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SHADOW  作者: Ak!La
第二章 unDead
20/102

#20 近道

 フォレンが連れて来たのは、イヴレストの第三商店街にあるカフェだった。看板には『café LEAF』と書いてある。外から見る限り、中に客はいないようだった。時間帯もあるだろう。

 フォレンは慣れた様子で店のドアを開けると、カウンターにいる店主らしき女に声をかけた。

「リリー、来たよ」

 大人しそうな目がフォレンに気付く。

「あら、フォレン」

「……あ」

 エレンもその顔に気が付く。見覚えがある。彼女もフォレンの他の面々に気が付いたようで、目を見開いた。

「あらあらあら、なんて懐かしい顔なの」

 カウンターから出て来たリリーは嬉しそうに両手を合わせた。

「……また知り合い?」

 アーガイルはエレンに訊く。こんなことばかりだ。答えたのはフォレンだった。

「紹介するよ。この女性はリリー。レイミアの妹だ」

「あら、一人初めましてね。リリー・リーフィーよ」

「あ、アーガイル・エウィンです」

 交友関係がよく分からなくなってくる。この人も孤児院関係かとアーガイルが悶々としていると、エレンが口を挟んだ。

「レイミアさんとリリーさんは、俺たちがいた孤児院の経営者の娘なんだ。だからリリーさんたち姉妹とは全員俺たちは面識があるってわけ」

「……なるほど」

「あと二人いるんだ。レイミアさんが長女でリリーさんが四女。次女のハーブさんは孤児院を今引き継いでて、三女のサーミアさんは……」

「探偵だ」

 口ごもったエレンに変わってフォレンがにこりとして答える。アーガイルは「げ」という顔をする。

「……大丈夫なのか僕ら……」

「今さら何を言ってるんだか。さて、リリー、実は俺たち訊きたいことがあって来たんだ」

 フォレンがそう言うと、リリーは「あぁ」と言って皆をカウンター席の方へと案内した。そしてフォレンは、真ん中にイアリを座らせて自分はその隣に座った。さらにその隣にロレン、反対側にエレンとアーガイルが並んだ。

「それで、何かしら。ここには色んな噂が集まって来るから、大抵のことは分かるわよ」

 なるほど、そういうわけかとイアリは納得した。ベタといえばベタだ。

「実は……レストっていう村のことを調べてて」

「あぁ……私も聞いたことがあるわ」

「えっ、本当ですか」

「ええ。まぁ、噂だけどね」

 全員の視線を集めながら、リリーは続ける。

「姿形の見えない幻の村。……この町は“イヴレスト”っていうでしょ? そのレストという町の前にあるというのが、この町の名前の由来らしいわ」

「……王都から見てか」

 エレメスはここから北に向かった方向にある。

「テフィリアには秩序の神々を祀る神殿が多くあって……昔の話だけど。そのレストには、未だ秩序の神殿が現存しているって聞いたわ」

 ここを訪れた考古学者がそう熱意的に語っていた、とリリーは付け加えた。彼がレストに辿り着けたのかどうかは分からないという。

「秩序の神殿か……」

 エレンは思っていたのと違うワードが出て来て引っかかる。もっと“冥界”とかそういうワードが出てくると思っていた。

(どう思う? エレボス)

『……最近の人間は全然神話について知らないんだな』

(……まぁ、そうだな)

 エレボスはひとつため息を吐くと、説明を始めた。

『秩序の神……といえば、代表的なのは秩序の司神テフィスだ。だが……さっきそこの女が言ったように秩序の神は一柱じゃない。七柱の神々がいて、それぞれがこの世界の秩序を司り、管理してる。……そのうちの二柱が冥界の管理を任されていて……』

 普段、半分フィクションの夢物語だと思っていた神話が、エレボスの口を通して聞くとやけに現実味がある。

『冥王と冥妃……その二柱によって冥界は治められている。まぁ……彼らは神よりも魔神に近い存在らしいが』

(……あー、なんか難しいのは分かった)

