48.海でモリ突きしている節約バラエティー番組
前の話が閑話だったのと、今回のお話がキリの良いところでカットしたら短くなったので、今日は昼にももう1話更新予定です。
「お嬢サマ、また繕い物してるわけ?」
「はい! オフィーリア様がもう着なくなったドレスをくださったので、リメイクしていますの」
「ふぅん」
フィルが興味のなさそうな声を出して、ソファに座るわたくしの隣に腰かけました。
田舎で静養するために王都を離れるからと、荷物を整理された際に捨てるはずだったものをいただいたのです。
「メル○リじゃなくてメリカリだね」と言われて反応に困りましたが、お衣装自体はどれも素晴らしく、捨てるのが惜しかったのでありがたく頂戴いたしました。
フィルは特に何をするでもなく作業をするわたくしの手元をじっと見ていたので、暇を持て余しているのでしょう。
「魔法でやればいいのに」
ぽつりと言われて、ふと思い出しました。
そういえば、フィルに確認したいことがあったのですわ。
「ねぇフィル。一つよろしいかしら?」
「何? フリルの話は知らないよ」
「いえ、魔法の話です」
わたくしの言葉に、フィルがこちらに視線を向けます。
闇夜に輝く月のような瞳に、わたくしが映っていました。
「わたくし気づきましたの。魔法って……便利だけれど、便利じゃないって」
「……ふぅん?」
フィルが顎でしゃくって、わたくしに続きを促しました。
まぁ。お行儀の悪いこと。
「たとえば、これ」
わたくしは、お裁縫セットの中から10センチほどの長さのブレード――服の縁などに使われる飾りのことです。お姫様のドレスとか、王子様の服とかについている金色の飾り、と言うとイメージしやすいでしょうか――を取り出しました。
太さもしっかりとありますし、飾りの複雑さと密度もあって、たいへんゴージャスな印象です。
「こちらがメートル1,980Gのブレードです」
「は?」
フィルがあんぐりと口を開け放ちます。
ちなみにこの世界の通貨単位、「G」はだいたい「1G=1円」です。さすがは日本製、非常に分かりやすいですわ。
彼がわなわなと手を震わせて、わたくしが持っているブレードを指さしました。
「1メートル、1,980G?」
「ええ」
「その、金ぴかなだけで装飾以外に用途のなさそうな、ぴらぴらしたやつが?」
「ええ」
フィルの言葉を肯定します。
短い期間ですがわたくしの実家で暮らしたことのあるフィルは、わたくしにとって1980Gがどのくらいの価値を持つのか……よく理解してくれているでしょう。
「1,980Gといえば、わたくしの二週間分の食費です」
「それは逆に安すぎるよ」
否定されましたけれど、この世界の1人暮らし世帯の食費の平均とか、知っているのでしょうか。
フィルがお金を使っているところ、見たことありませんけれど。
「実家からお米と野菜送ってもらってる? それとも海でモリ突きしてるの?」
「あなたのその知識はいったいどこから来ているのかしら」
苦笑いしてしまいました。
段々慣れてきましたけれど、西洋風のお綺麗な顔で「実家からお米」とか言っているの、違和感しかありませんわ。
フィルの現代知識、本当にわたくしの記憶から得ただけなのでしょうか?
確かに海でモリ突きしている節約バラエティー番組とか、見たことありますけれど。
そんなに好きだったというわけでもないので、そうとうじっくりとっくりわたくしの一生を見ない限り、記憶に引っかかることもないと思うのですが。
……いえ、精霊さんにとってはわたくし人間の一生なんて、モリ突き以外はたいして見るところのない、3分クッキングくらいのものなのかもしれませんけれど。