07-05.だから聖女は敵なんだって
子ども達が虐待されていた事実は理解してもらえたらしい。
子ども達があまりに
「いやだ」「こわい」
「せいじょさまこわい」
「せいじょさまごめんなさい」
「せいじょさま、いたくしないで」
「いたいよぉ」
「やめてください、ごめんなさい、せいじょさま、もうぶたないで」
「たすけてください」などと泣き喚いた為である。
本当に聖女様にされたのだと、理解せざるを得なかったのだろう。
ましてそんな事実に大人たちは誰も気づかなかったのだ。
しかし聖女がこの村に派遣されてきたのは事実である。
「何者かに襲撃された」としなければ神殿に説明ができず、村が困るだろう。
村長と話をしている間にも、子ども達が時間差で泣き喚いている。
それらに浄化魔法をかけるのだが、これ、いつまで続くんだろう。
あんまり長居はしたくないんだけど。
「聖女様たちのご遺体はこちらで埋葬させていただいても?」
村長が言った。
襲撃されたところを彼女達に守っていただけたと言えば、神殿側も納得いただけるだろうと言うのだ。
それに乗っかる事にした。そうしてもらえるのならば助かります。
今泣き喚いている子ども達に浄化をかけ、それでもうこの村を出るつもりだった。
浄化をかけたことで子どもが安定し、親たちには感謝されたが、また泣き喚くのではないかと不安に思っている様子だった。
この子達はトラウマを抱えたからな…可哀想に。
助けてあげたい気持ちはあるがしかし、長居はできない。
したくない。
いつ神殿の奴らが来るかわからないのだ。
そんな葛藤を見透かされ、ムムさんに声をかけられた。
《主様》
「んー?」
《心配なら主様の作られた回復薬をわければよいのでは》
回復薬?と考えてしまう。
「なんの回復薬?」
《魔力だ。あれは精神異常も回復する》
え、なにそれ。どゆこと。
もちっと詳しく。
《身体回復薬は身体機能の回復に特化しているが、魔力回復薬は精神異常も回復する》
え、そんな効果があるの?
でも作成本にはそんな事、書いてなかったと思うのだけど。
「ホントに?」
《ほんとだよ~》
後押しするのはメメちゃんだった。
《たくさんじゃなくて、ちょっとだけのんだらいいと思う》
あれか。私がお守りで持って歩いている、魔力回復薬を置いていけばいいのか。
なるほど。
そしたら私も、自己満足で気分的にもちょっとは楽になるかな。
気休めだけれど。
「ちょっとってどれぐらい?」
《ゆびにつけてなめるぐらい》
そんなにちょっとでいいのか。
味見程度じゃないか。すごいな。
なら置いていくのは瓶一本とかで充分かな。
そもそもちょっと大きめの瓶なので、市販の瓶の三本分ぐらい入っているからね。
しかし問題は、その回復薬の預け先である。
村長には嫌だな、と思う。
なんとなく嫌な感じがするからだ。
こういう勘は外れないよね。
なので、こっそりとアロエ親子にお願いした。
彼女は「自分だけ聖女の虐待から逃げていた」という後ろめたい気持ちが大きいらしく、少し塞ぎこんでもいるようだった。
別にそんなことはないと思うのだけれど、思い込んだらそうなっちゃうよな。
だから、ちょうどよかったのかもしれない。
薬をほんの少し舐めさせて、皆を治す、というこの大役をまかされてくれた。
アロエに瓶を渡してお願いし、私達は逃げるように村を出た。




