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第四話

第四話

  7年後。10歳となった俺は、日本の魔導教育の最高峰であり、国家中枢への登竜門――『東京魔法初等学校』の正門前にいた。

「ジョセフちゃーん! 頑張ってねー! お弁当に、お母さん特製の『超新星爆発スーパーノヴァのエネルギーを圧縮した卵焼き』と、『絶対零度で保存したダークマターのおにぎり』を入れといたから!」

「桜子ォオオ! 息子の初めての試験にブラックホールを持たせるな! 校舎が消滅するだろ!! ジョセフ、お父さんがまともな鮭のおにぎりを作ったから、お母さんのは絶対に開けるなよ! 絶対だぞ!」

 今朝の玄関先での、相変わらずトチ狂った母と、半狂乱でツッコミを入れる父の姿。

 俺は、あたたかい鮭のおにぎりが入ったリュックの紐を、強く握りしめた。

 ――10年後に迫る破滅の元凶、統合魔導AI。

 そのシステム中枢へアクセスする特権を得るための、これが唯一の道だ。俺は必ず、トップの成績でこの特別早期入学枠を勝ち取らなければならない。

 試験会場となる巨大なコロシアムには、空間を陽炎のように歪ませるほど濃密な魔力を無意識に垂れ流す、同年代の「神童」たちがひしめき合っていた。

『実技試験課題:模擬迷宮ダンジョンにおける魔導獣の討伐。本試験は【二人一組バディ】で行うものとする』

 AIによる無慈悲な最適化マッチングで、ホログラム・モニターに俺の名前とペアの相手が表示される。

『受験番号001番:ジョセフ・ローレンドルフ』

『受験番号077番:レア』

 待機エリアへ向かうと、そこには一人の少女が立っていた。

「あなたが、私のバディね? 待っていたわ、ジョセフ!」

 振り返った彼女を見て、俺は絶句した。

 透き通るような金糸の髪。意志の強そうなエメラルドの瞳。

 だが、機能性を極めた最新鋭の魔導スーツを着込む受験生たちの中で、彼女は一人だけ、ピンク色のフリルが過剰にあしらわれたドレスを着ていた。手には、どう見てもプラスチック製のおもちゃのステッキ。

「ふふん! 驚くのも無理はないわ」

 少女はバサァッ! と無駄にスタイリッシュなポーズを決め、ステッキを天に掲げた。

「ええ、そうよ! 私は魔法なんてこれっぽっちも使えないわ!」

 無茶苦茶だ。俺の母に匹敵するレベルの、論理を超越した狂気。

 しかし、彼女のその真っ直ぐで淀みのないエメラルドの瞳を見た瞬間。

 俺の脳裏に、あの前世の記憶――業火に焼かれた花畑で、「それでも、生きて」と泣き笑いを見せた『君』の面影が、強烈にフラッシュバックした。あと、よくセミになりきったりしてふざけていた君の何とも言えない顔も、今のふざけたレアの姿に、どこか重なって見えた。

 ーー『例え、自分の中の世界の全てが、敵になったとしても』

 なぜだ。なぜ、魔力を持たないこの少女から、世界と運命に抗おうとする強烈な意思を感じるのか。

 俺が混乱する中、無慈悲なAIのアナウンスが迷宮へのゲートの開放を告げた。重厚な扉が地響きを立てて開き、内部から人工的に生成された魔導獣の悍ましい咆哮が響き渡る。

「行くわよ、ジョセフ! 私が前衛で囮になるから、あなたが後ろからドカンとやっちゃって!」

 レアはプラスチックのおもちゃのステッキを構え、一切の魔力を持たない華奢な体で、迷宮の暗闇へと真っ先に駆け出していった。

 俺は、彼女の小さな背中を見つめた。

 魔法がすべてを支配するこの世界で、魔法を持たずに魔法少女を名乗る、異端の存在。

 だが、俺のやるべきことは変わらない。

 誰が相手でも、どんな理不尽が立ちはだかろうとも、俺は必ず最深部へと辿り着く。

「……終わってたまるか。俺は、君を殺すんだからな」

 俺は、前世の血の誓いを低く呟き、そして、現代の両親から貰った温かいおにぎりの入ったリュックを背負い直した。

 極東の魔導国家、AIによる破滅のカウントダウン、狂った愛の日常、そして魔法を使えないうえに、なんかるんるんに鼻歌とかしたり、スキップとかしちゃったりして、迷宮に入っていく魔法少女。

 あ。

 あいつ〜、迷宮の入り口でつまずいて、こけてるじゃん。あ〜、言わんこっちゃない。こんなところで、るんるんと心を躍らせて、ホップ・ステップするからだぞ〜。

 心配だな〜。なんかあいつのことと、俺のことが。

 ーーまあ、でも。やることは変わらないか。

 俺は心のなかで呟くと、すべての運命が交錯する迷宮へと、10歳の俺は、静かに足を踏み入れた。


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