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25.従者ってこういうものだったかしら

『あの方です』


 わたくしが視線で示した先には、これまた取り巻きらしき男子生徒とお話ししている男の子の姿があります。

 陽の光にきらきらと透けるプラチナブロンド、青空のような鮮やかな青い瞳。

 15歳ですから、まだ少年らしさが強くて可愛らしい印象ですけれど、将来イケメンになることを約束された整ったお顔立ち。

 この見た目で主要キャラでないはずがない、という要素を凝縮したような男の子です。


『悪役令嬢さんの婚約者にして、死ぬほどお金持ちの侯爵家の跡取り息子さんです』

『ボンボンだ』

『悪役令嬢さんは婚約者の彼のことが大好きなあまり暴走して婚約破棄される、というのが本来の筋書きですが……転生した悪役令嬢さんは暴走しませんから、関係性は良好なはずです』

『円満だ』


 急に韻を踏み出しました。ライムを刻んでどうなさるおつもり?

 しかしフィルがa.k.aラップ精霊になっているのに気を取られたのも束の間、わたくしの頭の中は別のことでいっぱいになってしまいました。


『きっとラブラブ……いえ、むしろボンボンさんが悪役令嬢さんに一方的にラブな可能性もありますわね』

『一方的に?』

『だって、ほら』


 今度は悪役令嬢さんの方に目を戻します。

 女の子の隙間から、やっとそのお顔がしっかり見えました。


 透きとおるような白磁の肌に、切れ長の目が覚めるような真っ赤な瞳。涼しげに通った鼻筋が描く見事なEライン。

 赤みが指しているのは小さく可憐な薔薇の蕾のような唇だけで、赤みのない頬が作り物めいた美しさに拍車をかけています。


 ぬばたまの艶を湛えた夜の帷の如き静謐さを感じさせる黒髪は、お顔のあたりまではすとんとストレートでありながら、背中のあたりでふわりと緩くカールして、腰のあたりで美しく跳ねていました。


 座っていてもスタイルのよさがわかるほどに長くて細い手足、指の形まですらりと細くたおやかな印象を与えています。


 これは、何ということでしょう。

 カワイイ力53万越えの美少女が、そこには座っていたのでした。


 ちやほやする方の気持ちも分かってしまいますわ。

 だってとっても儚げで、物憂げで……今にもふらりとどこかへ行ってしまいそうな、危うさがあるのですもの。


『あんなにカワイイ方と婚約しているのですもの! 夢中になって当然ですわ!』

『人間が全員君と同じ思考回路だったらそうかもね』


 フィルがフッと鼻で笑いながら肩を竦めるジェスチャーをしてきました。

 言葉だけならいざしらずボディーランゲージでまで小馬鹿にされています。

 何だか最近見失ってしまいそうになるのですけれど、従者ってこういうものだったかしら。


『それよりも、お嬢サマ』

『何かしら』

『君、めちゃくちゃ悪口言われてるけど大丈夫?』


 フィルに言われて、周囲の声に耳を澄ませます。

 たぶん悪役令嬢さんの取り巻きか、ボンボンさんの取り巻きあたりが何か言っているのでしょうが……何か小声で話しているらしいことは分かっても、内容までは聞き取れませんでした。


『風魔法で周りの音を集めれば聞こえるよ。やってあげようか?』

『聞きたくないので結構です』

『田舎者と一緒のクラスだと羊臭いのが移る、とか』

『聞きたくないと言ったのに押し売りしないでくださる?』

『制服のスカート、田舎ではああいうのが流行りなの? とか』

『これは! 自信作のふわっふわパニエですのに!』


 わたくしは頬を膨らませました。


 今日着用しているのは、制服専用に試行錯誤を重ねて制作した、どのような角度から覗き込んでも中が見えない安心設計の超高密度パニエです。

 いえ、仮に見えたところで問題ないくらいカワイイドロワーズを履いているのですけれども。


 もちろん制服のスカートが魅力的に見える丈感とボリュームにもこだわりました。

 この可愛さが理解できないとは……わたくしが時代の最先端すぎるのかしら。


 だいたい、うちの領地の名産は羊ではなく牛です。


 わたくしは視線を悪役令嬢さんから離して、教室の窓の外へと向けました。

 同じクラスになっただけでひどい言われようです。

 もし話しかけたりなどしてしまったらどうなることやら、先が思いやられます。


 ラブラブはわたくし抜きで思う存分やっていただくことにして、出来るだけ関わり合いにならないのが得策でしょう。


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