13.本当に友達いないんじゃん……(フィリップ視点)
フィリップ視点です。
「なんで僕が、こんなこと」
メリッサベルのところの領民たちに引っ張られていった先で、僕は野菜の運搬を手伝わされていた。
もちろん魔法で浮かせて運んでいるから、僕はまったく疲れていないのだけど……断ればよかったのに、何でついてきちゃったかなぁという気分になってくる。
いつも貧乏くじ引きがちなの、ほんと、何でだろう。
「おおー、ハナコより早いべ」
「さすが精霊だなぁ」
「牛と比べられても嬉しくない」
メリッサベルの屋敷の近くまで運んできた。
てっきり税金代わりに上納するのかと思いきや、ここでメリッサベルの父親が精霊の力を借りて綺麗に洗って、市場に持って行くためらしい。
もちろん一部はメリッサベルの家にも置いていくらしいけれど、税金と言うより「お裾分け」程度の量だった。
野菜を洗うのはメリッサベルの父親……ここの領主が契約している水の精霊だ。
井戸水を操って、泥だらけの野菜があっという間に綺麗になっていく。
「やっぱり領主さまに洗ってもらうと綺麗になるなぁ」
「葉も傷ついてないっぺ」
「見た目がいいと値段も良くなるし、いいことずくめだ」
領主も領民も、魔法を何だと思っているんだろう。
メリッサベルがどうして「あんな感じ」になってしまったのか、その片鱗を見た気がした。
次の野菜を運ぶために、再び屋敷の敷地外へと向かう。
もうさっさと終わらせてしまおう。
僕の後ろをついてきていた領民の1人が、ぽつりと呟いた。
「兄ちゃん、お姫様をよろしくなぁ」
振り向くと、領民たちが何故か目に涙を浮かべて、僕のことを見ていた。
ぎょっとして、その場に固まる。
何故、泣く。人間は歳を取るとだんだん赤子に回帰していくと聞いたことがあるけど、これもその一環なのか。
赤子のように、すぐ泣くものなの?
「お姫様な、歳の近い友達もおらんかっただ」
「だけども、かわいくてまっすぐで、いい子に育ってくれた」
「わしらの自慢だっぺ」
「本当に友達いないんじゃん……」
ぼろぼろ泣き出した領民たちに、思わず心の声が漏れてしまった。
人間のカワイイとかいう概念は、僕にはいまいち理解できない。
でもメリッサベルが「あの感じ」なのはたぶん、前世云々ではなく、この人たちがこうやって接して来た結果なんだろう、という気がした。
世間ずれしていないというか、突拍子もないというか……有体にいえば、変な子というか。
まっすぐといえば、まっすぐなのかな。その方向が正しいとは、僕にはどうも思えないけど。
「待って! ゾーンに入ってきましたわ! メスメスオスメスオスオス!!」
背後から大音量で聞こえて来た雄たけびに、眉間に皺が寄るのを感じる。
「……あれが、自慢?」
振り返って屋敷の方を指さし、領民たちに問いかける。
「分かってねぇなぁ」
「あれがいいんだっぺ」
領民たちはさっきまで泣いていたくせに、泣き笑いのような表情で笑っている。
これが「分かってない」なら、僕はそのままでいいかな、と思った。
精霊だからとか人間だからという問題じゃなく、それが理解できるかどうかは適性の問題なんだろう。
あれが主人でこの先数十年。やっていけるのか、という不安が頭を過ぎった。





