ショートコント
〈上空や何処もグレイの冬の街 涙次〉
【ⅰ】
* 嘗ての謝遷姫のやうに、牧野旧崇は「龍」に跨つた... 安保さんの「トランス藥」と副作用止めを嚥み(前回參照)、體内の「龍」を吐き出した牧野は、自由自在に「龍」を操つてみせた。牧野と「龍」に課せられた主なミッションは、カンテラの腕が鈍らないやう、實戰訓練の相手になる事。丁々発止の末、いつも通りミッションはカンテラと「龍」の「分ケ」に終はつた。牧野の情婦・尊子は初めて牧野の仕事場に招かれ、一汗掻いたその男つぷりをとくと観た。牧野にはぞつこんの尊子、惚れ直しである。その尊子が恥づかしさうに云ふ。「あんた、あたし逹、もういゝんぢやないかしら」-結婚、と云ふ事だつた。牧野、プロポーズは男の仕事と思つてゐたので、こちらも自分を恥ぢた。だが、表向きは磊落に、「もうそんな時期かねえ」と相好を崩し、牧野、逸る心が収まらない。
* 當該シリーズ第93話參照。
【ⅱ】
結局2人は、挙式の式次第は(仲人道樂の)安保さん・佐武ちやんに任せる事にした。そんな男くさい牧野、もう一人の女が實は彼に惚れ込んでゐたのである。それは、カンテラvs.「龍」の對決を水晶玉で観てゐた、魔界新盟主・果野睦夢である。「祭壇」役はならずとも、傍に置いておきたい男だ、と睦夢は思つた。彼女は決して、童貞・美少年狙ひの「ショタコン」ではなかつた。
【ⅲ】
牧野と尊子は、カンテラに一禮すると、散歩に出た。冬枯れの武藏野、雜木林。と、牧野が見せた隙、一瞬の隙に乘じて、睦夢配下の【魔】が彼を拘留した。尊子「カンテラさん、大變です! うちのフルが-」-色めき立つカンテラ・じろさん。だが一人テオだけは落ち着いてゐた。テオに牧野は、テレパシーで「なに、安保先生の藥を持つてゐるから、大丈夫だよ」と云つてきたのである。「フルくんと『龍』だから、安心ですよ。寧ろ彼ら、何かやらかしてくれるんぢやないかな」とテオ。
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〈ジャンキーは冬の寒さを知らぬげに袖捲り上げ注射痕誇示 平手みき〉
【ⅳ】
さて、「もう一つの」魔界。賢明な讀者なら、この「新魔界」が、鰐革Jr.の「思念」で出來てゐる事を、ご記憶下さつてゐるだらう。「龍」は、「思念」などゝ云ふ不確定的なものは大嫌ひだつた。「ふる、我ガ暴レテモ良イカ?」-牧野、「いゝよ、思ふ存分やりな」。で、「龍」が新魔界それ自體を、Jr.の「思念」もろともばりばり齧み砕いてしまつた。牧野と「龍」、それだけ濟ますと、人間界に帰つて來た。胸を撫で下ろす尊子。
【ⅴ】
で、居場處であり生き甲斐である「新魔界」を喪つて裸一貫になつた睦夢、思ひ余つてカンテラ事務所・相談室の客になつた。「カンテラさま、わたしを一味で働かせて下さい。雜用でも文句は云ひません」-カンテラ「それはだうかな、あんたにはまだルシフェル程の妖力はない。實戰で役立つ人物しか、俺逹は求人してゐない。それにあんた、直ぐに叛逆事件を起こすだらうしさ」
【ⅵ】
ロボット番犬タロウに盛大に吠えられつゝ、とぼとぼと居場處探しの旅に出る睦夢。旅、と云へば、牧野と尊子のカップル、平和に挙式を挙げて、ハネムーンに旅立つて行つた。「龍」は事務所のポーチで一人お留守番。「我ニハ他人ノ新婚初夜ヲ覗ク趣味ハナイ」。さてさて、睦夢は水泡に帰した「新魔界」と共に、だう動くのか- それは今後のお樂しみ、である。お仕舞ひ。
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〈凩の翌朝「龍」の幻想あり 涙次〉




