46.…………ナニコレ?
引き続き特殊な演出がありますが、ご容赦ください。
観客のみなさんは目を丸くしてこちらを見ていました。そして、何を求められているのか分からないといった様子で、顔を見合わせます。
そこに……
「がんばれ~!」
と、どこからともなく声が聞こえてきました。
フィルが小声で言った「がんばれ~」を風魔法で反響させて、まるで観客の誰かが声を上げているように偽装したのです。
わたくしとオフィーリア様も観客から見えないように小さな声で声援を送り、それをフィルがまた反響させます。
観客に交じったクロウ様も声を上げました。
「ファイト~!」
「負けないで~!」
「がんばえ~!」
「さぁ、みんなもメリッサベルに応援のパワーを送ろう!」
フィルの裏声がホールに響きます。
困惑した様子のみなさんでしたが、控えめながらも「が、がんばれ~?」などと声援を送ってくれました。
「ありがとう、みんな! みんなの応援がある限り……わたくしは、負けませんわ!」
たっぷり声援を煽った後で、わたくしは立ち上がります。
ラケットを握って、再びオフィーリア様と対峙しました。
オフィーリア様の弾丸サーブ(エア)に、必死でかじりつきます。
「♪笑わせるわ アナタじゃ 『星』には届かない」
「♪笑いたければ 笑えばいい すぐに泣かせて あげますわ」
「♪『星』は あたし」
「♪『星』は わたくし」
「はああああああ!!」
「たああああああ!!」
激しいラリーの末に……勝敗は決します。
わたくしの渾身のトルネードスマッシュ(エア)に、ついにオフィーリア様が膝を折ったのです。
「ごふっ」
床に崩れ落ちたオフィーリア様は、咳き込んだかと思うと、口から血を吐きました。
もちろん血のりです。フィルの空間魔法で以下略です。
わたくしはラケットをその場に捨てて、オフィーリア様の元へと駆け寄ります。
「良い顔になったじゃない……」
「え?」
「これだけの実力があれば……アナタは全国でも通用する」
「まさか……わたくしに全力を出させるために、わざと厳しい態度を……!?」
オフィーリア様がふっと口許だけで微笑みます。
若干ぎこちなさのある演技でしたが、そこはオフィーリア様の持つ天性の儚さと美しさが見事にカバーしていました。
「あたしたち、もし出会い方が違ったら……一緒にカワイイの『星』を目指す友達に、なれたのかな」
「そんな、今からだって……」
「あたしはもうダメ。こんな肩じゃ……カワイイの『星』には届かない」
オフィーリア様が、ぎゅっとわたくしの手を握ります。
「だから、メリッサベル……アナタはカワイイの『星』になりなさい……!」
「オフィーリア様……!」
「それ、じゃあ……あーしはちょっと、……休む、わ……」
「オフィーリア様? オフィーリア様ぁ――!!」
がくりと俯いたオフィーリア様。その肩を抱いて、わたくしは慟哭します。
悲鳴のような叫びの余韻とともに、舞台が暗転しました。
しん、と沈黙がホールを包みます。
ぱちぱち、とクロウ様が拍手をしました。フィルが例によってそれを反響させて……どんどんと拍手が大きくなります。
つられて、クラスの皆さんもぱちぱちと拍手を始めました。
たっぷり拍手の時間を取った後、舞台が再び明転します。
オフィーリア様がむくりと体を起こし、わたくしも立ち上がりました。
そして二人で手を取り合って、万歳をします。
にっこり笑って、カーテンコールです。
「皆様、ご覧いただきありがとうございます! これにて『カワイイのお星様』第1幕は閉幕ですわ! 主演はわたくし、メリッサベル・ブラントフォードと」
「オフィーリア・アーデルハイドのW主演でお送りしました~」
「監督・脚本・小道具はわたくしメリッサベル、大道具はクロウ様、舞台演出・コーラスはフィリップ、音楽・指揮はにゃんまるさんです! 皆様拍手を!」
クロウ様もフィルも、特に手を振るでもなくその場に突っ立ったままで拍手を受けています。もう、男子はノリが悪いですわ。
にゃんまるさんはピアノで素敵なメロディを奏でて拍手に応じました。
「というわけで、オフィーリア様は肩の治療のために田舎でスローライフを始められます! 皆様、盛大な拍手でお見送りください!」
オフィーリア様はこちらを向いて、一瞬だけ真面目な顔をしました。わたくしもその視線を正面から受け止めて、頷きます。
オフィーリア様はまた笑顔に戻って、みんなに手を振りながらホールを出ていきました。
拍手がだんだんと小さくなり……やがて、沈黙が満ちます。
ふぅ。やりきりました。大成功ですわね!
『あのさぁ』
額の汗を拭っていると、フィルがわたくしの脳内に直接語り掛けてきました。
『さんざん付き合った後に言うのも何なんだけど』
『何かしら?』
『…………ナニコレ?』





