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「陛下、王女は見付かりましたか」

「ああ」


 アストリは毛布を体にまきつけ、まるまって、すすり泣いていた。目の前がちかちかする。ひどい頭痛と、吐き気がしていた。

 すぐ傍にあの男が居た。たった今「陛下」と呼ばれた男、アストリの心臓を握りつぶすような真似をした男が。


 アストリは痛みをこらえている。


「もう契りは結んだ。婚姻の儀は今夜でいいだろう。大司教は?」

「護送させています」

「それはいい」

 男が動くと寝台がきしんだ。「我が妻よ。少し寝るといい」

 体中が痛いのに眠れる訳がない。




 しばらくすると乳母がやってきた。乳母だけでなく、若い、アストリくらいの女も一緒だった。

 若い女は、いやに丁寧なのにどうしてだか気持ちの悪い手付きで、アストリの体の血を拭った。傷をこするようにして。アストリがそれで体を震わせると、彼女はほんのわずか満足そうにするのだった。

 たらいの水で体を清めた。乳母と女がアストリに絹の下着を着せた。ほとんど女がやったことだ。

 ドレスを着、若い女がアストリの髪を好き放題にひっぱって結いあげた。アストリはじっとしていた。もう涙も出なかった。


「奥さま」

 若い女はアストリをそう呼ぶ。アストリは反論したいが、言葉が出ない。それは、お母さまのことよ。わたしはお嬢さまよ。

「陛下はこの部屋は陰気でおきらいだそうです。階段も長いですし、下の階にうつってくださいませ」

 アストリが答えないと、女はアストリのせなかをひっ叩いた。

 アストリはそれでも黙っている。




 ドレスを着せられたアストリは、怯えきって立っていた。

 向かいにはあの男が居る。陛下と呼ばれた、黒いマントの男だ。

 そして、ふたりの間には白い服を着たふとった男が居た。

 アストリも今は、人間には男というものがあると理解していた。乳母がそのように教えてくれたのだ。


 その乳母達は、隅のほうで縮こまっている。

 そこは、「塔」内の一番ひろい部屋だった。ふとった男がよくわからないことを延々喋っている。アストリはそれを理解できない。

 黒いマントの男が自分を見ているのがいやで、アストリは目を伏せた。

 きがえを()()()()のとは別の女が来て、アストリにゴブレットを持たせた。中身を飲まないといけないらしい。

 アストリはそれを飲んで、後悔した。吐きそうだった。

 黒いマントの男が同じようにゴブレットに口をつけている。

 そのあと、ふとった男がなにか云って、承諾するように云われた。アストリは訳のわからないまま承諾した。


 黒いマントの男がにっこり笑う。

「これで、この国が手にはいった」

 アストリは喘ぐ。若い女達がアストリの背後へやってきた。

 男が肩越しに後ろを見る。

「乳母達にはいとまを。我が妻には快適にすごしてもらいたいのでな」

 乳母達が、同じ服を着た男の集団に、ひったてられていく。

 アストリは悲鳴をあげた。






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