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07-04.だから聖女は敵なんだって



聖女が私の方を見てギロリと睨んでいる。


「お前、どこのガキよ…!」


どこのガキだと言われましても、どこのガキでもありません。

この村の子どもではないとしか説明のしようがない。


「親はどこのどいつよ、聖女の私にこんなことをするなんて…!」


プライドが傷ついたようである。そーですか。


《主様》


するり、とムムが傍に来てくれる。

メメちゃんとモモちゃんも一緒だった。


「うーん、どうしよう」


厄介な事にしてしまった。

これは収拾がつかないだろう。


親は、子どもが酷い目にあわされていたかもしれない可能性に気づいたが、どうしたらいいのかわからず困惑しているようだ。


そりゃあ自分たちを救ってくれるはずの聖女様が子どもを傷つけていたとは、にわかに信じたくないだろう。


だがもしかしたら、子ども達の様子に、少しはおかしさを感じてはいたのかもしれないと思う。

そうでなければあのえげつない道具の数々を見たとしても、「聖女が酷い事をしている」というアロエの言葉を聞いたとしても、「そんなはずはない」と強引にでも簡単に跳ね除ける気がするからだ。


相手が聖女だから、という理由で。


突然の事に戸惑いつつも、神官達が聖女を取り囲んだ。

といっても神官、三人しかいないけど。


三人って多いのか少ないのかわからない。


《さくっと始末しちゃえばいいんじゃないかな》

《そうだよマスター》


おう、真っ向から神殿にケンカを売れと、メメちゃんとモモちゃんが推奨してきます。

相変わらず好戦的だネ。


しかしここで聖女に対して危害を加えずに帰したとしても、今回の事態は間違いなく神殿には伝わってしまうだろう。

そうなった場合、村人たちにも被害が及ぶはずだ。下手をしたら「聖女のイメージ確保の為」に、何かされてしまうだろう。

それが何かはあまり考えたくはないが、良いことではないのは確かだ。


…乱暴かもしれないが、ここは一つ、サクッと始末するのが最も、被害を抑える方法だろうか。

そもそもこいつらロクでもないしな。


今までも同じ事を繰り返してきたのではないだろうかと容易に推測できてしまうし、どこかの村人たちは自覚のないままに泣き寝入りをさせられているはずだ。

床に散乱する道具の数からして、手馴れているだろうし、ちょっと多すぎである。


その聖女の暴行を見逃し続け、かつ隠蔽し続けてきた神官達も同罪だ。

そしてなにより今も、どう隠蔽するか相談しているのが聞こえている。


本当にロクでもない奴しかいないな、神殿の神官も。


「そのガキを捕まえなさい!殺してやる!」


逆上し、絶叫した聖女に向けて、あからさまに三匹が牙を剥いた。


《主様、許可を》

《ご主人さま、全員、ヤっていい?》

《マスター、あいつらカみたいぃ!》


酷すぎる現状に、正直もう、考えるのが嫌になってしまった。


「いいよ」


その一言で何もかもが片付いた。

村人たちは呆然としていた。




*-------------------*




死体が四つも出来てしまった。あっさりと。


前世では殺人は犯罪だった。

もちろん誘拐、監禁も犯罪だ。

人身売買も犯罪だった。


そういう意味でいけば、この世界はなんでもありだ。

それらを全部経験してしまった。

最初の以外は被害者側だけど。


もちろん三匹のした責任は私にあるし、自分で手を下したわけではないところがまた最悪だともわかっている。

めっちゃ悪い奴だな私。


しかし貧弱な私では、自分でしたくとも無理な事も多い。

筋力増強剤を飲んで行動したら、相手に勝てるだろうか。


村人たちは遠巻きに私を見ている。

あれだ。ムム達には隠蔽魔法がかかったままなので、私が何かしたように見えているはずだ。


その方がありがたいけれど、ため息が出てしまう。


この死体をどうにか処分する方法を考えて、それからこの人達をどうにか言いくるめる必要があるだろう。


前世以外ではコミュニケーションをほとんどしてこなかった。

監禁されていたからだが、前世でもそもそも、会話もあまり得意ではなかった。

魂についた傷を引きずっていたのだろう。


さて、どうしたらいいだろうか。

周囲の親たちは何が起きたのかと呆然と突っ立っている。


「ひっ、ひぃっ」

「聖女様がぁっ!」


事態を認識すれば騒ぎになるのは当然だろう。皆が散り散りに逃げていく。

これはヤバい。説明する暇などなかった。

これでは単なる、聖女と神官を殺した凶悪犯だ。


あれ、それで間違いないのか?


