表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SHADOW  作者: Ak!La
第二章 unDead
22/102

#22 急襲

「なぁ、リト」

「何」

 レストへ向かう山道。先頭を行くリトに、エレンは気になっていたことを訊ねる。

「レストは今まで誰も見つけられてない訳だろ? 一体どこにあるんだ」

「……地下だ」

「地下?」

 想いもよらぬ返答に、四人は驚く。

「じゃあ真っ暗なのか?」

「まさか。……まぁ、昔はそうだったけど……今は、村に来た光の守護者が光を与えてくれてるよ」

「本当に? そんなことが可能なの?」

 アーガイルが驚いて言う。光の守護者でなくとも、力を使い続けるなんて不可能だとエレンも思う。

「“アビルトーン”? っていう……魔道具があって。それに力を籠めると、能力者が生きてるうちは半永久的に能力を発揮できるんだ」

 滞在する必要はないんだけど、とリトはそう付け足した。

「“アビルトーン”……実在するのかそれ。文献でしか見たことねェぞ」

「神殿に残ってた遺物だよ。もちろん流通なんかしてない」

 訝し気なイアリに、リトはそう返した。幼い割には、彼は様々なことを知っている。

 地下に存在し、ちゃんと明るい村。エレンには想像がつかなかった。

「そういえば……村人は全員秩序の守護者なのか?」

「……そうだね。ちょいちょい村の外から来た人はいるけど。村で生まれた人はみんな秩序の守護者だ」

「そうか……隠れて住むのも納得だぜ」

 イアリはそう言って腕を組んだ。秩序の守護者は王族以外には存在しない。世間ではそういうことになっているし、そうだと思っていた。それも、各国の王族は秩序に加えて別の力も持っている。セシリアなら秩序と光の守護者だ。どんな家が混ざろうと、王族は必ずそうだった。

「……純秩序の守護者か……ルーツが気になるな」

「そういう話は、ばあちゃんに聞いてくれ」

 リトはうんざりしたようにため息交じりに言った。イアリは分かったよ、とそれだけ答えた。

「しっかし……どれだけ歩くんだ」

 エレンはそう呟いた。かれこれ三十分は歩いていると思う。同じような山道がずっと続いている。

「もう少ししたら、池が見える。それをぐるっと回って……また少し歩いて、そしたら村の入り口だ」

「……もう少しの感覚が当てにならねェ気がする」

「もう少しだって。……あ、ほら」

 リトが行く先を指差す。道が途切れている。拓けているのか、光が上から差し込んでいるのが見えた。

 もう少し進んでみると、途切れているように見えたそこは段差になっていた。二メートルほどの崖だ。簡単に飛び降りれる高さだが。

「……整備されてないな」

「どうやって登って来たの?」

 ケレンが訊ねると、リトは足元の崖を指差した。

「蔦を登れる。大丈夫、大人の体重でも切れない」

 丈夫そうな蔦植物が、崖を覆いつくしている。天然のはしごというわけだ。

「なるほどな」

 リトより先に、エレンはぴょんと飛び降りる。その先に二、三歩進んだところで、エレンは立ち止まった。目の前の光景に目を奪われた。

「わあ……」

挿絵(By みてみん)

