15話 宴(後半)
〈登場人物〉
空閑 奈津女20歳
?? 由梨 26歳
九十九 南 ?歳
神楽 咲玖 170歳
死神 デス ??歳
夜中の1時30分。
缶ビールも全員のみ終わった頃あだ名付け大会も後半戦へと差し掛かっていた。
「よし。じゃあ続いて、南さんと行きましょうか」
「じゃあ、俺も昔からの呼び方なので変えずに、南で行こうと思う」
(普段静かな咲玖さ…咲玖も酒が回ってきたかなぁ~)
そうクスっと笑う南の隣で、奈津女が口を開いた。
「私は、南さんの事はどうしても南さんと呼び続けたいので、このままでもいいですか?」
そう言って南の方を見つめる奈津女。姿勢のせいか、少しだけ奈津女が上目遣い状態になっている。
それに気づいた南はあえて目を逸らしながら、
「別に大丈夫だよ。自分も奈津女さんって呼ぶし丁度いいかも」
その間、南の方を少し睨む存在に、南しか気づいていなかった。その目線とは咲玖の事で、南は心の中で…
(咲玖様。これに関しては不可抗力で、自分は被害者ですからね)
そう自分に言い聞かせながら南はやり過ごした。由梨は1人でお酒の入った紙コップを片手に恥ずかしそうに持っている。その姿に気づいた南は由梨に自分のあだ名を聞く。
「由梨さんは自分のあだ名。考えてくれた?」
「あ。うん。南さんの事…みなみんとかって呼んでもいい?」
「!もちろん」
南は目を輝かせながら嬉しそうにそう答えた。咲玖も奈津女も今までの呼び方と変わっていなかったからか、とてもうれしく感じたのだ。
そうこうしていると、奈津女がウトウトとしだした。
「・・・」
「奈津女。眠かったら布団まで連れて行こうか?」
そう由梨が聞いても首を横に振るだけでなんとも言わない。
それに対して、自分が正座をしてその足をトントンと示すと、何かを理解した奈津女はそのまま、由梨に膝枕をしてもらった。
「優しいね由梨さんは」
南がそう言うと、由梨は照れ隠しか、奈津女の頭を撫でる。すると、奈津女は眠ってしまった。
「寝た?」
咲玖が由梨に聞くと由梨はコクリと頷く。すると、咲玖が由梨に質問をする。
「隠してるように話さなかったから、俺も聞かなかったけど。由梨さんって、奈津女と同じ血だろ」
「!」
由梨は咲玖をハッとした目で見つめる。すると、由梨は一瞬下を向いたがその後すぐに咲玖の方を向くと、
「そうだよ。奈津女はウチの妹。」
「詳しく聞いてもいい?」
その話に食い気味に聞いてきたのは、以外にも南だった。
「・・・ウチと奈津女って6つ離れててさ、この子は覚えてないかもしれないんだけどウチが9歳の時に空閑財閥って2つに分かれちゃったんだ。だから、社長の父さんは奈津女を引き取って、今の事業について。社長代理だった母さんはウチを引き取ってもう1つの事業を始めてる。でも、あの子は3歳の時の話だし、覚えてないと思うんだけどね」
そう言って薄っすらとほほ笑んだ由梨。
それを聞いた2人は、申し訳なさそうにそっぽを向く。
「スマン。嫌な事聞いたな」
そう咲玖が謝ると、由梨は笑顔で答えた。
「気にしないで!でも、今さら思い出して奈津女を悲しませないように話してないだけ。だから、できる限りこの事は秘密で」
そう頼むと、南が
「任せて!」
と言ってグッドポーズをする。そして、本題のあだ名について話す。
「ところで、ウチのあだ名どうする?」
「じゃあ自分は、由梨だから。ユーさんとでも呼ぼうかな?」
「了解!咲玖は?」
「呼び捨てで~」
そう言って、全員のあだ名が決まった。ノートを置くと自分のお酒の入ったコップを持ち、それを全て飲んでしまった。咲玖と南はあっけに取られていた。すると、どこからか声が聞こえてきた
「ヒャッ」
咲玖が不審に思い、ワープをして、その声の方に近寄ると、そこにいたのは…