『まぁ、祀られてる冥界関係の神と言ったらその辺りだろう。……神殿のことは俺もよく知らねェ。ここ二千年ほどは、神々は人界との関係を絶ってるっていうし……』

 エレボスはそこで難しく考えているようだった。その一方で、リリーが続ける。

「伝承的には、この辺りにあるっていうことで間違いないらしいんだけど。場所が書いてたであろう古い地図は、もう全てが焼失してて分からないってことだったわ」

「焼失、か」

 イアリがそう呟く。しかしだ。

「でも、本当にあるんだったら地図がなくても探す方法はあるはずだ。くまなく探せば……」

「そうね。でも、そんな村が見つかったら、世間に隠したままでいられるかしら」

 無理だろうとそう思う。そうだとしたら一大事だ。死んだ人間が生き返るなんて、そんなこと────────。

「どうだかね。良心によって隠されてることだってある」

 フォレンはそう言ってにやりと笑う。

「つまり、まだ無いとは言えないってことさ。火のない所に煙は立たぬ。噂の元には必ず源流がある。……そうだろう?」

 イアリは視線を向けられて、少しの思案の末頷いた。

「そうですね」

「それ以上のことは……私にも分からないわ。ごめんなさいね」

「いえ。噂が確かにあるってことが知れただけでも良かったですよ」

 申し訳なさそうなリリーに、イアリはそう言って微笑んだ。


* * *


 それ以上の収穫は得られないまま、リリーに礼を言って三人は店を出た。フォレンとロレンは、もう少しリリーと話してから行くと言って店に残った。

「……決定的な手がかりは無しか」

 エレンは空を仰ぎながらため息を吐いた。噂の確証は多少得られたが、これではまだその村を見つけられない。

「古本屋でも漁ってみようか。地図は焼失したって言ってたけど、何かしら文献はあるかも」

 アーガイルの提案に、イアリは頷く。

「そうだな。可能性は……なくもないが」

 と、その時、人混みの向こうからこんな声が聞こえて来た。

「スリよ! 誰か捕まえて!」

「……スリ?」

 エレンが呟くと、イアリは目を細めた。

「あぁ、この町流れ者がよく来るからな。多いんだ、ああいうの」

「そうなのか……」

 町にはあまり降りて来ないので、知らなかった。それはなんとも穏やかではない。

 ぼろぼろのフードを被った人影が、袋を持って走って来るのが見えた。手にはナイフを持っているためか、誰もそれを止めようとしない。

「……お前ら、ちょっとここで待ってろ」

 二人に言うと、アーガイルが嫌そうな顔をする。

「え、どうするつもり」

「あいつ止めてくる」

「馬鹿言うな、関わってロクなことねェぞ」

 イアリが呆れたように言うが、エレンは無視して歩き出した。

「お、おい、エレンってば!」

 イアリの声を背中に聞きながら、走って来る泥棒に目を向けた。泥棒はエレンに気が付くとこちらに凶器を向けて来た。

「どけ! 死にたいのか!」

 予想外に高い声がして、エレンは驚いた。だが、それも一瞬だった。

 突き出されたナイフを躱し、左手で棒を展開するとそれでナイフを跳ね飛ばす。

「あっ」

 小さな声を上げた泥棒を足で引っ掛けて倒し、仰向けになったところに足で抑えた。勢いで宙に飛んだ袋をキャッチする。周囲から歓声が上がったのを聞いて、エレンはコートの襟で思わず口元を隠した。

