表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/63

54.近年稀に見る最悪の一日

 わたくしとしたことが、一生の不覚。

 夜更かしをしてしまった挙句、変な時間に寝落ちしました。


 ゴールデンタイムには絶対にベッドに入っていると決めていましたのに。

 どうにもこうにも寝付けなくて、単純作業をしていたら眠くなるかしらとお洋服のリメイクを再開したところ、思惑通りに眠たくはなりましたがそのままノックアウトされてしまいました。


 フィルが朝方ベッドに運んでくれたようですが、ベッドで寝なさいと怒られるばかりか、お肌のコンディションがいつもよりも悪い気がしますし、前髪にも妙な癖がついてしまいました。

 夜更かしが祟って寝坊をしてしまったので、最近日課にしていた朝のヨガも出来ていません。

 お化粧の出来もいまいちです。


 いくら全宇宙一カワイイわたくしでも、こういう日はあります。

 そもそもすべてが奇跡的なバランスで成り立っているのですから、1つがうまくいかないと、ドミノ倒し的にすべてがうまくいかないのです。


 最悪です。近年稀に見る最悪の一日が幕を開けてしまいました。


 もとはといえば、フィルがいけないのです。

 オフィーリア様の話をしたときの、あの笑顔。やさしげな瞳。

 前の契約者さんの話をしていたときの表情と、似ていました。


 滅多に人を褒めたりしないフィルが、オフィーリア様のことを「カワイイって言うのも分かるかも」なんて言ったのも違和感がありました。

 わたくしの知る限りフィルが褒めたのは、前の契約者さんと……そして、オフィーリア様のことだけです。


 もしかして、と思います。

 いえ、もしかするほど意外なことではないのかもしれません。

 何と言ってもここは悪役令嬢モノの世界で、オフィーリア様は悪役令嬢なのです。加えて、オタクにもやさしいギャル。

 好きにならない要素がないのです。


 フィルも男の子――で、いいのでしょうか。見た目はツノ以外は普通に男の子、ですし――なのですから、オフィーリア様を溺愛する側になったって何もおかしくはありません。


 ですがオフィーリア様には、クロウ様がいます。お2人はどこからどう見ても、ラブラブです。相思相愛です。

 きっとウィリアム様との婚約破棄も秒読みでしょう。

 フィルがたとえオフィーリア様を愛しても……その恋は、叶うことはないのです。


 ……いえ。そう心配する気持ちは、もちろんあるのですけれど。

 それはそれとして、わたくしがなかなか寝付けなかった原因は……もっと他の部分にありました。


 端的に言えば、嫌だったのです。


 だってもしフィルがオフィーリア様のことを好きになって、もしスローライフについていってしまったら、わたくし一人になってしまいますもの。

 わたくしの従者なのに、あんまりですわ。ホームシックが加速してしまいます。

 まぁ普段から従者らしい態度かと言われると、はいとは言えませんけれど。


 それでも、わたくしが出かけますよと言えばついてきてくれるし、わたくしが悪口を言われていたら怒ってくれるし、わたくしが寝落ちしていたら、布団をかけてくれるのです。

 変な子とか言ったり、憎まれ口を叩いたりもしますけれど、それなりに……


 …………あら?


 ふと、わたくしは気づきました。

 気づいてしまいました。


 あら? あらあら?

 わたくし、もしかして……


 ……フィルにカワイイって言ってもらったこと、ないのではありませんか?


 どがああああああああん!!!!!!!


 教室中が揺れるような轟音が響き渡りました。


 いえ、わたくしに衝撃が走った心象風景の比喩とかではなく、本物の轟音です。

 というか、揺れています。音だけにとどまらず、校舎ががたがたと揺れています。


 何かしらと皆さんがざわつき……窓の外に気づいた一人が、悲鳴を上げました。

 わたくしも窓の外を見て、息を呑みます。


 ぎょろりとした大きな目玉が、窓から教室を覗き込んでいたのです。


 あっという間に教室は阿鼻叫喚、皆が一斉に廊下に向かって駆け出します。


「メリッサベル!」


 呆然と立ち尽くしてしまったわたくしの名前を、フィルが呼びました。

 彼の腕の中に引っ張り込まれた瞬間、教室の窓を割りながら大きな爪が這入って来て……教室の窓側3分の1ほどが抉り取られ(・・・・・)ました。


 がらがらと、床も壁も、崩れていきます。机と椅子が、下の階に落ちました。


 わたくしを抱き上げたフィルが、廊下の窓から外に飛び出します。

 風魔法で宙に浮き、少しずつ下降しながら校庭へと向かいます。下を見ると、先生と生徒も皆校庭に避難しているようでした。


 フィルに運ばれながら、わたくしは振り返ります。

 大きな目玉、そして大きな爪。その持ち主は――翼をばたばたと揺らしながら、校舎にしがみついておりました。


 鱗に覆われた肌、鋭い牙と爪、こうもりのような形の翼。

 爬虫類のような……いえ、恐竜のようなフォルム。建物とハグしているように見えるほど、巨大な身体。


 わたくしは、思わず叫びます。


「竜――――――!?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書き下ろしもたっぷりの書籍版はこちら↓
i000000

もしお気に召しましたら、
他のお話もご覧いただけると嬉しいです!

転生悪役令嬢+男装モノ【第1部完結済】↓
【書籍化決定】モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました

ホラー風味シリアス短編↓
悪役令嬢は自称・転生者の夫に溺愛される ~どうやら破滅は回避したようです~

なんちゃってファンタジー短編↓
こちら、異世界サポートセンターのスズキが承ります

異世界ラブコメ系↓
ソシャカス姉ちゃんがプレイしてるゲームのヒロインが(都合の)いい子過ぎるので我儘を教えたい

― 新着の感想 ―
[一言] お嬢さまの気付きに「そっちじゃねーよ」とツッコンだ気持ちのまま読み進めていたせいか、ギョロリと大きな目が覗き込んでいるという文に 「このロリコンどもめ!」というあのバグベアがまざまざと蘇り、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