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19.どちらもという欲張りセット

 学園への出立の日が近づき、屋敷はだんだんと騒がしくなってきました。

 持っていくお洋服の選別に大忙しのわたくしとばあやを横目でぼーっと眺めていたフィルですが、やがて退屈そうにあくびをしてソファに背中を預けます。


 フィルだって毎日違うお洋服を着ていますし、準備が必要なはずですけれど……精霊さんというのはわたくしたちとは違います。

 四次元ポケット――亜空間がどうとか、こうとか。話を聞きましたが一瞬で忘れてしまいました――もあるようですし、あまり焦っていないようでした。


 パニエとドロワーズをトランクにぎゅうぎゅうに詰め込みながら、目を瞑っているフィルの顔を盗み見ます。


 黙っていると本当に綺麗なお顔をしていますわ。

 睫毛も長いし鼻も高い。ぱっちり二重で、顎のラインもすっきりしています。

 お肌もつやつや、透明感のある色白さです。

 化粧水は何を使っているのかしら。保湿は? 日焼け止めは何を?


「ねぇ」


 ぱちり、と目を開けたフィルと目が合いました。

 トパーズのような美しい黄金色が視界一杯に広がります。

 真剣になるうち、ついつい近づいてまじまじと肌の肌理を見てしまっていたようです。


 彼はそのまま目を細めると、眉間に皺を寄せます。

 まぁ、綺麗なお顔が台無し。


「近い」

「あら、ごめんあそばせ」


 苦々しげに言われて、彼から離れます。

 わたくしが離れたのを確認すると、彼はやれやれと言いたげにため息をついて、また瞳を閉じました。

 まったく、可愛げのない対応ですわ。


 いつも楽しそうにお父様とお母様の周りをついて回っている精霊さんたちを思い浮かべて、その違いに釈然としない気持ちになります。

 確か物語の悪役令嬢さんの精霊も、きちんと彼女に付き従っていたと思うのですが。


 悪役令嬢さんの精霊というのは、「転生したら(中略)もう遅い〜」のタイトルにも書かれている「もふもふ」のことです。

 悪役令嬢さんは悪役令嬢らしい不運によってなかなか精霊と契約できないという苦難を乗り越え、もふもふさん(仮名)と契約します。

 ちなみにわたくしが見たアニメ三話で描かれていたのはここまででした。


 アニメのキービジュアルで見た限り、長毛種のペルシャ猫に似た、かなりもふもふした猫でした。

 最終的には猫カフェを経営なさるということですから、そこの看板猫になるのでしょう。


 しかもキャラクター紹介に「見た目はただの猫だが…?」とか書いてあった気がするので、本当はものすごいチート的能力を持った大精霊とかだったりするのではないかしら。

 それか、後からイケメンの姿に変身するとか。どちらもという欲張りセットも有り得ますわね。


 トランクの上に載って蓋を押さえつけながら、フィルに目を向けます。


 羊のような形のツノ以外は、見た目はわたくしたち人間と大差ありません。もふもふもしていません。

 ツノが生えているのと、氷のような美少年が虫けらでも見るような目をしているので妙な威圧感すらあります。

 他の精霊たちのように念話でも話が出来ますし、わたくしたち同様声を出して話すことも出来ますが――特に語尾も可愛くありません。


 そう。

 可愛くないことが問題なのです。


 威圧感は可愛いの対義語ですわ。

 いけません。わたくしはカワイイの頂点を志す身。そのわたくしが引き連れる従者が可愛くなくて、どうするのでしょう。


 ベルトで無理矢理閉じたトランクを転がして、わたくしは立ち上がりました。


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