表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SHADOW  作者: Ak!La
第七章 黒白の聖戦
113/113

#113 黒白の聖戦

──数分前 王宮 最下層 アル・ラハンの間──

「まさかね……本当にやっちゃうんだね」

 アル・ラハンに仕掛けられた呪式は、たった今解除された。高い音を立てて爆ぜた魔法陣の跡を呆然として見ながら、ケレンは膝をつく。

「で……出来た……」

 激しい鼓動に、息を乱しながらケレンは呟いた。その傍らで、相変わらず呑気なミカレルは顎をなでる。

「時間ギリだね。でも……凄いじゃん」

「ケレン殿!」

 フェールが駆け寄り、ケレンの顔を覗き込む。大丈夫、と彼は手で制すと、立ち上がった。

「僕にも……護れたんだね」

「……!」

 見上げた横顔。そこにフェールはいつかの誰かの面影を見る。眼鏡を掛けた彼は、どこか、()に似ていた。

(……ケレン殿も、やはり()()血を引く者か。いずれ……目醒めるのだろうか、彼らのように)

 フェールは不安を抱いた。それは彼が見守って来た者たちの記憶。────白き影が、脳裏をちらついた。

「フェール? どうしたの?」

「!」

「まだどこか痛む?」

 ケレンがいつもの顔で、そう問うて来る。フェールはかぶりを振った。

「……いや。問題ない。ケレン殿の成長に、少し驚いていただけよ」

「そう? へへ、フェールに認められるなら嬉しいな」

 そう言ってケレンは頭を掻く。と、そこでミカレルが咳払いをする。

「さて……仲睦まじいところ悪いけど、まだ気を抜くには早いよ。天界の崩壊は免れたけど、魔王たちを追い返せちゃいないんだから」

「あ、そうですね……」

「俺はこれからとりあえず、皆と合流して外の殲滅を手伝うつもりだけど……君たちも来る?」

 そう言われて、ケレンはフェールの方を見た。フェールはその視線を受けて頷く。

「大事ない。私の体の心配はいらぬよ。……だが」

 と、フェールの方が心配そうな顔をする。

「ケレン殿の方が消耗しておる」

「……まぁ、正直なところは休みたいかも……」

「そう。ならいいけど。無理はしないで」

 ミカレルは笑うとそう言って、手を振った。

「じゃ。俺はこれで」

 部屋を出て行く神徒を見送って、フェールはケレンの中に戻り、ケレンは壁際に移動して座り込むのだった。

 

