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4.最終的にはカワイイおばあちゃまになる

「わたくしはカワイイを追い求め、常に可愛くあり続けることを誓います」


 光の玉が、黙りました。

 何故かしら、ほのかに光が弱くなったような気がします。


「ええと、……カワイイ?」

「『カワイイ』です」

「若さではなく」

「若さではなく」


 精霊さんの言葉に、わたくしは頷きます。


「若さは移ろい行くものでしょう。ですが可愛さは普遍です。わたくしは生まれた瞬間から可愛らしいですし、この後老いて死ぬその瞬間まで可愛くあり続けますわ」


 堂々と胸を張って見せるわたくし。

 だってわたくしは、歳を取ったらカワイイおばちゃまになるし、最終的にはカワイイおばあちゃまになるに決まっているのですもの。


 精霊さんの光が、どんどんと弱々しいものになっている気がしますが、気のせいかしら。


「かつ、可愛さとは内から滲み出るもの。わたくしが存在し続ける限り、湯水のごとく懇々と、枯れることなくとめどなく必要以上にあふれ続けるもの。つまり可愛さは減ることがないのです」

「え――っとぉ……」


 精霊さんはしばらくもごもご何かを言っていましたが、やがてちかちか明滅しながら返事をします。


「ちょっと、持ち帰っていいですか? 誰を派遣するか、上の者と相談するので」

「よろしくてよ」


 ふっと、中空の光の玉が消えました。

 上の者と相談というと、精霊さんも縦割り行政なのでしょうか。

 派遣、という言葉にも妙に事務的な響きを感じます。


 お父様からは、「捧げるもの」に興味を持った精霊が契約をしにきてくれる、と聞いていたのですけれど。

 カワイイを捧げるのですから、きっとカワイイ精霊さんが来てくれるに違いありませんわ。

 語尾も可愛かったらよろしいのに。「○○ルポ〜!」みたいな。


 わたくしがぼんやり変身バングを考えていると、再び中空に光の玉が現れました。

 先ほどよりもずいぶん弱々しい、今にも消えそうな光です。


「上司が良いって言ったので……最初に反応した僕が契約することに……なっちゃって……はぁ」

「あら、そうなのですか?」

「正直僕としてはマジ? って気持ちなんだけど……」


 疲れ切った声でため息をつかれてしまいました。

 よほど上司さんとうまく行っていないのでしょうか。

 労働環境はどこで働くかよりも、誰と働くかだと言いますものね。おかわいそうに。


「しょうがないのかなぁ……こういうの……前例になっちゃうけど……いいのかなぁ……」


 ぶつぶつと何かを呟いて、精霊さんがまた大きくため息をつきました。

 前例踏襲、お役所仕事の匂いがしますわね。


 次の瞬間、ぱっと光の玉が大きくなりました。

 目を開けていられないくらいの光量に、咄嗟に目を瞑ります。

 眩しさでちかちかする視界に慣れた頃、やっと光量が収まってきました。


 光の玉の代わりに、そこには男の子が立っていました。

 ふわりと中空から、わたくしの前に降り立ちます。

 黒い髪に、切長の瞳。さほど長身というわけではありませんが、すらりとした体。つんと澄ました顔つきの、とても綺麗な男の子です。


 ですが、最も目を引くのはその美貌ではありません。頭の左右、耳の上あたりに生えた角。

 まるで羊の角のようにぐるぐると渦巻いていて、それは彼が人間ではないことをはっきりと示していました。

 ぱちぱちと瞬きをするその瞳は、眩しいほどの金色でした。


 呆然と見つめることしかできないわたくしに一瞥をくれて、彼は大きくため息をつきます。その声は、光の玉から聞こえたものと同じでした。

 その男の子はすぅと手を伸ばすと、わたくしの額に指先を当てました。


「あっつ!?」


 急に額が熱くなり、咄嗟に両手で押さえます。

 いきなり何をするのでしょう。わたくしのカワイイおでこが焼けてしまったらどうしてくれるのかしら。


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