1.さすがに詰め込みすぎではありませんか?
端的に言えば、わたくしは現実味のない超絶美少女――メリッサベル・ブラントフォードに転生していました。
現実味がなくて当然です。だってわたくしは……小説のキャラクターだったのですから。
ここではない世界。あの日のわたくしがいた世界。
そこでわたくしは、今わたくしがいるこの世界とそっくりな物語を目にしたことがありました。
そのタイトルは「転生したら悪役令嬢でしたが、なんやかんやあって溺愛されています!? 〜追放先でもふもふたちとチートスキルを使って猫カフェ経営スローライフするので今更戻ってこいと言われてももう遅い〜」です。
長すぎませんこと? さすがに詰め込みすぎではありませんか?
あと「なんやかんや」って何ですの? そこが一番大切なのではありませんか?
そんなツッコミどころ満載の世界に転生したわたくしですが、じゃあわたくしはその悪役令嬢なのかと申しますと、残念ながら違います。
わたくしはその、正ヒロイン……いえこの場合は、当て馬ヒロインに、転生していたのです。
悪役令嬢モノというのは、悪役として排除されるはずの悪役令嬢が破滅回避に向けた行動をした結果、正ヒロインよりも愛されたり活躍したりする、というジャンルです。
このジャンルにおいて、正ヒロインは悪役令嬢をよく見せるための舞台装置。当て馬的な役回りであることが多くあります。
わたくしことメリッサベルも、例に漏れず。
ほとんど庶民のような暮らしをしていた貧乏伯爵令嬢でありながら類稀な魔力を持ち、高位貴族しか通うことのできない魔法学園に通うことになる――といういかにも主人公らしい設定が盛り込まれていますが、やることはただの引き立て役です。
たぶん悪役令嬢さんと仲良くなって、最後は雑に適当なキャラとくっつけられたりします。
ですが、それが何だというのでしょう。
そんなことは瑣末なことです。ええ、瑣末ですとも。
だって、わたくしはこんなにも、カワイイのですから。
カワイイ。それはわたくしにとっては何物にも代えがたく、喉から手が出るほどほしかったものです。
こんなにカワイイ女の子に転生できたのです。それ以上、ほかに何を望むことがあるのでしょうか。
わたくしにとってこの転生はまさに僥倖、値千金でした。