 キャッチした袋の中を覗くと、財布がたくさん入っていた。

「……どんだけやってんだコイツ……」

「あ、ありがとうございます……」

 さっきの声の主らしき女性が息を切らして走って来た。袋の中身のどれが彼女のものか分からないので、そのまま引き渡した。

「こんな大衆の前で堂々とやってんじゃねェよ」

 イアリがそう言いながら近づいて来る。

「良いだろ別に……悪いことじゃねェんだし……」

「お前みたいなのは目立つことそのものが悪いことだろうが」

 ぐい、と人差し指を胸に押し付けられ、うぐ、とエレンは唸る。

「……おじさんたち……何……放して……」

「おじっ……⁈」

 足元からした声に、エレンとイアリはピキリとして視線を落とす。エレンがしゃがんでフードを引きはがそうとすると、彼はフードをぎゅっと手で抑えた。

「このっ……面見せろてめェ!」

 結構な力で抑えているのかと思いきや、案外あっさり取れた。その下の顔は拍子抜けするくらい幼かった。十歳くらいかという少年だ。

「ガキか……どうりで弱いわけだ」

「弱くない!」

「ガキのくせにこんなモン持ってんじゃねェよ」

 エレンがプランと少年が持っていたナイフをつまんで見せると、少年は顔を真っ赤にして叫ぶ。

「あっ……! 返せ!」

「やだね。盗みなんて滅多にするモンじゃねェぞ」

「お前が言うか」

 イアリにそうツッコまれるが、エレンは気にしない。

「……おっさんに何が分かるんだ」

「おじさんじゃねェガキ!」

「おれだってガキじゃない! リトって名前がある!」

 エレンと少年、リトが言い合いをしているとアーガイルがエレンの肩を叩いた。

「まぁまぁ。子供相手に何ムキになってんの」

「……確かに……」

 大人げなかったかと、エレンは反省する。と、その時足元から感触がなくなっていることに気が付いた。見れば、リトが逃げ出そうとしている。

「あ、てめ」

「じゃーねー」

「待て!」

「待たないよーだ」

 だが次の瞬間、リトはズッコケた。あちゃ、とアーガイルは顔に手を当てる。

「いっ……てー……何だこれ」

 リトが自分の右足首を見ると、影が巻き付いていた。

「影の力だ。そう簡単に逃げられると思うなよ」

「いいじゃんエレン……逃がしてあげれば」

「そういう訳にもいかないだろ」

 アーガイルとエレンがそう言っていると、イアリは少年を助け起こす。

「なぜこんなことを?」

「金に困ってる。それ以外ないだろ」

 口を尖らせるリト。その目と目があった時、イアリは妙な説得感を覚えて手を降ろした。

「そう、か……じゃあ仕方ないな」

「……イアリ?」

「いいぜ、放してやろうコイツ」

「待て待ておかしいだろ」

 怪訝な顔をするエレン。アーガイルはハッとする。

「……もしかして……」

 リトの目を見ると、リトはこちらを見返してじっと見てくる。

「分かっただろ、解放してくれ」

「────やっぱりそうか。悪いけど僕には効かないよ」

「? どういうことだ」

「エレン。彼の目を見ないで」

 アーガイルはエレンとリトの視線を切るように立つと、腕を組んだ。

「君、秩序の守護者だね」

「え⁈」

 ぎく、とした顔をするリト。やっぱり、とアーガイルは片眉を上げて笑う。

「力を使って僕たちを説得しようとしたな。でも悪いね、僕はその力のことを知ってる」

「待て待て、秩序の守護者なんて王族以外に……」

 そう言えば、“秩序”という言葉を先ほども聞いたなとエレンは思い至った。

「……レスト」

「隠された幻の村レスト……秩序の神殿を守り続けるその民が、秩序の守護者であってもおかしくない。むしろ納得だ。どう?」

 アーガイルの推理に、リトは眉をひそめた。

「……あんたらも神殿が目的か」

 その言葉に、アーガイルはほらね、という顔で少年を指差した。

 イアリは信じられない、という顔で続ける。

「まじで……? お前、レストの人間か」

「そうだけど……」

「その、本当なのか? 死んだ人間を生き返らせられるっていうのは……」

 エレンがそう問うと、リトはとても嫌そうな顔をした。

「教えると思う?」

「神殿って言っただろ。あるんだな、本当に」

 凄むエレンに、リトは思わず怯んで、辺りをキョロキョロと見渡した。

「……話してもいいけど。ここじゃ嫌だ」

「分かった。場所を変えよう」


* * *


 狭い路地に入った。積まれた木箱の上に座ったリトは、声を潜め、まだ警戒の籠った様子で言った。

「……おれがこれから話すこと、他に漏らすなよ」

「分かった。約束する」

 そう頷いたエレンの顔を、リトはしばらく見定めるようにみていたが、やがて彼は口を開いた。

「神殿は……ある。生き返らせることも出来る。でも、それには色々……条件があるんだ」

「条件? 三人必要…とかそういう?」

「────────そんなことまで広まってるのか。参ったな」

 リトはため息を吐いた。

「必要なのはそう、三人の祈りと、贄だ」

「贄?」

 儀式めいた恐ろしい言葉だ。リトは続ける。

「具体的には……体の一部を捧げる」

「!」

 リトは自分の右足をめくって見せた。ズボンの裾から現れたのは、木で出来た義足だった。

「……お前も……誰かを?」

「姉ちゃんだ。村の外で、獣に襲われて」

 思い出すように、リトは目を伏せる。エレンは思い至った懸念を問う。

「その……蘇生したあとは、ちゃんと元通りなのか」

「あぁ、それは大丈夫だ。遺体の状態がどうなってても、死者が帰って来るときは元通りになってる。魔神様の力でな」

「魔神様?」

 首を傾げるエレン。リトは首を振る。

「今はそこまでだ。………あんたは誰を生き返らせたいんだ」

「兄貴だ。……まぁ、お前と一緒ってことだな」

「ふうん……。祈りを捧げる人間は、死者と親しい人間なら誰でもいいけど、贄を捧げるのは血のつながった人間と決まってる。……あんたは既に片腕ないみたいだけど、捧げられるの?」

「そりゃ……必要なら俺が捧げるしかないだろ」

「エレン、それは……」

 アーガイルが信じられないものを見るような目で見てくる。エレンは肩を竦めた。

「ユーヤに追加発注しないとな。早めに」

「そんな軽々しく……」

「だったら、ケレンにやらせんのか? それだけは絶対に嫌だ。俺の手足ならくれてやるよ」

 アーガイルはそれ以上何も言えなかった。彼を止めるなら今しかないが……それが出来るとは思わなかった。

 エレンは屈むと、リトと目線を合わせる。

「なあ、頼む。その村に案内してくれないか」

「……それは……」

「大切な人なんだ。俺にとって……かけがえのない人だ。だから……どうしても、取り戻したい」

「……」

 少年はしばらく迷っていた。エレンはじっとその返答を待つ。イアリももはや興味を通り越して真剣だった。アーガイルだけが、彼が「No」と言うのを待っていた。

「……分かった……案内する」

「! 本当か」

「連れてくのはあんたらでいいの?」

 リトは三人を指差した。顔を見合わせたエレンたち。エレンはそうだな、と立ち上がった。

「仲間には共有した方がいいかも……。ケレンには絶対言った方がいいしな。よし、リト。一度俺たちの家まで来てくれるか」

「え……。……いいけど……」

 彼がそう返答すると共に、イアリがパチンと手を叩いた。

「よっしゃ。じゃあ俺はロレンとフォレンさんを呼びに行ってから戻るよ。先に帰っててくれ」

「分かった。アル、行こう」

「……うん」

 


#20 END



To be continued...

読んでいただきありがとうございます!


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