フラペチーノ、ティー抜きで
「マンゴーフラペチーノ1つ、ティー抜きで」
大きな駅には必ずと言って良いくらい入っている、超有名なコーヒーチェーン。
彼女が注文したのはそこに常設のフラペチーノの1つで、その店のメニューとしては珍しくコーヒーが入っておらず、マンゴージュースとパッションティーをブレンドして作られる品だ。
「……いつも頼んでるよね、それ」
「まあね」
どうやら彼女はそれがお気に入りのようで、頼むものに困った時は毎回それを選んでいる。律儀なことに、決まってティーを抜くところまで一緒だ。
「だってあたし、紅茶もコーヒーも飲めないし。……あ、飲めないと思うから飲めないんだ、とかはナシね? 散々言われて嫌になってんの」
「……まだ何も言ってない」
「第一、そんなこと関係なく飲めないんだし」
「なんで」
「だって苦いじゃん、アレ」
……それが紅茶やコーヒーだろうに。
ついつい呆れを隠せなかった私の隣で、彼女はふて腐れたようにストローを吸っていた。
「大体、紅茶入ってなくても美味しいからね?」
「飲んでみ」とでも言うように、彼女は私の真ん前にカップを突き出した。
おずおずと口をつけたストローから広がるのは、とろりとして甘酸っぱいマンゴージュース。マンゴーアイスをそのまま溶かしたような、冷たくて爽やかな夏の味だ。
「……絶対、冬に飲むもんじゃない」
「あはは、それはそーかも」
しかし、今の季節は冬。一口飲んだ瞬間、体が凍り付きそうな感覚に震え上がりそうになる。ここまで温かいコーヒーが恋しくなったのは久しぶりかもしれない。
想像以上の冷たさに顔を顰めた私に、彼女は「あったかいフラペとかあればいいんだけどねえ」と笑った。その割に、ストローを吸う彼女の顔は平然としていたけれど。
本当に、彼女とは感覚が合わないらしい。
温かなコーヒーにほっと息をつきながら、私は内心勝手にそう思う。
「ね、この後どこ行こっか」
「……そろそろご飯食べに行く、とか?」
「いいね。あ、じゃあ新しくできたあそことかどう?」
「いいよ」
それでも。何もかもが正反対でも。
今日もくだらない話をして、無意味に街をぶらついて。時々、お互いの違いに眉を顰めたりしながらも、私たちは友達を続ける。
真逆だって、少しくらいは分かり合えるらしいから。