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21.もっと目先の、大切なもの

 いよいよ出立の日になりました。

 大泣きする両親とじいやばあや、領民のみんなに見送られながら、馬車で領地を出ます。

 いよいよ魔法学園への入学です。


「楽しそうだね」


 田園風景を眺めるわたくしに、フィルが頬杖を突きながらふんと鼻を鳴らします。


 そういう彼はまったく楽しくなさそうです。

 わたくしが意地でも彼の服を可愛くするのをやめなかったせいではないとは思いますけれど。


「これから嫌な目に遭うかもしれないのに」

「あら。悪役令嬢さんと出会うまでは、意外とお得なこともありますのよ。何せわたくしはヒロインですから」

「たとえば?」

「まずはこの可愛さ」

「それ以外で」


 冷たく言い捨てられました。

 まぁ、フィルの言いたいことも分かります。原作未読のわたくしにははっきりとは分かりませんが……悪役令嬢さんの物語ですもの。

 当て馬的立ち位置のわたくしが良い思いをしない可能性は十分にあります。


 ですが、それを気にしてばかりいてはせっかくの学園生活を楽しめません。

 悪役令嬢さんとメンズの皆さんには思うさまちやほやしたりされたりしていただいて――わたくしも邪魔立ていたしませんから、お互い上手くやっていきたいものです。


 指折り数えながら、フィルにわたくしの考えを伝えます。


「そうですわね。膨大な魔力とか、就学支援を受けられることとか」

「最初にそれを言いなよ」

「わたくしの家はご覧の状況ですから。本当は学校に通う余裕はないのですけれど……魔力量が膨大なおかげで、王都の魔法学園に通えることになりましたの」

「……まぁ、いい教育が受けられるのは利点だよね」

「いえ」


 フィルの言葉を、わたくしは否定しました。

 教育は確かに将来を考えれば大切なものかもしれませんけれど、わたくしにはもっと目先の、大切なものがあるのです。


「魔法学園は王都の、それも中心街にほど近い場所にあります」

「そうだね」

「王都は都会です」

「そうだね」

「都会に行けば、カワイイお店がたくさんありますのよ!」

「はい?」


 意気込んで思わず立ち上がりかけ、馬車の天井に頭をぶつけました。

 咳払いをしてから、白けた顔でこちらを見るフィルに向けてプレゼンテーションを開始します。


「最新のファッションにも触れられますし、手に入る材料も化粧品も種類が実家とは大違いですわ! それに劇場やオペラハウスもたくさんありますから、もしかして街でスカウトされて、そこで女優デビューとか! ああ、夢が膨らみますわね!」

「幸せそうで何よりだよ」


 まったく気持ちの籠っていない声でそうため息を吐かれました。


 窓の外を見ると、話している間にかなりの距離を走っていたようです。景色が田園から、住宅の立ち並ぶ風景へと代わっています。

 目を凝らすと、遠くに王城の天守閣――外国風の場合は何と呼ぶのかしら。とにかく塔です――が見えてきました。


 わたくしはわくわくに胸を躍らせます。きっと楽しくて、カワイイ毎日が待っていますわ。

 だってわたくし、こんなにカワイイのですから。


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