* * *


──王宮 王の間──

「人の子に……よってだと?! 一体どういう意味だ!」

「そのままの意味じゃよ。お前の術式は、人の子に破られた。ただそれだけの話じゃ」

 激昂する魔王に、創造主は淡々としてそう答えた。

「馬鹿な! あれは……私の最高傑作だ! あなたの創った“親鍵(マスターキー)”でもなければ解けない! ましてや、神語を忘れ去った現代の、人間が?」

「現実を認めよラコス。現にこの天界はまだ滅びておらず、お前たちはまだここにいる。お前の目論見どおりにはならなかった、そういうことじゃ」

「…………!」

「ここからまだ、勝つ算段があるのかラコスよ。もう一度術式を仕掛ける間などないぞ」

 ラコスの顔にもう余裕は見られなかった。アルは目を伏せ、だだを捏ねる我が子を見る目で魔王を見遣る。その目にはもう、先ほどのような不思議な輝きはなかった。

「じきに騒ぎを聞きつけた神々もやって来るじゃろう。街に溢れ返る魔物たちもすぐに消え失せる。……もっとも、既に神徒たちによって殲滅されているやもしれぬが」

「……っ!」

「憐れよの、ラコス。先ほどまでの威勢は、どうした?」

「────」

「さては、あの“保険”なしでは、俺に勝てぬと初めから分かっておったな」

「…………黙れ!」

 笑みを浮かべながら言うアルに、ラコスは大鎌を振る。だが、それを受け止めたのはラヴァだった。

「……主に手を出させるまでもない」

「くっ……盲信者め」

 と、不意にラコスの背後に闇の穴が現れたと思うと、彼はその中へと消えて行った。急に抵抗のなくなった剣を床につくと、ラヴァは目を見開く。

「! 逃げたのか」

「あやつめ。あとはどうしようが悪足掻きじゃというのに」

 アルはため息を吐きながらそう言うと、部屋の中の面々を見渡す。

「さて。我らも後を追うとするか。……ラヴァ。お前は王宮の中にいる者たちを、癒してはくれぬか」

「私は戦わなくて良いのですか」

「外は混戦じゃ。お前が行くのは好ましくなかろう」

 と、アルはラヴァの翼を見ながらそう言った。彼は俯き、少しの思案の後振り向くと、扉の前にいるクザファンの方を向く。

「お前も俺と来い」

「え、俺?」

「お前も神徒の端くれ、治癒術くらいは使えるだろう。それに、外へ出ればお前は元凶として神徒たちが討ちに来るぞ」

「…………分かった」

 頷くクザファン。恐らく本心では魔王を追いたいのだろうが、そうも行かない。

「あと、そうじゃ。出来ればミカの奴とも合流せい」

「ヘブラン卿ですか……何故です」

「丁度王宮におるようじゃからの。これから外へ向かうようじゃが、会えるじゃろう。怪我人を放っておく奴ではないからな」

「……分かりました。探してみます」

 そう言って、ラヴァはクザファンを連れ立って部屋を出て行った。それを見送り、エレンはアルに問う。

「……あの、天界を救ったのって……?」

「うん? お前の弟君じゃよ」

「え、ケレンの奴……マジか」

 確かに神語を覚えようとしていたが。まさかそんな大それたことをやり遂げてしまうとは。

「……魔王が仕掛けた封印式を解いた……?」

「うむ。実に驚くべきことじゃ。さて、しかし今はそれについて感心している場合ではないのぅ」

 と、その時フォレンとロレンが頭を抑えながらゆっくりと立ち上がった。瞳の色は元に戻っている。どうやら支配が解けて正気に戻ったらしい。

「あれ……くそ……また記憶が飛んでる……」

 フォレンがそう忌々しげに呟いた。やれやれと肩を竦めたアルは、部屋の中心へと手を伸ばす。

「さて。皆揃ったことじゃし、行くかのう」

「行くってどうやって……」

「“神の(Yeno)(Palalel)”」

「!」

 玉座に被るように、空間に大きな穴が開く。それは部屋の中の一同を強制的に吸い込んだ。

「うわああぁぁぁ?!」

「はは。さてさて、最終決戦じゃのう」

 捻れる意識の中、創造主の呑気な声が響いた。


* * *


「……胸糞悪……」

 目の奥にあった違和感が消え、階段を登っていたミカレルは目を抑えた。

「────()()()()()……」

 封印式が解ける間際、自分の意識に入り込んで来たもの。そんなことが出来るのは一人しかいない。……創造主アルだ。

 智天使が持つ裁きの姿、即ち神霊はアルの力の分霊である。ゆえに智天使たちの知覚に同調し、アルは王の間で微睡みながらも天界の様子を知ることが出来る。常に彼によって智天使たちの行動は監視……というか知覚されているようで、何かがあればアルは意識に入り込んで様子を見に来る。その感覚が、ミカレルはたまらなく嫌いだった。

(この感情もバレてんのかな……? 心地良い奴なんていないと思うけど)

 不信。彼の中にあるのはそれだった。

(というか俺の能力のこと便利だと思ってるよなあの(ひと)……絶対)

 魔物の襲撃など、何かあると度々乗っ取られている。というのも、ミカレルの固有能力は“透過”だ。姿を消すだけでなく、体をエレメントに近付け壁もすり抜けられる。また、物理的なことだけでなく、他者の心すら彼には透過できた。それは、治癒術を得意とするヘブラン家に多く現れる、言葉を発せない傷病者のための力だ。

 ミカレルは戦闘が苦手だった。治癒術以外の魔術はあまり得意ではない。神徒としての最低限のものは身につけているが、魔物を滅ぼす強力な魔術などは苦手だった。……それに。

(魔障には出来るだけ触れたくない────うっかり堕天なんかするのはゴメンだ)

 魔族が発する魔障は心の闇を誘発する。神への不信など、その最たるものだ。だからミカレルはここへ来ていた。街は魔障の海である。アル・ラハンの確認などと(かこつ)けて、戦場から逃げ出して来たのだ。……結果として、客人を救い、天界の危機に気付き、大事を免れたのだが。

(俺ちゃんてほーんと、悪運が強いよね)

