12話 急すぎるお泊り会
〈登場人物〉
空閑 奈津女20歳
?? 由梨 26歳
神楽 咲玖 170歳
仕事を休んだ奈津女は、そのまま急なお泊り会に出席することになった。
「布団は俺の部屋の中にある物を使ってくれ。
この館、ほぼ毎日南が掃除してるから潔癖じゃなければ泊まれると思うよ」
そう言って、2人を案内する咲玖。
「1人で⁉この館。めっちゃ広いのに!」
すると、咲玖は少し申し訳なさそうな声で、
「まぁ、あんま手伝うことは無いな。今考えたらありがたいことだってよくわかるな」
そう言って、そのままあの図書室を通り過ぎた。
そして、何かを思い出す奈津女。
「――でも、咲玖さんが一番広いこの部屋の掃除をしているんですよね?」
「え?」
奈津女が指をさす部屋。図書室は南が教えてくれた。
〈すごいでしょ。この部屋だけは主が週に3回は掃除をして、清潔にしてるんだ〉2話参照
そして、ここからは奈津女が家の構造をイメージして、部屋の位置、面積、を計算した結果。
この、咲玖の部屋が一番広いという結論に至ったのだった。
「あぁ、ここね。多分奈津女さんの言う通り一番広いよ。よくわかったね」
「あ、いえ。ただ、この館の構造を理解しよとしたときに分かっただけですので……」
そうして、奈津女は珍しく照れていた。
(あ、もしかして……奈津女。咲玖さんのこと好き⁉あの恋愛と無縁そうな奈津女が……ね)
この時、やっと理解した由梨は奈津女をへぇーと言いたげな眼で見つめていたのだった。
(変な目線を感じるような……気のせいという事にしておきましょう。ところで)
「咲玖さん。私たち2人同じ部屋がいいのですが、お願いできますか?」
「あ、それで逆にいいなら」
「ウチも賛成~」
「じゃあ、この部屋でいいか?何かあったら、俺の部屋とも近いし、すぐに駆け付けられるから」
すると、奈津女は驚いた目で部屋を見る。
「これが一つの部屋ですか……アパートの一室分ぐらいありませんか?」
「そ、そーだね……広ッッいね」
目の前にある部屋は本当に一室か⁉
と疑いたくなるような広さで、由梨も奈津女も口をあけて立ち尽くす。
(だから、想像の中の部屋の数が実際の数よりも少ない訳ですよね……
こんだけ広かったら計算も狂いますね)
「あ、布団?ありがと」
奈津女が計算をし直そうとすると、背後で由梨が咲玖から布団をもらっていた。
「正直寝袋かなとか思ってたのにちゃんとしてる物借りちゃって。悪い気もするけど……」
「別に。今回の泊まる理由も俺の身内のせいでもあるんだし。普通にゆっくりしてくれればいいよ」
咲玖はドアの閉め際にそう言った。
ドアの向こうで隣のドアを開ける音がする。
「奈津女!」
「⁉」
奈津女はあまりに早い名前呼びに驚きながら、由梨の方を向く。
「驚き過ぎね。奈津女って咲玖さんの事……」
その一瞬で由梨は考えを改めた。
(いやこの顔。長年の勘が言っている。『自分の恋愛感情に気づいていない』と。
ということは、ウチの口から言うのは良くない!でも、このままってのも……よし!)
その、1秒間で由梨は言葉を変える。
「す~き……ほら!咲玖さん呼びだとあれじゃない!だからさ、今日、あだ名付け大会やらない!」
「あだなつけ大会……?」
頭の上に?マークの付く奈津女に大会の事を教える由梨。
「あだ名は、そのまんまの意味で、自分が呼びやすい名前で友達を呼ぶことね。
で、大会の意味は正直無い。でも、雰囲気あった方が楽しいでしょ」
そう説明すると奈津女は理解したと、頭を縦に振る。
「でも、南さんは今いないし、咲玖さんも自室へ行ってしまいましたよ」
そうして、南と咲玖の部屋を指さす。
(なんで、部屋の位置知ってんだろ。流石奈津女だな~)
「南さんに関しては仕方なし!
勝手に付けたあだ名で呼んじゃおう!で、咲玖さんは部屋に突撃すればいい!」
「え、ちょっと由梨⁉」
由梨は奈津女の後ろのドアめがけて走り出した。
「咲玖さんの部屋に早く着いた方が勝ちね!」
「!」
その時、奈津女の昔の記憶が蘇る。
〈なつ~キッチンにはやくついたほうがかちね~!〉
〈ちょっとまって~〉
奈津女の記憶に出てきた少女と由梨の言っている言葉が似ていることに驚いた奈津女だが、
奈津女は思い出せない。
自分の名前を呼んだ少女が誰だったのか。
記憶の中の少女の顔は霧のようなもので隠れておりどうしても分からない。
奈津女は走りながら考え、いつの間にか由梨を越していた。
そして、咲玖の部屋の前までやってきた。
「ねぇ。奈津女が開けてみて」
「なんで、私なんですか!というか、このくだりもうやりました!」
「じゃあ、そのときの振り越しということで……ね!」
そうして、奈津女は溜息の後少し微笑み、ドアをノックする。
「――はーい」
ドアの遠くから、咲玖の声がする。
3秒ほど経ってから、ドアがゆっくりと※スライドされた。
「どうかした?」
咲玖はいつの間にか着替えており、ゆったりとした赤いパーカーを着ていた。
「あ!」
奈津女は少し大きな声で咲玖のパーカーを指さす。
その姿に2人は驚き奈津女を見る。
「あ、すみません。いや。その服、今日買われた物ですよね?」
「確かにね。赤いパーカー。そうだったよね~……奈津女~どう思うよ」
そして、由梨が奈津女にわざとらしく質問する。
奈津女は素直に真っ直ぐな眼差しで咲玖を見つめると、
「似合っています。とても」
そう言葉にした。
その言葉に咲玖は右下を向きながら、
「ありがとう」
そう言った。その顔はパーカーのように赤く染まっていた。
(なにこの空気……あ!本題忘れてた!)
「あの。もしよかったらお互いのあだ名を付けあわない?」
そう言って、恋愛キュンキュンな空気を由梨が断ち切ったのだった。
「あだ名?」
「そそ。もちろん呼びやすさもあるけど、その方が友達って感じして距離が近くなるかなって思って!」
由梨が咲玖と話して、咲玖はこくりと頷くと、
「せっかくだったら、俺の部屋で決める?広いし」
「是非お願いします!」
奈津女が少し食い気味に、頼み込んだ。
奈津女の思い出した記憶とは…
そしてあだ名付け大会は果たしてどのように始まるのか
今回も読んで頂きありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