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47.おけまる水産よいちょまる

 フィルの言葉に、わたくしは首を傾げます。


『何って……お芝居ですわ。断罪イベントの』

『なんで歌うの?』

『え?』

『なんでテニスするの?』

『え????』


 ぱちぱちと瞬きをします。

 彼が何を言いたいのか、よく分かりませんでした。


『何故って、お芝居ですもの』

『は?』

『え?』


 フィルもきょとんと目を丸くしています。

 わたくしは気付きました。何か決定的に……前提が食い違っていると。

 恐る恐る、フィルに尋ねます。


『お芝居では感情が昂ったら、テニスをして歌うかなと思ったのですけれど……いけませんか?』

『いけませんねぇ』


 即答されました。

 前提も前提、大前提の部分が今、覆されようとしています。

 え?

 お芝居というのは、こう……演技と歌がシームレスに組み合わさったもののはず、では????


『でも、お芝居ってこういうものでしょう!?』

『そもそも「一芝居打つ」ってこういうことじゃないと思う』


 フィルがゆるゆると首を横に振りました。

 足元ががらがらと崩れていくような心地がします。

 そんな、まさか。

 では、わたくしが前世で見ていたものは、いったい何だと言うのでしょう。


『だ、だって前世で見たことのある2.5次元ミュージカルは全部こうでしたわ!』

『知識の偏りが凄まじいよ』


 そんなことを今言われてもどうしようもありません。

 というか娯楽が飽和していた時代ですもの。映画ならまだしも、お芝居を観に行ったことがある人の方が少ないのではないでしょうか。


『今世にだって芝居くらいあるでしょ』

『今世ではお芝居を見に行くような余裕はなかったですし』

『貧乏の弊害』

『オペラだって、歌いますし』

『オペラとミュージカルは別物だけどね』


 またしても現代知識をひけらかしてくれるフィルでした。

 そんなに言うくらいなら、もっと早く「歌わなくてもいいんじゃないの」と言ってくださればそれでよろしかったのに。


『僕もしばらく人間と契約してなかったし、オフィーリアやクロウも反対しなかったから、もしかしてこれが最近の人間のスタンダードなのかな? って一瞬迷ったけど』


 フィルが言い訳がましい思念を送りながら、肩を竦めます。


『周りの人間を見て気づいたよ。僕は間違ってない、おかしいのは君たちだったって。今まで気づかなかった僕が馬鹿だった』

『そ、そんな……そんなことって……』

『見てよみんなの顔』


 言われて、周りを見渡します。

 こちら側のクロウ様を除いて、みなさん口と目をまんまるに開けてわたくしたちの方を見ていました。その表情は感心しているようにも、感動しているようにも見えますが……


『……確かにポカンとしているようにも見えますわ』

『精霊より人間の感性からかけ離れるのやめてよ、もう』


 やれやれとため息を吐かれました。

 みなさんからの視線を一身に受けて、わたくしはフィルを振り向きます。


「ええと……わたくし、何か、やっちゃいました?」

「今さらチート系転生主人公のフリは無理があるよ」



 ◇ ◇ ◇



 結果として、オフィーリア様は無事に追放されることになりました。

 ですがそれは肩の治療のためでも、断罪によるものでもなく……「精神的なストレスによる負担が限界を迎えたので一度静かなところでゆっくり静養する」という理由からです。

 授業中に突然ミュージカルを始めたオフィーリア様は、「メンタルが疲れていてあんな奇行に及んだ」と判断されたようでした。


 それを聞いて、主演兼脚本兼監督および製作総指揮のわたくしはどのような顔をしたらよいのでしょう。

 笑えばよいのでしょうか。


 そしてW主演のわたくしがそのまま野放しにされているのはどういうことなのでしょう。

 どうしてどなたもわたくしのメンタルは心配してくださらないのかしら。


 若干納得のいかない部分はありますが、オフィーリア様自身が「メンタル不調扱い」をまったく気にしていらっしゃらない様子だったので、良しとしましょう。


 追放、もといオフィーリア様の静養のための退場を受けて、わたくしは実家の両親へと手紙を書きました。

 我が領地は王都からも遠くないですし、ほどほどに栄えていますからスローライフや静養には不向きですが……きっと両親は良い場所を紹介してくれるはずだと思ったのです。


 オフィーリア様にもぜひ私の領地を訪ねて欲しいとお伝えすると、「おけまる水産よいちょまる」とのことでした。

 何て?

 

 クロウ様もオフィーリア様について行くそうです。これぞ愛ですわね!

 予想外の部分もありますが……わたくしの作戦は、概ね「めでたしめでたし」と言ってよい結果に終わったのでした。

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