 はあ、とため息を吐く。いつの間にか一階に出て来ていた。顔を上げる前に、声が掛かる。

「ヘブラン卿」

「! え、わ、何」

 翼の黒い者が二人。ミカレルがその手に武器を呼び出そうとすると、前にいる男が手で制した。

「待て。よく見ろ。俺たちは悪魔ではない」

「……え、忌み子? マジ? ……てかそっちはクザファンじゃないの」

「…………」

 角がなく、銀色の瞳をしているクザファン。ミカレルは頭が痛くなりそうになる。

「……えぇ。どうなってるの」

「話はあとだ。今は時間が惜しい。俺たちが天界側だということだけ分かって貰えれば良い。……これから王宮内の者たちを治療する。卿にも手伝って欲しい」

「────それってアル様の指示?」

「そうだ。卿と合流するよう言われた」

 やれやれ、とミカレルは肩を落とした。……やはり全て見透かされているのではないか。そう思えて来る。

「分かった……やるよ。どうせ俺は治療でしか役に立てないし」

「そんなことはないと思うが……」

「慰めるなよ、忌み子が。……いや。何て呼んだらいい?」

「ラヴァだ」

「そうか、ラヴァ。よろしく」

 忌み子。それはミカレルにとっても忌々しい存在ではあったが……ここで歪み合う理由にはならない。

(……俺がこんなに黒くならないように気を張ってるのに、コイツらは。はぁ。羨ましいね)

 彼らの翼を見ながら、ミカレルは心の中で大きなため息を吐くのだった。


* * *


──コルニア中心街──

「ハアッ……ハア、馬鹿な……!」

 ラコスは外に出て驚愕した。自分が放った魔物たちは殲滅され尽くしていた。街の炎も消え掛かっている。

「何故……召喚陣はどうした」

「それならもう、俺たちが解除したぜ」

「!」

 背後から声がして、振り向くとそこには二人の神徒がいた。彼らは既に武器を構えている。

「解いたのは僕だけどね、グラルド」

「うるせぇ。働いたのは俺だ」

「“親鍵(マスターキー)”か……」

「その呼び名、好きじゃないんだよね。僕にはレインハルスというアル様が付けて下さった美しい名前がある」

 レインハルスはそう言って両腕を広げた。

「それで? 魔王一人でこんな所でどうしたのかな。アル様から逃げ出して来た? それはどうも、魔界の王として美しくないね」

「油断するなよレイン」

「分かってるよ」

 ラコスが大鎌を構えたのを見て、レインハルスは笑う。

「でもま、これだけ智天使がいたら、十分じゃない?」

「!」

 魔王はハッとして辺りを見渡す。周囲をぐるりと、上からも、地上からも九人の神徒に囲まれていた。

「おい、またミカの野郎がいないんだが」

 双剣を手にして飛んでいる芝色の髪の神徒が、不服な顔をしてそう言った。隣を飛んでいる藤色の髪の神徒がやれやれと首を振る。

「ちゃんと見張っとけよ。お前がペアなんだろ、レウル」

「うるせーなライト、いつも見張ってんのに気が付いたら消えてんだよ! ったく、嫌な能力だぜ」

「まぁ、ヘブラン卿がいないのはいつものことよ」

 地上で槍を構えている濃い金髪の神徒が、リボンを揺らしながらそう言った。その顔には呆れと諦めが浮かんでいる。それを見てレインハルスはくすくすと笑う。

「ふふ。まぁ彼一人いなくたって大した問題じゃない。そうだろうアリス? なんなら我らマルト・ラフだけでも十分過ぎるくらいだ。なぜなら、僕らは完璧なのだからね!」

「相変わらず鼻につくな……」

「それはさすがに少ないと思うけど……」

 テュルフとルエナがそう言う。ちなみにこの中でマルト・ラフは四人だけだ。

「つーわけだ。観念しやがれ」

 グラルドが斧を肩に担ぎながら魔王に向かってそう言った。ラコスは歯を軋ませながらぐるりと辺りを見渡す。と、その時彼の背後の空間が開いた。智天使たちが囲むその中に、王の間にいた面々が現れた。

