39.ボディにしとけよボディに
わたくしが華麗にいじめを回避した日の、翌日。
わたくしの机に手紙が入っていました。
差出人は、オフィーリア様。悪役令嬢さんです。
内容は、わたくしを校舎裏に呼び出すものでした。
「……どちらだと思います?」
わたくしは後ろで手紙を覗き込んでいたフィルに問いかけました。
「どっちって?」
「校舎裏に呼び出しといえば、リンチか告白の2択なのですけれど」
「ここで告白の可能性を1ミリでも感じてるならポジティブが過ぎると思う」
ばっさり切り捨てられました。
可能性を感じるのは個人の自由ではありませんこと?
まぁリンチの可能性が高いのは承知の上ですが、行かないという選択肢はわたくしにはありませんでした。ある意味一択です。
だって、悪役令嬢さんが転生者なら……そして、単に乙女ゲームを嗜まれない、ただどうしていいのか分からないだけのお方なら。
わたくしも転生者だと告げれば、それで解決するかもしれませんもの。
後顧の憂いなく、カワイイの探求に集中できるかもしれませんもの。
行ってみようと思うという旨をフィルに伝えたところ、彼は反対しませんでした。
てっきり「げぇ、また面倒なことしようとしてる」とか言われると思ったので、意外です。
「最近あの人間の纏う魔力が変わったでしょ?」
「まぁ、シャンプーを変えられたのでしょうか?」
「精霊と契約したんだ」
わたくしの言葉を無視して、フィルが言いました。
それはそれとして、悪役令嬢さんの使っているシャンプーは知りたいところです。だってとっても艶やかで綺麗な黒髪なのですもの。
「契約したのが、僕の想像してる精霊だとしたら……ちょっと、興味があるからね」
興味。
フィルが人間に興味を持つのは珍しいことです。さすがは悪役令嬢さん。カワイイ力だけではなく、おもしれー女力も53万おありなのかもしれません。
◇ ◇ ◇
呼び出された校舎裏に行ってみると、悪役令嬢さんが一人で植え込みの陰に座っていました。
周りをきょろきょろ見渡してみますが……本当にお1人のようです。
リンチの可能性が少しだけ減りました。
いえ、ですが相手は悪役令嬢さんですから。わたくしのような小物など一人で十分、ボディにしとけよボディに、という感じなのかもしれません。
ごくりと唾をのみ込んで、わたくしは一歩踏み出しました。
いざという時は魔法でどうにかいたします。悪役令嬢さんに恨みはございませんが、深紅のドレスがとってもお似合いになるのではないかしら。
わたくしに気づいた悪役令嬢さんが、こちらを見上げます。
そしてすっくと立ちあがり、わたくしに一歩、近づきました。
血のように赤い瞳を見返します。
一瞬視線を迷わせた後、悪役令嬢さんがその薔薇の蕾のような唇を開きました。
「あの、」
初めて声を聴いた気がします。
見た目とぴったりマッチした、とっても可憐で、儚げで……今にも消えてしまいそう……
「マジごめん! あーしガチでダサいわ!!」
儚げ……はかな、げ…………はかなげ?
…………あ、あれ?