37.「カワイイ」を諦める必要は、ないのです
「分かりますか? 貴女が今口にした『可愛くない』はわたくしへの言葉ではありません。わたくしを通して見た、自分自身への言葉です」
「何を言って、」
「わたくしという可愛さを前に謙遜するお気持ちもわかります。ですがカワイイは絶対評価。わたくしがカワイイからと言って、貴女が可愛くないということにはなりませんわ」
ぽかんとした様子の取り巻きさんに近寄って、そっとその肩に手を置きました。
「ですから貴女はこう言うべきなのです。『私の方がアンタよりカワイイ!』と!」
「なッ!?」
取り巻きさんの顔が真っ赤になります。
「な、何で私が、そんな恥ずかしいこと言わなきゃならないのよ!」
「自分をカワイイと言うことは恥ずかしいことではありませんわ!」
悲鳴のように言った取り巻きさんに負けじと、わたくしも声を張り上げます。
「綺麗に巻かれたつややかな髪、流行を取り入れながらご自身に似合うようにアレンジされた化粧、シンプルですが素材の良いヘアアクセサリー。全て貴女のものです。貴女だけのものです。貴女のカワイイを求める心がそうさせたものです」
目の前の取り巻きさんを見つめます。
悪役令嬢さんやウィリアム様と比べてしまえば、作り物めいた美しさはありません。
世間一般で言えば間違いなく美人の部類でしょうけれど……この学園において突出しているかといえば、そうではありません。
ですが、それが何だというのでしょう。
そんなことを理由に……自分のことを「可愛くない」だなんて、思う必要は、ないのです。
自分のことを「カワイイ」と思うのを恥じる必要は、ないのです。
「カワイイ」を諦める必要は、ないのです。
「可愛くなりたいという貴女のその気持ちが、可愛くなくてなんだというのですか!」
「な、わ、私は、」
取り巻きさんが一歩、後ずさりしました。
それに合わせて、わたくしは一歩、踏み込みます。
悪役令嬢さんを含めて、周りの皆さんは黙ってわたくしたちの様子をじっと見ていました。
「世の中で一番可愛くない言葉が何か、お分かりですか?」
「そんなの、知らな」
「そう、『可愛くない』という言葉です。可愛くない、は呪いです。そんな言葉を言い続けたら、いつか本当に可愛くなくなってしまいますわ!」
ぎゅっと、取り巻きさんの手を両手で握ります。
しっかりとその瞳を見つめて、言いました。
「よろしくて!? 貴女は可愛い!」
「ふぇ」
「そしてわたくしも可愛い!!」
「え」
「それ以上に何か必要ですこと!? いいえ、いいえ! 必要ありません。カワイイに言葉は不要です!」
高らかに言い切ったわたくしを、取り巻きさんが目を丸くして見つめていました。
あら、いけません。つい熱くなってしまいました。
握りしめていた取り巻きさんの手を離して、わたくしは口元を隠して、オホホと上品さたっぷりに笑って誤魔化します。
「……でも、私、なんて」
ぼそりと、小さく呟く声がしました。
目の前の取り巻きさんの迷いげな瞳に、わたくしはふるふると首を横に振ります。
可愛く生まれたわたくしの使命は、「カワイイ」を追求すること。
それにはきっと、「カワイイ」を追い求める仲間が必要です。
切磋琢磨してより可愛さを極めるために……「カワイイ」の追求者は、何人いたっていいはずです。
「もし『カワイイ』という自信がないのなら、こう言えばいいのです」
わたくしは自信満々に、堂々と胸を張って答えました。
「『可愛くなりたい』と」