7話 水族館で…
〈登場人物〉
空閑 奈津女20歳
神楽 咲玖 170歳
水族館に行った、奈津女と咲玖。
この2人はそれぞれ言葉足らずで誤解を生んでしまっていた。
(どう話を切り出した方がいいのでしょう……)
奈津女が少し考えていると、隣から無邪気さがあふれ出る、小さな声が聞こえてきた。
「すごい。魚がたくさん…!初めて来た」
咲玖はこの水族館に入るまでずっと顔をタオルで隠していた。
そのためか、奈津女の目には無邪気な顔を出した咲玖から、とても今まで感じたことのない胸の高鳴りを感じた。
「――そういえば」
そう話を始める奈津女。
そして、いつもの大人し気な顔に戻った咲玖は奈津女の方を向く。
「咲玖さんって今日、ずっとタオル掛けてましたよね。会った時から。どうしてですか?」
「ただの日光防止」
「タオル一枚で⁉」
奈津女は思わず、敬語が外れていた事に後から気が付いた。
「あ…すみまs」
なぜだか一番最初に謝罪の言葉が出てきた奈津女は、謝ろうとするも、咲玖がそれを遮る。
「敬語なし……いいね」
そう笑って見せた。咲玖が笑う。
初めて会った日も、一切笑わず。
今日も南と来た時から笑わなかった。
そんな咲玖に伝える言葉は一つしか思い浮かばなかった奈津女は考えるよりも先に口に出していた。
「咲玖さんの笑顔…いいですね」
そう言ったとたん、奈津女は照れ隠しのように水槽に目を向けた。
次は咲玖が歩きながら話し始める。
奈津女はそれを立ち止まって聞いていた。
「さっきは、ごめん。ちょっと朝は苦手で。その疲れと人間の多さで参ってたんだ」
「こちらこそ。わざわざ息抜きに行く程疲れているところをお見せしてしまっていて……」
「じゃあ」
そう言って、咲玖は振り向きざまに奈津女に向かってこう伝えた。
その顔は嬉しそうに微笑んでいた。
「お互い様。だね」
そうして、正面を向き他の水槽を見に行った。
奈津女はそんな咲玖の後を顔を赤らめながらついて行く。
「ところで、タオルの話に戻るのですが、本当にタオル一枚で日光って避けられるんですか?」
「まぁ。長袖長ズボンは必須だけど、一番弱いのは顔だから、それ以外は少し痛痒い程度」
「――顔に当たるとどうなってしまうのですか?」
やはり、好奇心がそそる奈津女は質問をした。
すると、咲玖は前髪を上げて左側の生え際を指さす。
そこには火傷の跡のようなものがあった。
「小さいころ。カーテンを間違って開けて、日光に当たった時にできた傷。
その時身長が低かったからこのぐらいですんだんだけど、〈もし今の身長だったら……〉って
南に教えられた」
そうして、前髪を持っていた手を離し顔を振る。
すると、前髪がいつもの垂れ流しに戻った。
「そうだったんですね。タオルは気に入ったものとかを使っているんですか?」
「いや。そこらへんにある普通のタオル」
あまりにも、落ち着いた声色で言われたためか、奈津女は自然と笑顔になった。
そうして、ふとこの言葉が頭をよぎった。
「私と出会ってくれてありがとうございます」
小声でそう咲玖に伝えた。
咲玖本人には届いていない。
だが、そのぐらいが今の奈津女には丁度良かったのだった。
そんなこんなで、水族館組は水槽を眺めたり、ときに笑ったりの楽しい時間を過ごした。
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20分後。
水族館を一通り見たためそろそろショッピング組と合流することになった。
☆ナツ☆:集合場所は1階のサービスカウンター付近でヨロ!既読3
ルインには由梨からそう書かれていた。
「じゃあ行きましょうか」
そう言って、奈津女と咲玖はエレベーターに乗りこんだ。
題名に『…』が付いている話は短くなりやすいのですがご了承ください。
咲玖と奈津女の距離が少しだけ短くなった瞬間でした。
今回も読んで頂きありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