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別れの時は

 あんなサイズの魔物が、あんな所にいるとは思わなかった。


 そんな話も聞いたことがなかったから、俺達はあそこを拠点にしていたんだ。


 人の背丈の何倍もある魔物に生きたまま身体を噛みちぎられて、瀕死の状態になった俺の目に映ったのは、自分よりもはるかにデカい魔物に噛みつく、ルゥの姿だった。


 早く逃げればいいのに、俺を守ろうとして、無謀にもデカい魔物に飛びかかっていた。


 こんなデカい魔物に本来なら俺のストップの魔法は効かない。


 でも、ルゥを守る為に、命を上乗せした魔法は、ほんの少しの間、大型の魔物の動きを止めた。


 ルゥを掴んで、血をボタボタと垂らしながらも、重い足を引きずってそこから離れていた。


「バカだな、ルゥは。あんな、デカい奴に、挑んだって、勝てるわけ、ないよ」


 咳込むたびに、血が飛び散る。


 腕の中では、不安そうに黒い瞳が俺を見上げていた。


「ごめんね。俺、もうダメ、なんだ。最後まで、面倒みて、やれそうに、ない。誰か、いい人、に、拾って、もらえ」


 それを聞いて、嫌がるように、首を振っていた。


 まるで人間みたいな仕草だ。


 ルゥは賢いから、俺の言葉をいつもよく理解してくれていた。



 だから、


 ちゃんと、


 ルゥとお別れしないと。



「ごめん。ごめんね、ルゥ。最後まで一緒にいてやれなくて。俺には、ルゥしか、家族はいないのに。ルゥにも、俺しかいないのに。ここで、お別れ、なんだ」


 足が止まり、自分の血溜まりが広がる地面に倒れ込む。


 うつ伏せで動かなくなった俺の頰を、ルゥがしきりに舐めてくれていた。


「早く、逃げて。また魔物に、襲われたら、もう、俺は、守って、あげられない」


 でも、やっぱり、ルゥは俺のそばを離れない。


「お願い、だから、逃げて。生きて。ルゥ」


 近くで、唸り声が聞こえてきていた。


 魔物が血の匂いを辿って、追ってきたんだ。


「ルゥ。お願いだ。俺の目の前で、死なないで。1匹になったとしても、生きて。たくさん、生きて、俺の代わりに」


 ルゥは、必死に俺の袖を引っ張っている。


 立てと言うように。


 ごめん、それはもう無理なんだ。


 最後の力を振り絞って、お守りにしていたペンダントをルゥの首にかけてあげた。


「これを、どこかに、ルゥが、好きなところに、埋めて。そこが、俺のお墓だ」


 きっと俺の体は、骨までここで食べ尽くされてしまうから、それは、ルゥに与えた、最後のお願いだった。


 それでもまだ、ルゥは動こうとしない。


 誰か。ルゥをここから引き離して欲しかった。


 こんな所で、俺の道連れになって死ぬ必要はないのに。


 誰か。


 ルゥを、助けて。


 その最期の言葉が届いたかのように、不意に小さな黒い影が視界の端をよぎった。


 俺とルゥの間に飛び込んできたのは、灰色の猫だった。


 黒い毛が、全身に模様を作っている。


 その猫は、ルゥの首に噛み付いて、引っ張って行こうとしている。


 抵抗していたルゥだったけど、1度俺の事を見たから、それが正しいんだと、安心させるように頷いてあげると、その猫に引き摺られるようにしてこの場から離れていってくれた。


 安心した。


 何を理解していたのかは分からないけど、あの灰猫にたくさんの感謝を伝えたかった。


 あの猫のおかげだ。


 もう、思い残すことはなかった。


 ルゥが無事ならと、


 唸り声を上げる魔物を前にしても、何も怖いことはなかった。


 生きたままこの体が喰われていっても、絶望に打ちひしがれることはなかった。


 俺を食べてくれている間に、ルゥは遠くに逃げられる。


 ルゥが生きてくれる。


 最後までそれが、俺の希望だった。










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