04-02.保護者解約は必然ですけどなにか?
しばらくしてすぐにご飯が出てこなくなり、自分で作って食べるしかなくなった。
ありがたいことに、私は見た目通りの子どもではない。
食事が出てこないからといって黙って餓死できるタイプではない。それに今世は我慢することはやめたのだ。
かといって、口が達者なわけでもないので女に口喧嘩して勝てる気はしない。
となると上手く回避することに専念すべきだと考えた。
幸いなことに、生活に必要な魔法は使うことができた。
どこぞで雇ってもらえたりするほど強い魔法は使えないが、生活に必要な程度には使えるため、なんとか飢える事がない程度には上手く凌ぐ事はできる。
もちろんこっそりだが。
ただ、食糧倉庫が空な時があるので、食べられない事も多い。
そんな時は、心配そうにこちらを観察しているご近所さんに手を貸してもらう事もあった。
ただそれも長くは続かない。
勘のいい女は気づき、親切にしてくれた相手に怒鳴り込みに行くのだ。
これはさすがに申し訳ない気持ちになってしまう。
女の機嫌がとても良い時は時々、食事が出てくるのだが、そういう時はなぜか食べ物が腐っている。
驚きだ。
そんなものをわざわざ作る理由がわからない。
食べるともちろん苦しむことになる。
その様子を見て楽しんでいるらしい。なかなかな性格だと思う。
けれどもその毒入りのような腐った食事のおかげか、しばらくしたら浄化魔法が使えるようになっていた。
浄化はその名のとおり浄化する魔法である。
このおかげで、腐ったものを口にする前に対象を浄化することで、苦しむ事はなくなった。
なくなったのだが結局、苦しまないと怪訝そうにされるので、苦しむという演技力が身に付いてしまった。
育児放棄されているのは間違いが無いだろう。
旦那である騎士は全部女に押し付けて何一つ私を見ようとしなかった。
完全に放置されている為、浄化魔法を覚えたのを機に、掃除も洗濯も自分でやっている。
もはや屋根と壁があるから「ここにいる」という感じだ。
この人達は別に子どもが欲しいとか、子ども好きなわけではなかった。
単に周囲に良い顔をしたかっただけみたいである。
周囲への、可哀想な孤児を引き取った私達は優しいでしょう、というアピールだった。
なんだそれ。
そもそも世話もされていないけどね。
腐った食事について、推測するに、騎士団から引き取った手前、今更捨てるわけにもいかず…ペットだったら捨てられていたと思う…邪魔な存在になったのだろう。
もしくは体調を崩させて、病院にでも放り込みたいのだろうか?
私を引き取ることになった元凶である騎士がもう少し家庭的な人間だったらまた違ったのかもしれないが、あいつは拾ってきたペットを奥さんに渡しておしまい、というタイプの人間だった。
しかも連日、泊り込みで帰ってきているところを見たこともない。
家庭の事はまったく知りません、という顔である。
ではなぜ引き取った。謎だ。
女は旦那が戻ってこないのを良いことに、自由気ままに遊び歩いている。
これ、私でなければとっくに死んでるぞ。
育児放棄で死亡案件だろ。殺人犯だからな普通に。
屋根と壁は確かに大切だが、ここにいる意味、あるのだろうか。
(この家から出よう)
どうやら彼女の望みはイケメンにモテたかったようで、私が来てしばらくすると、急に周囲に彼女好みのイケメンが現れ、ちやほやされはじめた。
幸運が作用したのだ。
そして女は、さらにフラフラしはじめた。
肩についている鈍く濁って光る幸運は、濁った赤に近いピンク色になっていった。わかりやすい。
どうやら性的な事を望む場合にこの色になるようだ。
ちなみに旦那の方も鈍い濁った光で、金色だったので望むものは権力とか昇進のようだ。
女は幼女がいてもお構いなしにヒモイケメンを家に引っ張り込んで昼間からイタしている事もあったし、出かけるとしばらく帰ってこなくなる事はよくあった。
問題はその相手である。
イケメンは女をちやほやしながら金をせびるタイプのヒモ男だった。
それを勝手に侍らせ始めたのである。働いてもいない人妻のくせに。
なぜかそんな自分に酔いしれ、ご満悦なのだ。
アレだ。旦那の稼いだ金でホスト遊びにハマって遊ぶ妻みたいな感じだ。まあこの女の場合は本気なのだろうけれど。
(この人のこと嫌いだからなぁ、私)
幸運はどう作用するのかわからない。
私の感情がマイナスに振り切った時、その人間にとって幸運に見える何かは決してその人を幸せにはしない。
だからこの場合、相手がイケメンなヒモ男なのだろうと思う。
ただ、その見せ掛けの幸運に飛びつかなければ何も起こらない。しかしながらほとんどの人間が飛びつくのだ。
この力のせいでこの夫婦は喧嘩が絶えなくなった。
イケメンに囲まれてちやほやされた結果、金を使い込んだ挙句に女の性格が傲慢に歪んでしまったせいだ。
この力は人間の本性を引き出すものだと知った。
心から望む願いが幸運として飛来するのだ。
だからいずれは今と同じ状況になっていただろう。
現れるのがヒモ男ではなかったとしても、イケメンが現れ誘惑してきたらホイホイ乗るタイプだという事だ。
それが今か、もっと先かの違いだ。
だからと言って自分の力が及ぼした事に変わりはない。力のせいで関係が崩れ、壊れていく。
本当は誰とも関わらずに生きていくのが正解だ。
けれど。
(強引に引き取られたし、どうしようもなかったからなぁ)
平穏な生活は唐突に終止符となる。いつだってそうだった。
それでも今までとは違い、いつか終わるのだと覚悟していれば準備は出来た。
必要最低限のものを集め、いつでも出て行けるように。
今回は自分自身で終止符を打つことができる。
他人に奪われたり、壊されて変わるものではないのだ。
年齢はようやく六歳になったぐらいだろうか。
自分の事はなんとか出来る年齢だと思うことにした。