ただし26歳です
ただの男の子だったはずの子が実は両親が魔法使いで魔法使いの学校に通うようになる大好きな大好きな物語。
いろんな困難に当たるけど、友達と協力しながら時には喧嘩もしながら生きていく物語。
だから私も待ってた。
11歳の夏の誕生日に迎えに来てくれるかな、って。
でも来なかった。
12歳の誕生日も。
中学生になってしまった13歳の誕生日にも。
私は認めたくなくてでも本当はわかってたことを認めないといけなかった。
凡人のただの人間には物語のようには生きていけないんだって。
小説を読むことが好きなまま成長した私は26歳になった。
ただの社会人。なんにもやり遂げてないし、毎日毎日会社に行っては仕事をして帰って眠ってまた会社に行く日々。
そんないつもと変わらないある日、
「ぱんぱかぱーん」
と部屋に入ってきた猫、じゅうから声がした。
「え・・・」
なになになに、怖い。今、じゅうちゃんから声がしたよね?
にゃー、じゃなかったよね…?
「いや、私疲れすぎやん、幻聴まであるなんて」と声に出すと
「幻聴じゃないよーん」
とまた声がする。
しっかりとじゅうの可愛いお口が動いてる。
私の口が馬鹿みたいにぱかーんと開いてたのだろう、じゅうが「ねえ、口閉じたほうがいんじゃない?あと叫ばないでね、パパさんびっくりしちゃうよ」と、言う。
私は父と二人暮らしで、父は居間でうたた寝しながらテレビを見ている。 たしかに叫んだら大事になるので、とりあえず口を閉じて、深呼吸した。
だけど、口から出た声は上擦っていて緊張はほぐれない。
「え…と、じ、じゅうだよね…?」
「そうだよーん」
「猫だよね?」
「まぁ、猫だねぇ」
「な、なんで人の言葉を…?」
「んー、まぁ、そこはあとで説明するからさぁ…とりあえずお姉ちゃん魔法少女になって」
え、は?どういうこと??
てか、じゅうちゃん、私のことお姉ちゃん呼びだったんだ、可愛すぎん???
「んーとね、右手を突き出して、左手は腰に当てて足は肩幅で」と、かしかし耳付近を足でかきながら言う。
混乱しながらも言われた通りにすると
「ちっがーう!!お手々逆!」
どうも混乱した頭じゃ上手く動けず逆になってたみたいで怒られた。
急ぎ直すと、ぱぁーとかすかに体が輝き、着ていた会社の制服ががシュルシュルと変わっていく。
光が落ち着くと真っ黒でシンプル、だけど襟のところにレースがついたりして可愛いワンピースに変わっていた。
「え、え、え、なに、どういうこと?」
私の疑問には答えず、じゅうは
「うんうん、可愛い可愛い、耳もピッタリだし、尻尾も良さげだね」なんて言う。
え、耳?尻尾?なんのこと?と思い、急いで耳を触ると特に変わりはない。
そんな私の考えを見透かしたのか、じゅうがトントンと器用に自分の可愛いお手々を頭に当て、そして尻尾にも当てる。
その動きにつられて頭を触れると
「え!?猫耳じゃん!? 」
お尻に触れると
「し、しっぽじゃん…」
「似合ってる似合ってる」
黒くて長い尻尾がワンピースのお尻付近から出てきていた。
「これ、26歳にはきつい格好だと思うんだけど…?」
「鏡見たら?」
「嫌だよー!!だけど、見る…」
きっついわ、こんな格好…と思いつつ内心ちょっと期待して鏡を覗く。
「やっぱり、きっついわ!!!」
と思わず叫び
居間から「なんを叫びよんのか!!」と父の声。
急いで「ごめん、なんでもない!」と返す。
じゅうが「にゃふにゃふ」と笑い、「似合ってるよ〜ん」と言う。
そんなじゅうをじとーっと見る。
「まぁ、いいや。これ戻るんでしょ?」
「戻るよ、戻るけどやることやってからね」
と言われ、
「やること??」
と疑問に首をかしげると
「お姉ちゃんさぁ、魔法使いになりたかったんだよね?」
「いや、なりたいというか魔法学校に行きたかった、というか、誰かが迎えに来てくれて特別な自分であの家から出たかったというか」
モゴモゴ言うと、
「じゃあ、良かったじゃん、夢が叶ったね、今日からお姉ちゃんは魔法少女?だにゃーん」
と急に可愛らしく語尾をつけて言われる。
少女に?がついており、26歳に少女はきっついだろ、と思いつつも、大混乱してる脳みそでは言葉も上手く出ず、とりあえず「あ、はい…」とだけ返事をしておいた。