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5.手品のタネを見ちゃった気分だよ

「うわ、これ、ええ、そういうことなの?」


 わたくしが睨みつけているのにも構わず、男の子が呆れたような声を出しました。

 額の熱さも忘れて、聞き返します。


「いかがされましたの?」

「今、契約を結んだら、僕と君はリンクされた状態になるわけで……君の事情があらかたこっちに流れ込んできた」

「まぁ」


 今の一瞬おでこをつんとされただけで、契約が結ばれたのですね。

 もっと何か大仰な儀式があるのかと思ったのですが、少々拍子抜けです。


 わたくしの事情と言うと……わたくしが転生してきたとか、前世の記憶があるとか、ここが悪役令嬢モノの小説の世界だとか、そういったことでしょうか。

 まぁまぁ、それは、それは。


「説明が省けて助かりますわ」

「わぁ……これは道理で……面白い魂だと思ったら、そういうことなんだ……2人分入ってるんだ」


 にっこり笑ったわたくしに対して、精霊さんはがっくりと肩を落として頭を抱えています。

 何だかひどくがっかりしているように見えますけれど……はて、どうしたのでしょう。


「手品のタネを見ちゃった気分だよ」

「そういうものですの?」

「うん。そして悲しいことに、僕はその種のわかった手品を今後数十年に渡って見続けなくちゃならないことが確定した」


 精霊さんがまたため息をつきます。目が虚ろです。

 きっとよほどお仕事に疲れているのでしょう。おかわいそうに。


「嫌だ……すごく嫌だ……今すぐ帰って寝たい」

「ああ、そうですわ。これから一緒に暮らすなら、貴方のお部屋が必要ですわね」

「ちがう、そうじゃない」


 ぽんと手を叩いたわたくしに、精霊さんがじとりと胡乱げな目を向けます。そんな目をされましても、わたくしにはどうしてあげることもできません。


「はぁ……何で出てきちゃったんだろう。だいたい僕は今日有休取りたかったのに、課長が会議入れるから……」

「精霊さんの会議って何ですの?」

「人間には関係ないよ」


 冷たく跳ね除けられます。

 有給は労働者の権利だというのに、取りたい時に取れないなんて、おかわいそうに。

 死んだ目になるのも致し方ないかもしれません。


 ですが、労働環境というのは誰と働くか。わたくしと契約を結んだ以上、彼はわたくしの元で働くことになるのと同じです。

 それなら、わたくしが彼の労働環境を良くしてあげることはできますわね。


 ブラック労働に疲れた彼の目を生き返らせてあげましょう。

 だって、とっても整ったお顔をされているんですもの。きっとにっこり笑っていたら、とってもカワイイはずですわ。


「そうですわね、わたくしの従者として、わたくしのお部屋の近くに……ええと。貴方、お名前は?」

「……フィリップ」

「フィリップ。フィルね」

「ねぇちょっと、馴れ馴れしい」


 わたくしの問いかけに、精霊さん……フィリップが答えます。

 精霊さんって姓はないのでしょうか? それとも水の精霊とか、風の精霊とか。そういう呼び名が別にあったりするのでしょうか?


「わたくしはメリッサベル。メリッサベル・ブラントフォードです」


 わたくしもフィルに対して名乗ります。

 ばあやがお姫様のようだと褒めてくれるカーテシーを披露しました。


「わたくしのことは……そうね。『お嬢様』と呼んでくださる?」

「オジョーサマ?」

「呼ばれてみたかったんですもの」


 怪訝そうに棒読みするフィルに、わたくしは鷹揚に頷きます。

 ばあやもじいやも、領民たちもわたくしのことを「お姫様ひいさま」と呼ぶのですもの。せっかく令嬢なのですから、お嬢様と呼ばれてみたかったのです。


「……お姫様よりはマシかぁ」


 頭を掻きながら呟いたフィル。どうやらお嬢様と呼んでもらえそうです。


 やりましたわ。わたくしは内心万歳をしました。

 使用人のじいやとばあやはいますけれど、2人は突き詰めればお父様の使用人ですもの。わたくしだけの従者というのは初めてです。わくわくするのも無理はありません。


 わたくしは足取りも軽く歩き始めます。

 ふと、後ろを歩いてついてきたフィルを振り返り、問いかけます、


「ああ、そうですわ。フィル、貴方お掃除は出来て?」

「は?」

「自分の使うお部屋は、自分でお片づけして頂戴ね」

「……帰りたい」


 フィルがまたため息をつきました。


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