもなったんでしょうが、生まれた国が悪かったです。

 それでも、国力があることが、この国を文明国として認めさせていました。

 国力があるので、役人は給与支払いが滞っていても、不敬罪や叛逆罪を恐れて、文句も言えず無給で働いています。

 愛人を優先させる公爵のいた某国など、蛮族の国呼ばわりされて、不平等条約を結ばされる結果になったそうです。

 それを噂していた人々によると、その国はこの国の基準では伯爵家程度の国力しかなかったとか。

 国力とは、黒を白に変えることができるものらしいです。

 子どもさえ生まれなければ不貞にならない国。

 でも、私には合いませんでした。

 あの浮気男と結婚するしかないのか、と鬱々とした日々を送っていたある日、あの男はいつものように目の前でキスをして、喉を掻きむしりはじめました。

 そして、苦しんでいるところを運ばれていきました。

 毒でも盛られたのでしょうか?

 心配するよりも、これで浮気男から解放されるのでは、という期待のほうが大きかったです。

 翌日、浮気男が死んだと聞かされました。

 死因は蕎麦アレルギー。

 あの浮気相手は蕎麦粉を使った物を食べていたそうです。


 たかが、キス一つ。

 されど、キス一つ。

 「たかが、キスくらい浮気じゃない」、そう言っていた婚約者は浮気相手とのキスで死にました。

 死ぬとわかっていたら、キスをしたでしょうか?

 死ぬとわかっていても、あの浮気男はキスをしたでしょう。たかが、キス一つで死ぬとは信じずに。

 私はキスを既成事実と見る国に嫁ぎました。

 自分たちを支える役人たちの給与よりも、本人たちにしかわからない粋な生活を優先した王侯貴族たちも、怒れる民衆の革命によって命を失ったそうです。


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― 新着の感想 ―
疑問なんですが、そういう考えが常識の国なのに何故そんな『異端』な考えの主人公が生まれてしまったんでしょうか 親も(その国の基準で)常識人のようですし、主人公に(その国基準で)非常識な考えを持たせるよう…
ピーナッツバターサンドを食べた後恋人とキスして恋人をアナフィラキシーショックで死なせた人の話思い出した
「たかがキス」という言葉を何度も突きつけられ、傷つくことさえ諦めていく語り手の静けさが胸に残りました。婚約者の死にも大きく取り乱せないほど想いが燃え尽きていたことが伝わり、価値観の違いが人の心を少しず…
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