「おお、我らが王のお出ましだ」

 眼鏡を掛けた茶髪の神徒が興奮したように言う。現れたアルに対し、ラコスは身構える。

「もう逃げ場はないぞ、ラコスよ」

「…………!」

「大人しく臣下を連れて去るが良い。魔界に留まるのならば、俺はお前たちに干渉はせぬよ」

「……帰れるものか! このまま……このまま引き下がると思うのか!」

「ここで身を滅ぼすか。お前の子どもたちもやられ、魔物を生み出す陣も失われた今、お前一人で為せることはなかろう。潔く諦めよ。さればなるべく穏便に、ことを終わらせてやろう」

「────馬鹿にしているのか」

「俺は大真面目じゃよ」

 アルの手には神狼の槍。ラコスは大鎌を手にしたまま、辺りを見回す。味方は誰一人いない────ここまでか、とラコスが思ったその時、突然空間が震え、空に亀裂が入った。

「?!」

「!」

 その場にいる者たちは皆、空を見上げた。亀裂が開き、奥に亜空間が広がる。その中から、巨大な何かが現れる。

「……何だ……」

 エレンは思わず呟いた。全身をゾクゾクとした感覚が這い回る。

「ヘドラ……!」

 ラコスが叫ぶ。亀裂からズズズと現れた異形の何かは、黒い靄と共に収束して人型になった。……とは言え、それでも目はぎょろりとして、腕も長く随分と異形の姿であった。

「ハハ! 久方ぶりの天界ですね! 時間は掛かってしまいましたが……概念世界を通じて助太刀に参りましたぞ、我が主よ!」

 両腕を上へ掲げたそれは、ゆるりと下を見回すと口角を釣り上げる。

「初めから我らにお任せ下されば良かったものを。忌まわしき天の世界など、一瞬にして悉く滅ぼして差し上げますのに」

 彼の後ろの空間が、次々と開く。そして似たような巨大なものが現れ、いずれも人型へと変わる。

 そこにあるのは邪悪だった。ラコスには感じない、彼よりももっと純粋な悪しき存在であった。

「……邪神ヘドラか。久しいの」

「! 邪神……?!」

 アルの言葉に、エレンは彼の方を見る。アルは邪神から目を逸らさずに続ける。

「奴は始まりの邪神であり、その王じゃ。元人間……原初の頃に、ラコスを陥れた者じゃ」

「人聞きが悪いですね。主を陥れたのは、あなたの方でしょうに、創造主!」

 ヘドラが創造主を指差す。その様相は、どう見ても人間には見えなかった。

「元人間……人間が邪神になれるのか」

「現代人には無理ですよ。我々原初の人間とは格が違い過ぎる。……我らを疎んだ創造主が、皆滅ぼしてしまったのです。そして矮小な者として創り直した」

「!」

「────昔の話じゃ。しかし、お前を見ていると……間違いでは無かったと、そう思うがな」

 アルは否定せずにそう応えた。ヘドラは忌々しげにその長い指で顎をさする。

「あぁ、なんと邪悪な神でしょう。人間たち、その様な神を信じるのですか」

「……お前の方が邪悪に見える」

「はは! 恐れ知らずですね。面白い」

 エレンの答えを、ヘドラは笑い飛ばした。そして片腕を上げる。

「まぁ、無駄話はこのくらいでいいでしょう。さぁ、ラコス様。最高の復讐をご覧にいれましょう」

 周りの邪神たちが、一斉に構えた。開いた空間から、闇の力がどんどん流れ込んで来ているのを感じた。

「……これ……ヤバいんじゃないか」

「おぉ、なかなか本気じゃのう」

「呑気だな!」

 チラリとフォレンとロレンの方を見る。彼らがこの魔障に晒されたら、またマズいことになる気がする。

 どうにかしなければ。いや、果たして自分にどうにか出来ることなのか────エレンはそう思いながらも、武器を構える。少なくとも、何もしないで受ける訳にはいかない。

 と、その時辺りが眩く光り輝いた。すると、白き光を纏った巨大な獣人たちが、次々と邪神に向かって行く。

「……! 何だ」

「裁きの姿じゃ。智天使に持たせた特権よ」

「……じゃあゼイアやサファラも……」

「うむ」

 (イャート)聖女(サルハ)が先陣切って突っ込んで行く。ヘドラのすぐ後ろにいた邪神たちがその剣によって斬り捨てられた。

「ぬっ……創造主の分霊が……忌々しい!」

 (シャルケリス)が疾風の如く飛びながら、光の矢を放った。撃ち落とされる邪神たち。ただ一人、ヘドラだけがそれを払う。そして向かって来た隼へ、両掌を向けた。そこから発射された何かが刺さり、隼は地に落ち眼帯の黒髪の神徒の姿へと戻った。

