24.カワイイ力53万
教室に入ってみると、目も眩むような美男美女が教室いっぱいにひしめいていて、思わず後退りしかけました。
なんとか足を踏ん張って、堪えます。
ちかちかする目がようやく慣れてくると、美男美女にも差があることが分かってきました。
何と言いましょうか……作画の気合の入り方、と言うのが正しいのでしょうか。
もちろん皆さん可愛らしかったりかっこよかったりするのですけれど、きっと脇役なのだろうな、というのが分かる方から、主要キャラでなければ何故そのヴィジュアルなのか逆に分からないというような方まで、多岐に渡っていました。
その中で、一際目を引く女の子がいます。
腰まである艶やかな黒髪に覚えがあったのです。悪役令嬢さんも、黒髪ロングの女の子でした。
周りをお友達に囲まれていてよく見えませんけれど……クラスに他に黒髪の女の子はいませんし、お友達も「取り巻き」だと思えば悪役令嬢さんらしい気がします。
『あれがそうなの?』
わたしくしの視線に気づいたのか、フィルが脳内に話しかけてきます。
わたくしが頷くと、フィルはわずかに目を細めて、悪役令嬢さんを観察します。まるで値踏みをするような……推し量るような目をしていました。
『確かに、割と魔力量は多いみたい。けど……何だっけ? チートスキルでスローライフ? だっけ? チートってほどには感じないかな』
わたくしたちの視線に気づいたのか、取り巻きさんたちがこちらをちらりと振り向きました。
にっこり微笑んで見ましたけれど、ぷいと顔を背けて無視されます。
それどころか「田舎」とか「貧乏」とかいうヒソヒソ話が聞こえてきました。
貧乏は甘んじて受け入れますが、田舎は断固として否定します。田舎というほどではないと思うのです。都会ではないというだけです。
住み良い街とか呼んでいただきたいものですわ。
『それより、あの人間……精霊と契約していないみたいだけど』
『悪役令嬢さんは紆余曲折あって、学園に入ってから精霊さんと契約しますのよ』
『よく入学できたね』
『まぁ、そこはそういうお話ですし』
『メタいこと言うなぁ』
わたくしの言葉に、フィルが呆れたような声を出しました。
いえ、念話なので声は出ていないのですが。
ヒソヒソ話をしながらこちらを見ている取り巻きさんたちも、念話でお話しなさったらよろしいのに。
……彼女たちがお話ししたいのは、きっと精霊さんではないのでしょうけれども。
わたくしにフィルしか話し相手がいないわけではないのですけれども。
『家柄も国内随一の公爵家のご令嬢で、精霊とは契約していませんけれど魔力は平均以上。それに何より……ここには悪役令嬢さんの婚約者さんがいますもの』
『婚約者?』