海月
海の月、と書いてくらげと読む。
漢字の由来は読んで字の如く、海に浮かぶその姿がまるで月のように見えるから、だそうだ。これと全く同じ理屈で、「水月」とも書くらしい。
…とは言うものの。
「こんなにうじゃうじゃいたら、月には見えないかな」
「…確かに」
君に誘われて訪れた水族館。照明の落とされた薄暗い空間で、丸く象られた水槽の周りだけがぼんやりと照らされている。
その水槽の中を、小さな海月たちがゆっくり漂っていた。その数は十、二十…きっと、三十は下らないだろうか。
儚げで綺麗なのは間違いない。しかし到底、月とは似ても似つかない姿だった。
「じゃあ、何に見えるっていうの」
拗ねたような顔で、君は私に聞く。此処に来る前、海月の由来を得意そうな顔で話していたのを思い出す。
今日の為にわざわざ仕入れてきたのだろうかと思うと、そんな顔もどこか愛おしい。
「…雪、かな」
自分には、淡く儚い雪のように見える。スノードームの中でひらひら舞い落ちる、淡い雪。
風にあおられればすぐにどこかへ飛んで行ってしまいそうな儚さも、音もなく静かに漂う姿も、よく似ていると思う。
(どことなく、君にも似ている)
柄にもなく、そんなことまで考えてしまった。