「なあっ……がっ……」

『シャル! きゃっ!』

 (フィフィラン)が叫び、そして同じように穿たれて地に落ちる。濃い金髪の神徒の姿に戻った彼女は、苦しそうにしている。見れば、その胸に刺さっているのは杭のようだったが、血が出ていないところを見ると、どうやら魔術的なものらしい。

「ふふ、対策済みですよ智天使共! 創造主の切り札……出て来ないわけがありませんからね」

「……なるほどのう、俺の力を封じるものか。あれは少々俺にもマズいな」

「え?!」

 アルが言うのでエレンは「じゃあどうするんだ!」と叫びたくなる。ここに来て万事休すか。見上げると、残った邪神たちと、ヘドラが再び構えている。その頭上に、深淵が球状に渦巻いている。闇竜のブレスを思い出す。あれは……喰らえばその存在ごと、跡形もなく消し去るものだろう。

 と────その時。彼方から飛んで来た光の剣が、ヘドラの胸を貫いた。次々と剣が飛んで来て、残っていた邪神たちを斬り裂き、渦巻いていた深淵を祓った。

「────な」

「ほ。なんとか間に合ったようじゃの」

 アルがそう言いながら遥か後方を見上げた。光の筋が空から飛んで来て、まだ浮いているヘドラの前で人の形を取った。

「我らが神の世界で好き勝手しよるわ。醜き神の紛い物が」

 それは美しい白い────いや、光のようなと形容するに相応しい髪を持った女だった。額の右側には角が生えている。だが、悪魔ではない。

「───光輝神(シャルク)!」

「軽々しく我が名を呼ぶでないぞ。我が存在が穢れるわ」

 叫んだヘドラを、シャルクは光の剣で斬り裂いた。墜落した邪神を、地面から伸びた無数の影が捉えた。

「…………!」

 勿論、エレンの仕業ではなかった。いつの間にか地上に、黒いローブの人影があった。フードから二本の曲がった角が覗いており、垂れた髪と、ローブの下から覗いた尾は深淵のような色をしていた。

「……まったく……僕にはこの世界は眩し過ぎるというのに。引き摺り出される身にもなってみろ。わざわざ闇から出向いて来て、ご苦労なことだ」

 その神は気怠そうにそう言った。ヘドラを縛る影は、主の命令を待つようにうぞうぞと蠢いていた。エレンは辺りの影たちが騒ついているのを感じる。

「……影の神……?」

『────お、オルバス様ですよ! 客間に絵が飾ってあったでしょう?!』

(え? あぁ……あぁ?)

 リリスの興奮した声に、エレンは思い返す。確か……リリスと出会った部屋に、彼の肖像画があったような、なかったような。

(……お前の先祖ってこと?)

『そうですよ! うわぁ……』

『っていうか全ての影の祖っていうか、司る者だからな……ひょえ……すげーな、こんなに影のエレメントが()()してるのは初めて感じる』

 オルバスはその場でヘドラを拘束したまま、そしてほかの邪神たちのことも拘束した。自身が触れていない影までも操る────それはまさに、影の王であった。

 立ち尽くしているラコスの元へ、シャルクがふわりと降りて来る。彼女は優しげにラコスへと歩み寄った。

「久しいのう、ラコスや」

「……姉上──……」

 優しい笑みに、ラコスは毒気の抜かれた顔をする。シャルクの手が、魔王の顔の傷痕に添えられた。

「おお、可哀想に。こんなにもやつれて。お前は優しい子だったというのに。二度と会わぬと思っていたが、この様な形で再び相見えることになろうとは」

「姉上、私は……」

 ラコスの鎌を持つ手が、カタカタと震えている。うんうん、とシャルクは頷いた。

「ふふ。今にも私を斬りたそうだのう。分かっておる、だがやめておけ。神の力を削がれたお前は、もはや私には敵わぬ」

 女神は優しく微笑んでいる。気が付けば、ヘドラの術が解けた智天使たちが周りを取り囲んでいる。邪神たちは影の神によって捕らえられ、もはや増援は望めない。

 ラコスは鎌を取り落とす。戦いの果て、魔王は自らの敗北を認めた。



#113 END



to be continued...

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