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3X.XXXX, 14X.XXXX(男、屋根の上)

作者: 豆苗4

【閲覧に関するご注意】

本稿には東日本大震災における津波の描写が含まれています。当時の記憶を呼び起こし、強い不安や苦痛を感じる可能性のある方は、閲覧をお控えいただくか、十分にご注意ください。

 画面は手持ちカメラの微細な振動で揺れ続けている。解像度は低く、彩度は泥水の色に塗りつぶされている。 重く垂れ込めた鉛色の空と、家屋の残骸を噛み砕きながら突き進む濁流。その境界は、激しく舞い上がる飛沫と噴霧によって攪拌され、一枚の汚れた膜のように同化している。画面中央から左にかけて、黒い塊となった水が家々を飲み込み、時折、車や木材が波頭に浮き沈みしながら高速で通り過ぎる。 低い地鳴りのような音が、絶え間なくマイクを叩いている。


 画面右端、一軒の瓦屋根の上に、一人の男が座り込んでいる。水位はすでに屋根の軒先を隠し、瓦の二段目、三段目へと達している。風は一定の方向から吹き続け、男の濡れた作業着の裾を、不規則な周期で叩きつけている。


 男が右手を胸元に入れる。 視線は手元に落とされたままだ。水を含んで変形した紙箱を取り出し、指先で一本のタバコを抜き取る。男はそれを唇に挟み、顎を引いて固定する。


 次に、ライターを掌の中に握り込む。 彼は体をわずかに前に倒し、肩を丸めることで、正面から来る風の通り道に壁を作る。


 親指の付け根が動く。シャッ。 火花が散るが、火は立ち上がらない。


シャッ。


 三度目の操作で、小さな橙色の炎が男の顔を照らす。風に煽られた炎は、男の指を焼くかのように激しく形を変えるが、彼は手を動かさない。 そのままタバコの先端を炎の中に入れ、深く吸い込む。


 タバコの先端が、一点だけ鮮やかな赤色に変わる。 紙が燃え進み、灰の境界線が数ミリ移動する。


 男はライターを閉じる。 カチン、という短い音が、低い破壊音の隙間に落ちる。


 直後、男の口元から白い煙が吐き出される。煙は男の顔をなぞるように一瞬だけ留まり、次の瞬間、風によって引き裂かれ、画面外へと消失する。


 男は顔を上げた。


 足元を舐める水位、背後の濁流、崩れる家屋。ただ、どこまでも広がる濁りの中へ、その眼差しを投げ出していた。

【参考・着想】

本稿の内容は、以下のコメントより着想を得て構成いたしました。

参考動画:歴史愛 様『タバコ-戦局を変えた静かな武器』

https://www.youtube.com/watch?v=8lvV1Nz9Rl4

参考コメント:@keigo5555555 様

「東日本大震災で残された映像を思い出す

今にも津波に飲み込まれそうになっているおじさんが諦めてタバコに火をつけて一服していた

愛煙家にとってタバコを咥えて火をつけるその儀式は生きていることそのものなんだ」

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