 大きな池だ。水は澄んでいて、上から差し込んでいる太陽光によって美しい青を映し出していた。水位は低い。落ちたら上がるのは大変そうだ。

「綺麗だ……」

「いつか見た絵画のようだね。……本当にここを描いたものもあったかもしれないけど」

 隣にやって来たアーガイルがそう言う。確かに、とエレンはそう思った。

「……先行かないでよ。おれが案内してるのに……」

 後からやって来たリトが文句を言う。ごめん、とエレンは振り向いて謝った。そして、改めて池を見る。

「なかなか大きいな。これを回り込むのか」

「ここから少し街道から外れる。はぐれるなよ」

 リトはそう言うと、再び先頭に立って歩き始める。池を見ながら、エレンはその後に続こうと歩き出す。────────が、その時だった。

「!」

 不意に殺気を感じた。考えるより先に、エレンは棒を展開していた。気配を辿り、視線を向けるとそこはさっき降りて来た崖だった。そこに、見知った姿が立っている。

「……ロレン⁈」

「!」

 他の四人もそちらを見た。全員の視線を受けたロレンは、目を細める。やっぱり行きたくてついて来た、とかそういう雰囲気ではない。エレンもイアリも、戸惑いを隠せない。

「何でお前がいる……残ったんじゃなかったのか」

「あとをつけて来た。……追跡くらい簡単なことだよ」

 発された声は険悪だった。旧友の見たことのない様相に、エレンはたじろぐ。

「何のために」

「…………悪いけど、これ以上は行かせない」

 言葉を疑った。彼がまさかそんなことを言うとは思っていなかった。

「何でだ」

「死者の蘇生なんて、させるわけにはいかないからだ」

 ふざけているとは思えない。眉間にしわを寄せたロレンはどう見ても本気で言っている。そういえば、とエレンは思う。ロレンはこのことに賛成も反対もしていなかった。

「……反対するなら先に言えよ」

「兄さんの前で言えると思う? ……無理だ。だからここで君たちを説得する」

「説得? ……全員ぶっ飛ばすって顔してるぞ」

「必要ならね。……でも、出来ることならそうしたくない。だから話してるんだ」

 イアリが口を開こうとするのを、エレンは手で制止した。少しだけ考えて、エレンは訊ねる。

「お前、兄貴に生き返って欲しくないのか」

「グレンさんがどうとかじゃない。死者は蘇らない。それだけの話だ」

「ロレン……」

「それに、君のためでもあるんだよエレン。君に、それ以上自分を犠牲にして欲しくない」

「!」

 エレンは目を見開き、そして思わず右肩に手を当てた。ロレンは続ける。

「君のその右腕がなくなったのは、誰のせいだ。君は兄の責任を肩代わりした。そうだろう」

「違う! 俺は……」

「その上、もう一本の腕まで兄のために差し出すつもりか⁈ どこまでお人好しなんだ君は」

「そんなんじゃない! ……何言ってんだロレン! 俺は別に……」

「……あの人は何もかもを狂わせる……君のことも、兄さんのことも」

「⁉︎」

 ロレンの目に映るのは、紛れもなく憎しみだった。が、それを押しつぶすように彼は目を瞑ると、どこか使命感を持った目をエレンたちへと向けた。

「────────いや。死者は蘇らない。戻ってこない。死は覆されない。それだけだ。そんな簡単なことが何で分からないんだ。諦めてくれよ。頼むから」

「ロレン、お前……」

「聞き分けがないなら、ここで僕が力づくで止める」

「…………」

 どうしたものか。彼は本気だ。だが、エレンはロレンと本気で戦ったりしたくなかった。幼少の頃から共に育った仲間だ。アーガイルと変わらないくらい大切な相手だった。────────だからこそ、本気で彼は止めに来ているのかもしれないが……。

 迷ったエレンは、一歩前に出ようとする。しかし、その行く手を手で制される。

「────イアリ……」

「行け、エレン」

 いつになく真剣な目をしたイアリが、ロレンの方を見ながら言う。僅かに振り向き、横目でエレンを見ながら彼は続けた。

「コイツは俺が止めておく。だから先に行ってくれ」

「でも、お前」

「情報料のことか? 心配ない。すぐ追いつくからよ」

「そうじゃなくて────────」

 イアリだって、エレンと同じだ。俺も残る、と言いかけ、だが笑ったイアリの顔を見て口を噤む。

「お前が行かなくてどうすんだって話だよ。大丈夫だ。ロレンとは俺の方が長い。大したことにはならねェよ。ガキの頃の喧嘩と同じだって」

 な、と安心させるように首を傾げて眉を上げる。エレンは不安だった。そうはならないことを、なんとなく感じていた。……でも。

 アーガイルが手を引いて来た。行こう、と言われなくても目で伝わる。ケレンも覚悟を決めた顔をしている。だから、エレンは迷いを全て飲み込むことにした。

「……分かった」

 リトに目配せする。子どもらしく恐怖感を顔に浮かべていたリトは、しかしそれを受けて自分がどうすべきかを瞬時に理解したようだった。

「……こっちだ!」

「行かせないよ」

 ロレンが手を伸ばす。たちまち、どこからともなく辺りから闇が集まって来た。それはあっという間に、進もうとする4人を囲う檻を成した。

「! これは……」

「そこで大人しくしててよ」

「……みんな、伏せてて!」

 アーガイルが自身の周囲にいくつもの光の刃を生成し、それを檻に向かって放つ。だが、それらは檻に当たった瞬間に弾けて消えてしまった。

「何で⁈」

「無駄だよ。闇と光は相反する。だから強い方が勝つ。……君の力は僕には届かない」

「……クソッ……」

 アーガイルは悔しそうに闇の檻を叩いた。そして、その瞬間に大きな抵抗を感じたのか、弾かれるように手を離す。

「……最悪だ」

 と、その時檻の外にいたイアリの飛び蹴りがロレンに炸裂する。彼が吹っ飛ぶと同時に、檻も解けた。

「俺とやる気満々じゃねェかよ! なぁ!」

 イアリは高揚した声でそう叫ぶ。崖の上から彼は振り向くと、エレンたちに呼びかける。

「ほら大丈夫だ! 早く行け!」

「……すぐ来いよ!」

「大丈夫だ! 足は誰よりも速い!」

 イアリはウィンクしながら親指を立てる。エレンはそういうことじゃないんだけどな、という緊張感のない感想を抱きながらも、その勢いで不安を払拭してリトと、そして残りの仲間たちを先へと促した。


