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53.レトロめで昭和で味がある

本日より1日3回更新を行います! 朝昼晩更新の予定です!


今回更新分は前半はメリッサベル視点、後半はフィリップ視点です。





 オフィーリア様が追放(?)されてからしばらくして、手紙が届きました。


 お手紙の他に、にゃんまるさんが念写したという写真が入っていたのですが……どこかカントリー風なお洋服を着たオフィーリア様が、ギャルピースに伏し目がち盛れポで写っていました。

 わたくしの両親と、領民のみんなと一緒に。


 先に写真を見てしまったわたくしは、目が点になります。

 一時停止ののち、慌てて手紙に目を通しました。


 ――メリちが紹介してくれた田舎、マジで絵に描いたガチ田舎! って感じでマジ卍! でもメリちのパパもママもちょー優しーし、牛カワイーし結構イケそうな気する!


「フィル!」

「何?」


 この場にいないオフィーリア様の代わりに、フィルの肩を掴んで揺さぶります。


「わ、わたくしの実家が田舎扱いされてますわ!」

「田舎じゃん」

「地元でスローライフを送られる側の気持ちになって!」

「田舎だもん」


 手紙を握る手がわなわなと震えます。

 田舎ではありません。王都への乗合馬車も1日に3本も出ていますもの。

 ちょっと人間より牛の数が多いだけですわ。


 ――近所のばーちゃんじーちゃんも皆ガチでやさしーし。めちゃいいトコじゃん? ってなったから、いろんな人に来てほしーってなって。メリち猫カフェとか言ってたし、隠れ家風? 古民家風? のカフェ作ったら、何かそーゆーの好きそうなコダワリ系のアーティストにウケて。今度使ってない家とかデザイナーズハウス? みたいにして、イベントやることになったっぽい! またチラシとか送るわ!


「フィル!」

「何?」

「わたくしの領地が若者誘致を目指した田舎の町おこしテンプレみたいなことしていますわ!」

「諦めなよ。田舎なんだって、お嬢サマの実家」

「諦めたらそこで試合終了ですわ!!」

「何と戦ってるの?」


 ――何か盛り上がっててさー。じーちゃんばーちゃんも張り切ってて。メリちパパも子育て世代の支援? みたいなこと言いだしたし、そっち路線でも売り出してくっぽい。街もなんかレトロめで昭和で味があるし、絶対若者にもウケるっしょ!


「ぐおおおお」


 ついにわたくしは膝を折りました。

 レトロめで昭和で味がある。実際にそこに住んでいる者の心を抉るようなストレートです。

 レトロではありません、現実です。それがリアルタイムなのです。


 すっかり心を削り取られながら手紙を封筒に戻していると、もう一枚写真が入っているのに気が付きました。


 すっぴんで眉がないながらも屈託なく笑っているオフィーリア様と、見たことがないほど穏やかに微笑むクロウ様、そしてにゃんまるさんの後頭部が写っていました。

 二人は自然な様子で食卓を囲んでいて――その空間の雰囲気がすべて凝縮された、とても幸せそうな写真でした。


「オフィーリア様、家庭的なタイプのギャルでしたのね」

「これがギャップってやつか」


 オフィーリア様、おいしいパスタ作っていました。

 家庭的なギャルとか嫌いな方がいるのかしら。


 先ほどまでの心理的なダメージはどこへやら、すっかり幸せオーラに当てられて、知らず知らずのうちに頬が緩みます。


「今のオフィーリアさまは……学園にいらっしゃったときよりも、とっても可愛くなられましたわね。わたくしよりも、カワイイくらいに」

「え? ……そう?」

「そうですわ。ご存じないの?」


 不思議そうに写真とわたくしの顔を覗き込むフィルに、わたくしは自信満々に笑って見せました。


「一生懸命恋する女の子が、世界でいちばん可愛いのですわ」

「ふぅん」


 いつもどおり興味がなさそうに呟いたフィルですが――その日は、いつもと少しだけ、違いました。

 ふっと優しげに唇で弧を描き、呟いたのです。


「まぁ、君の言うことも……分からないでもないかな」



 ◇ ◇ ◇



「お嬢サマ?」


 ノックをしても呼びかけても、返事がない。

 いつもこのくらいの時間には起き出して、ヨガだスキンケアだとばたばたしているのに、珍しい。

 僕はアイロンがけが終わった制服のシャツを渡しておきたいだけなんだけどな。


 勝手にドアを開けて部屋に入ると、フリルと布にまみれて、毛玉のようになったメリッサベルが、机に突っ伏してすやすや寝息を立てていた。

 何をしていたのかと手元を覗き込むと、無断で持ち出した僕のシャツをぎゅっと握りしめている。

 苦笑いとため息が漏れた。


「また僕の服に勝手にフリルつけてる……」


 学園の始業まではまだ時間がある。もう少し寝かせてやろうと、魔法でメリッサベルの身体を持ち上げて、ベッドに運ぶ。


「んん……」


 毛布を掛けてやると、小さく唸って寝返りを打つ。

 何かむにゃむにゃ言っていたので、そっと顔を近づけて聞き耳を立てた。


「カワイイですわよ、フィル……」


 ふにゃりと頬を緩めて笑うメリッサベルに、危うく噴き出すところだった。

 軽く頬を突いて、その寝顔を眺める。頬を突くと眉間に皺が寄ったのが面白かった。


「寝てても『カワイイ』のことばっかり」


 僕には、人間の言う「カワイイ」がどういうことなのか、よく分からない。

 でも、メリッサベルを見ていて感じる、心臓を軽く握られるようなこの気持ち。

 もしかして、これが「カワイイ」なのかな。

 一生懸命なのは「カワイイ」って、メリッサベルも言っていたし。


 気の抜けた顔で寝息を立てるメリッサベルを見つめる。


 本当に一生懸命で、諦めが悪くて、まっすぐ一直線で、ブレなくて、変な子で。

 そんな君なら……君となら。僕とアイツでは気づけなかったことにも、気づけるかも。とか。

 そう思ったりするこの感情が、「カワイイ」ってことなのかな。


 だとしたら、お嬢サマは十分に、カワイイよ。

 これ以上可愛くならなくて、いいくらい。


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