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31.エレガントに、かつラブリーに

 魔法の授業の教室で、わたくしはボンボンさんと対峙していました。

 あの後、魔法で勝負をすることになったのです。カードゲームではなかったことに安心したような、少し残念なような。微妙な気分ですわ。


 可動式の机と椅子を隅に寄せて相撲の土俵くらいのスペースを確保し、周りをクラスメイトの皆さんがギャラリーとして取り囲んでいます。

 本来今日も魔法の授業は座学のはずだったのですが……ボンボンさんは超が5つつくほどお金持ちなので、先生方もあまり厳しく言えないようです。

 教科書を読んでばかりで退屈していたクラスメイトの皆さんも、興味津々といった様子でした。


「俺の精霊の力を見るがいい!」


 ボンボンさんがそう叫ぶと、ふわりと小さな人型の精霊さんが現れました。


「まぁ、可愛らしい!」


 思わず頬が緩みます。

 手のひらに載せられそうなサイズ感で、人間とは異なる青白い肌の色をしています。背中には透き通ったカゲロウのような形の羽根が生えていました。

 きらきらと精霊らしい光を纏っていて、髪も長いし目も大きくて、雌雄があるのだとしたら女の子に近い形をしています。


 精霊さん、と言われて一番に思い浮かぶのは、こういう姿かもしれません。

 どちらかというと、妖精さんに近いかもしれませんけれど。


 そんなキュートな精霊さんが、両手のひらをこちらに向けました。

 見る見るうちにその手元に「何か」が集まり……やがて、それがこちらに向かって射出されます。


「アイスエッジ!」

「シールド!」

「適当言わないでよね」


 咄嗟にそれらしい単語を叫ぶと、フィルの操った風が飛んできた「何か」を弾き飛ばします。弾き飛ばされた「それ」は、氷の塊でした。


 カワイイお顔をしておいて、攻撃は情け容赦がありません。

 あんなに尖った氷の塊なんて、当たったら危ないじゃありませんの。


「どーするの? お嬢サマ。適当にボコっちゃっていい?」

「いけません」


 次々飛んでくる氷を弾きながら、フィルが気だるげに問いかけてきます。

 ボコるなんて可愛くない言葉、いったいどこで覚えて来たのでしょう。わたくしの記憶ではないと思うのですけれど。


 もちろんこのまま攻撃されっぱなしでいるつもりもございません。

 フィル曰く、わたくしの魔力量はボンボンさんとは比べ物にならないそうですから、持久戦になれば圧勝でしょうけれど……それもまた、華がありませんもの。


「グーパンチで解決して何になりますの? それではまったく可愛くありませんわ」

「誰もグーパンチしろとは言ってないよ」

「可愛く、それでいてエレガントに、かつラブリーに解決いたしましょう」

「わぁ、僕、こんなに具体性がない作戦会議って初めて」


 嫌味を言うフィルを無視して、わたくしは考えを巡らせます。

 氷の塊は、ボンボンさんの精霊さんの手のひらから生み出されているように見えました。

 だとすれば――封じることが出来るかもしれません。


「フィル! 今こそ練習した魔法を使う時ですわ!」

「げぇっ」


 フィルが潰れたカエルのような声を出しました。


「ねぇそれほんとに僕も言わなきゃダメ? 本気?」

「共通認識が必要ですもの。最大出力にするには、言っていただかないと」

「仕様上の欠陥だよ、こんなの……」


 ぶつぶつ文句を言っているフィルを差し置いて、わたくしはボンボンさんとその精霊さんに向かって、手を伸ばします。フィルも嫌々と言った様子で、わたくしに倣いました。

 そして2人で一緒に、呪文を唱えます。


「スタートゥインクルマジック☆メーイクアーップ!」


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