「お。主2号じゃん」
「ハァ⁉」
咲玖は思わず声を上げる。そこにいたのは体育座りでうずくまっているデスだった。
「なにが居ました?咲玖様~」
そう南が聞くと、少し離れた所から大きめな声で、
「死神がいたぞ!」
「え?」
すると、座っていたデスはゆっくりと立ち上がり、自分に着いた砂埃をはらった。
そのあと、咲玖の方を見る。咲玖は身構えていたが、何かに気づいた南が声を出した。
「咲玖様。多分今のソイツ。無害」
「はぁ?」
すると、デスはゆっくりとこちらへと歩いてきた。
「いやぁ~南にはバレちゃったか~驚かせようとしたんだけどね~」
「デス。お前今、死神の仕事は休みなのか?」
そう聞いていた。頭で考えた言葉じゃない。ただただ、どこか懐かしい気持ちになった南の独り言だった。すると、デスは、ニッコっと笑うと
「俺みたいな死神に休みなんてないよ」
と、少し低いトーンで言っていた。だが、すぐにいつものトーンに戻ると
「いやぁ~僕も久しぶりに南と酒飲みたいなぁって思っただけだよ~いいでしょ。今日は休戦って事でさ」
「・・・はぁ。いいよ」
「エ?」
由梨からすれば何が何だかな、この数秒間。慌てている由梨に気を使ってか、咲玖が南に視線を送る。
「・・・あ。ユーさん。まぁ今の状況を簡単にいうと、あいつ。死神は今魔力って言う『力』みがたいなのが無い状態なんだよね。だから、一緒に酒を飲もうって感じ。ああ見えて、アイツ酒強いから由梨さんと気が合うんじゃないかな?」
そう、由梨と同じぐらいの目線で話してくれた南。デスはお構いなしに近くに寄ってきた。そして、辺りをキョロキョロと見た後、首をかしげる。
「あの、可愛い人は?」
「ナツはここだよ」
サラッと奈津女の事を指さす由梨。おいと言わんばかりに守ろうとする咲玖。
(うわ。ワープしてきた。近くで見るとホント早いな)
そう考えていると、そんな咲玖の目の前に立ち、ムスッと眉間にしわを寄せるデス。すると、
「主2号は可愛い子の何?」
そう聞いたのだった。すると、咲玖はムスッとした顔で
「主2号って呼ぶな。俺はまだ奈津女の友達だけど…」
「じゃあ、」
そう言って咲玖の顔を下からのぞき込むデス。
「まだ、お前のものじゃ無いだろ」
そう言って姿勢を戻し、咲玖のすぐ横を通って、奈津女の顔を見るために屈む。
「なつめって言うの?ほんときれいな顔してるよね。でも、お酒に弱いんだぁ~可愛いね~」
「それな~」
そう言って由梨とノホホンとしている。
一方咲玖はああやって言われたことが悔しかったからか、南の服を掴み、半泣きの状態だ。
(あぁ。咲玖様お酒も相まって泣き虫バージョンだ~)
「咲玖様。デスはああいうやつですよ」
「・・あう」
「?」
そうして、咲玖の顔を見ようとする南。見てみると、悔しそうな顔で
「アイツよりも先に奈津女を取る!」
そう言っていた。南はそんな姿に驚きながら咲玖の頭を優しく撫でた。
「取るって奈津女さんは物じゃないですよ。でも、頑張ってください」
(こんなに悔しそうな咲玖様初めて見た。これは、咲玖様の成長にいい機会かもしれませんね)
――ここの間の話は、別のタイミングで書きたいと思います――
そうして、朝日も昇り始める4時過ぎ。
「じゃあ僕はそろそろ帰るね。じゃあまたね」
そう言って、暗い夜空の方へと消えていった。
奈津女をおんぶしながら咲玖はその夜空を睨んでいた。
「まぁまぁ」
そう言いながら、由梨と咲玖は歩いて屋上から消えていった。残った南は、デスの消えた夜空を見つめながらお酒を一杯飲んでいた。
今回は少し長めになりました。
南の1人で酒を飲むシーンは珠雷お気に入りです
今回も読んで頂きありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