23.宇宙って。スケール小学生じゃん。(フィリップ視点)
フィリップ視点です。
学園に着いてから、あんなに楽しげにしていたメリッサベルの様子が一変した。
僕には人間の細かい美醜は分からないけど、メリッサベルが周りの人間と自分を比べて、自信を失ったらしいことは見てとれた。
美醜なんて些末なことじゃなくて、魔力を比べたらいいのに。
どの人間も、連れているのは下級の精霊か、ちらほら中級程度の精霊が紛れている程度だ。
魔力の量はメリッサベルが群を抜いている。美醜なんかよりもよほど重要なことだろう。
前を歩いていたメリッサベルの足取りが、だんだんと重くなる。
追いついてしまわないように、僕もペースを落とした。
ふと……田舎に帰ろうと言ってやった方がいいんじゃないか、という考えが浮かぶ。
両親も領民も、彼女を落ち込ませるために送り出したわけじゃないだろう。彼女が戻れば喜んで迎えるはずだ。
傍観者の僕としては面白みに欠けるけど……まぁ、田舎くさいだけで、あの領地はそう悪い場所じゃなかったしね。
メリッサベルが、いよいよ立ち止まるかと思った、その時。
彼女は突如、ぶんぶんと頭を振った。
そして顔を上げて、ふんぞり返るんじゃないかという勢いで胸を張る。
だん、と、やたら力強く次の一歩を踏み出した。
意外な行動に、僕は目を瞬く。
てっきり落ち込むのか、そうでなくとも「かわいそうなわたくしを慰めてちょうだい!」とか喚くくらいはするかと思っていたのに。
ずんずんと、過剰に張り切った様子で歩いていくメリッサベル。
あきらめない、という思念が僕にまで流れ込んでくる。
僕は理解した。
そうか、メリッサベルは――この人間は。
ここで前を向く人間なのか。
知らず知らずのうち、口元に笑みが浮かぶ。
そうそう。人間はやっぱり、こうでなくちゃ。
魂の件があったとはいえ……彼女の呼びかけに僕が引き寄せられたのは、彼女のこの性質に反応してのことかもしれない。
前だけをまっすぐ見つめる彼女は、何かをひたすらに、追い求める目をしていた。
それは僕たち精霊には、縁のないものだ。だからこそ……興味がある。
その探究心で、執念で。僕たち精霊には思いもよらないことをやってのける。
それが人間だということを、僕は知っている。
淑女らしからぬ大股でずかずか歩いていくメリッサベルに置いていかれないよう、僕も歩調を合わせる。
タネのわかった手品だけれど、それなりに楽しめそうだ。
そんなことを考えながら歩いていると、「宇宙一可愛くなる!」みたいな思念が爆音で流れ込んできた。
思わず噴き出しそうになる。
宇宙って。スケール小学生じゃん。
……ま、悪くないけどね。