ハズレの毎日、たまに当たり
流星の部屋は、六畳のワンルーム。
風呂なし。トイレ共同。壁が薄くて、隣の怒鳴り声がBGMみたいに響く。
でも、ひかりにとっては天国だった。雨風しのげて、冷蔵庫には賞味期限ギリギリの半額弁当がある。
「これ、昨日の唐揚げ。レンチンしてないけど、いけるっしょ」
「余裕。屋上でカップラーメン食ってた日よりマシ」
流星はホストをしているけど、ナンバーにも入ってないし、酒も弱い。
「営業中に吐いたら、お客さんドン引きで帰った」って笑って話す姿が、なぜか嫌いじゃなかった。
「ひかりって、なんで家出したん?」
「親が再婚して、新しい父親がクソで」
「殴るとか?」
「殴られるより、触られるほうがキツかったかな」
「……ごめん、変なこと聞いた」
「いーよ、もう慣れてるし」
流星は黙って、煙草に火をつけた。
この部屋では吸えないから、わざわざ窓を開けて外に煙を逃がす。
そういうところだけ、妙にやさしかった。
「運、良くなりたいよな」
「うん。でも、運ってさ、誰かと一緒にいると変わる気しない?」
「……どうだろ。ひかりといると、今のとこまだ全部負けてるけど」
「じゃあ、今日こそ当てようよ。2人で」
「行くか。新台入替の日だし」
その日、ふたりで並んだのはいつものパチ屋。
流星は「牙狼」、ひかりは「沖ドキ」。どっちも荒れる台だ。
数時間後――
結果、流星:-28,000円、ひかり:+3,500円。
「勝ったー!」
「嘘だろ!?」
「ほら、運、移ったかもよ?」
「いやいや、それは俺の運が吸われた説だろ」
笑いながらパチ屋を出るふたり。
風が冷たかったけど、なんだか心は少しだけ、温かかった。
そして、流星はこのとき初めて気づいた。
この子が笑うと、自分の胸のどこかが、ふっと軽くなることに。