18.わたくしが求める「カワイイ」
GWを1日2回更新で走り抜けることが出来ました!
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明日からは1日1回、夜の更新となりますが、引き続きよろしくお願いいたします!
「ともかく。元の乙女ゲームでは悪役令嬢さんが貧乏貴族のわたくしをいじめるという設定なのですけれど、転生した悪役令嬢さんはそんなことはなさいません。むしろわたくしにとても親切にするわけです」
「破滅回避ってやつだ」
言いながら、うんうんと頷いています。
悪役令嬢モノへの理解が深いフィルでした。
「そんな姿に魅力を感じて、本来わたくしをちやほやするはずの殿方は悪役令嬢さんのほうをちやほやして、なんやかんやで、猫カフェです」
「『なんやかんや』ねぇ」
ふん、とフィルが鼻を鳴らします。
やっと「なんやかんや」は諦めてくれたようでした。
「お嬢サマをちやほやしたくない気分は、まぁ分かるけど」
「何故です」
「結局それだと、君は損するわけじゃない? 誘拐より真面目にそっちと向き合った方がいいんじゃないの?」
「ちょっとフィル」
わたくしの抗議を無視して、フィルが軽く肩を竦めました。
その1アクションですべてを流してしまうおつもりのようです。
「だってほら、ちやほやするはずの男を取られちゃうみたいなもんでしょ」
「……それは特に、損だとは感じませんわね」
「え?」
「だってわたくし、別に殿方にちやほやされたいわけではございませんもの」
「え?」
「え?」
何度も聞き返されて、わたくしも思わず聞き返してしまいました。
フィルが戸惑ったような表情で、気まずそうに頬を掻きます。
「いや、カワイイがどうこうってずっと言ってるから。てっきり異性にモテたいのかと思った。人間の『カワイイ』ってそういうことじゃないの?」
「いいえ。違います」
わたくしはフィルの言葉を、きっぱり否定します。
そういう「カワイイ」もあるでしょうけれど……わたくしが求める「カワイイ」は、違います。
誰かに点数を付けられるものではなく、誰に評価されるものでもない。わたくしが欲しい「カワイイ」は、そういうものです。
「わたくしは、わたくしのために可愛くなりたいのです」
堂々と胸を張って、言い切ります。
この言葉はフィルに向けてのものに見えて、自分自身に言い聞かせる意味合いの強いものでした。
そしてそれは……今の自分だけではなく、過去の自分に言い聞かせるものでもありました。
「それこそが、人並み外れて可愛く生まれついたわたくしの使命なのです」
「使命ねぇ」
ふぅん、とフィルが小さく呟きました。
あまり興味のなさそうな声音です。猫カフェの時の方がよほど熱心でした。
「僕には人間の美醜ってよくわかんないなぁ。そこまでして追い求めるほどのもの?」
「まぁ、それはお可哀想に」
わたくしはフィルに歩み寄って、そっとその肩に手を載せました。
目を細めて穏やかに、言い聞かせるように伝えます。
「いつかきっと、分かる日が来ますわ。そう気を落とされないで」
「美醜はわかんないけど、その言動はムカつく」
フィルがこちらを睨みながら、わたくしの手を振り払いました。
今度はわたくしが肩を竦めて、その視線を躱します。
「まぁ、両親は学園で誰か良い人を見つけて玉の輿、なんて期待してしまっているようですけれど……ほら、わたくし、あまりにカワイイですから」
「はぁ」
「わたくしは大勢の殿方にちやほやされなくても……お金持ちの殿方と結婚できなくても。別に構わないのです」
「へぇ」
興味のなさそうなフィルを放置して、わたくしは自分の将来に思いを馳せます。
結婚が幸せのすべてとは思いませんけれど……わたくしのことを誰よりもいちばん「カワイイ」と言ってくださる方がいたら、ということには憧れがありました。
誰かに評価してほしいわけではありませんが、それはそれとして誰かに「カワイイ」と言ってもらえるのは、とっても嬉しいことですもの。
「わたくしは、毎日朝昼晩の3回はわたくしのことを『カワイイ』と言ってくださって、わたくしが『カワイイ』の追求のために東奔西走してもニコニコ笑って許してくださるような、そんなたった一人の殿方とさえ出会えたら、それで十分ですわ」
「まるでハードルが低いみたいに言うじゃん……」
「フィルが言ってくれてもよくってよ」
「勘弁して」
フィルが吐き捨てるように言いました。
まぁ、照れ屋さんですこと。