* * *


 ロレンが頭を抑えながら立ち上がる。イアリは指を鳴らしながらその前に立ちはだかった。

「喧嘩は久しぶりだ。懐かしいなロレン」

「……君にだって容赦しないよ、イアリ」

 ゆらりと陰の中に立つロレン。その姿を見て、イアリはフッと笑う。

「お前、随分と変わったな。軍人なんだっけ? いっぱい努力したんだろうな。昔と立ち方が全然違う」

「そんな話をしに来たんじゃないんだよ、さっさとそこをどけよ馬鹿」

「そんな言われ方したって、全然怖くない。なあ、やめないか? 無益だろこんなの」

「君はエレンがどうなってもいいって言うのか!」

 ロレンは必死に叫ぶ。イアリは冷静な顔で答える。

「……いいわけねーだろ。でも、決めたのはあいつだ。それはあいつら兄弟の話で────俺がどうこう言う権利はない」

「権利はない⁈ 本気で言ってるのか⁈ ……僕らだってエレンの兄弟みたいなものだろ! 少なくとも僕はそう思ってる!」

「兄弟? というよりかは、悪友みたいなもんだろ。……まぁ、俺は一人っ子だし、兄弟とかそういうのよく分かんないだけだけどさ」

 肩を竦めるイアリ。ロレンは目尻をヒクつかせる。

「……お前は……自分が無責任に他者を煽ってることに気付けよ」

「責任なら取ってる。今、こうして」

 イアリはそう言いながら両腕を広げた。そして腕を組むと、ニヤリと笑った。

「軍人さん。お前は自分が責任と使命に塗れて、いくつもの死地を潜り抜けてエライと思ってるのかもしれないけどさ。俺だって俺なりに修羅場はくぐってンだよ。流浪の情報屋だって楽じゃない」

「……馬鹿にしてるのか?」

「してないよ。ただ、俺も甘く見られたモンだと思ってさ。人間は、生まれた時から自由意志の責任を負ってんだよ。それを放棄することを俺は許さない。享楽のためにやってんじゃねェんだよこちとらよ」

「お前、僕に説教垂れられるほど自分が偉いと思ってるわけ?」

「いーや。まったく。だからまあ、愚か者同士殴り合おうってわけ」

 挑発するように、イアリは顎を上げる。

「そうすりゃ多少は頭冷えんだろ」

「────────その言葉、そっくり返すよ‼︎」

 ロレンの姿が消える、次の瞬間には、イアリの眼前に飛び膝蹴りを繰り出すロレンが現れた。

「!」

 みぞおちに膝が入った。後ろに吹っ飛んだイアリは、地面がなくなったのを感じた。視界に青い水面が映る。痛みを堪え、風と共に空中で体勢を整える。

「“ウィング”!」

 イアリの背に濃い茶色の翼が生えた。

「……風の力にそんなのあったっけ?」

 ロレンが崖の上から目を細めて言う。翼を羽ばたかせ、イアリは着地して翼をしまう。

「ない。……お前も出すもん出せよ。隠してないで」

「……」

 ロレンは崖から降りてくる。一歩、二歩と近付いて来て、顔を上げたその目と目が合った瞬間、イアリはぞわりとした。

「……後悔するなよ」

 ロレンは右手を顔の前へ持ってくる。ビキビキと音を立てて血管が浮かび上がったかと思うと、皮膚が裂けて下から黒い鉄のような質感の肌が現れた。たちまち、その手は鋭い爪を持つ別のものへと変容していた。それを見たイアリは笑う。

「…………気が合うな、お揃いだ」

 イアリも同じように手を出す。その手が同じように、しかしまた別の、鳥の足のような形に変容した。そして、その体が激しい風に包まれる。同時に、ロレンの体も闇の渦に包まれた。

 同時にそれらが弾けた時、そこにあるのはもはや人の身ではなく、黒き鉄の鱗と翼を持つ四足の竜と、鷲の上半身と獅子の下半身を持つ、鷲獅子竜(グリフィン)────────二頭の竜に他ならなかった。



#22 END



To be continued...

読んでいただきありがとうございます!


よろしければ感想・評価、ブックマークなどしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