確変じゃないけど、ちょっと揺れた
その夜、ひかりは珍しく眠れなかった。
ベッドはひとつだけ。だからいつもは流星が床に布団を敷いて寝ていた。
でも今日は、部屋のヒーターが壊れていた。床、ガチで冷蔵庫並み。
「なあ、ひかり」
「ん?」
「……ベッド、一緒でもいい?」
「……寒いもんね」
「うん」
言葉よりも、間が気まずかった。
でも、ひかりは黙って布団の端を持ち上げた。
「変なことしたら蹴るからね」
「いや、マジで寝るだけだから」
「ホストのくせに」
「俺、そういうの、下手なんだよ。口だけのホストでさ、客に触れるのも怖いくらいで」
「……意外」
「ひかりには、触りたくないわけじゃない。逆に、壊しそうで怖いんだよ」
静かになった。布団の中、肩が触れるか触れないかの距離。
心臓の音がやたらうるさく感じる。
「じゃあ、壊さないでいてくれる?」
「うん、約束する」
「なら、もう少しだけ近づいてもいいよ」
その一言で、流星はほんの少しだけ体を寄せた。
触れたのは、肩と肩。
でも、それだけでひかりは少し安心した。
久しぶりに、人に守られてる気がした。
目を閉じる直前、ひかりがぽつりと言った。
「ねぇ、運ってさ、確率だけどさ。ふたりでいれば、ちょっとくらい確変くるかな」
「来るといいな。……それが恋だったら、なおさら」
その夜、ふたりは手も繋がずに、同じ夢を見た気がした。