説明もしないままに逃げるしかないのか、とため息をついてしまうのだが、一組だけ身動きしていない親子が居た。

アロエだ。

彼女の言葉から発展したとも言える事態である。


けれどそれは逃げない理由にはならないだろう。

目の前で聖女たちが殺されたのだ。恐怖して逃げるのが普通である。


首を傾げて彼女を見つめてしまうと、行動を起こしたのは相手の方だった。


「…っ、あの!」


先に声をかけられてしまった。

本当にこの子、めちゃくちゃ勇気があるなぁ。すごい。

転生を繰り返してなお、臆病でしかない自分にはできない芸当だと思う。


「ありが、と…」


人殺しをして、お礼を言われてしまった。

彼女の肩の光はまだ輝いている。

幸運が効いているのがみえる。


娘につられるように、両親も恐る恐るという感じで話しかけてくる。

なるほど、この子が育った理由が少し見えた気がする。


「あ、ありがとうございました…」


娘の手はしっかり握って離さないけれど、逃げていくわけでもない。

勇気ある親子だ。


だって私はいま、聖女と神官を殺したのだ。

権力に逆らったのだ。

そんな人間には関わってはいけないと思うのが普通だろう。


「助けていただいて…っ」


確かにあのままだったら、アロエは聖女に不敬罪をしたとして何かしら罰を受けていたかもしれない。

あの暴力聖女相手である。

きっと酷いコトになっていただろう。


アロエ相手ならば多少、話しやすい気がする。

同年代の女の子だ。気は強いが悪い子では決してない。


「神殿から何か言われたら全部、私のせいにしておいて」


彼女達を見て、告げる。というかほぼ全部私のせいだ。

真実を告げろって話である。

どうせ長居はできないのだし、追いかけられたところでムム達に追いつけるとは思えない。


「それから、聖女はこんな奴が多いので気をつけて」

「は、はい…っ」


そんな話をしていると、あちこちから子どもの錯乱したような泣き声が聞こえ始めた。

どうやら、逃げた親子の子どもが唐突に喚きだしたようである。


え、どうした?


《聖女が死んだから、かけられていた術が解けたようだな》

「え、」


それって。


《催眠魔法が解けた》


つまり。あの聖女にされていた事を思い出したということか。


最悪だ。

じゃああいつ、殺したらダメだったって事?


けど「いつか」はこうなるのだ。

あの聖女が死んだ時…それが大人になってから思い出したとしても被害は変わらない気がする。

むしろあいつが生きていたら被害者がさらに増えているだろう。


「え、どうにかしてあげられないの、どうしたら…!」


私が独り言を喋っているように見えるだろう。

アロエ親子が不審そうだが、構っていられない。


ムムも思案しているが首を傾げている。

ちょっと可愛い。


《主様の浄化魔法なら、多少は緩和するかもしれないが、》


浄化魔法すごくね!?

なにその万能!


《ご主さまのじょーかまほーがトクベツなんだよ!》


メメちゃんが得意そうに胸を張っている。

可愛いんだけど、何が特別なのかはまったくわかりません。


とにかく泣き喚く家に行き、浄化魔法をかけて回れば、確かに落ち着くようだった。


私だけが行くとパニックするだろうと、仲介人としてあちこちの家を案内してくれるアロエ親子も、浄化魔法をかけただけでおとなしくなる子どもたちの様子に驚いた顔をして私を見ているが、悪いが私も、どうしてこうなるのかよくわかっていない。

いないので、説明は求めないでくださいお願いシマス。


「あなた、せいじょさまなの?」

「違います」


アロエが聞いてきたが、間髪入れずに否定をした。

あんな奴らと一緒にすんな。


そんな中、騒ぎを聞きつけて村長らしい人が出てきた。

今更か、と思いつつも、ヤベェとも思う。


だってどんな人間かわからない。

やはり逃げた方がいいだろうかとそわそわしていたのだが、アロエ親子が村長に、必死に説明してくれたおかげで、どうやら理解してくれたようだ。


おぉ、アロエ親子ナイス。


「そうですか…わかりました」


しかし、私を見る村長の目は怖い。

こいつ、ちゃんと納得はしてねぇなと思う。


そもそも村長をやっているぐらいだ。

顕示欲や権力欲はあるだろう。


こんな、突然湧いたわけのわからない幼女の言いなりになるなどと、我慢ならないはずだ。


しかしそれでも堪えているのは、単純にあの四人を殺した私には敵わないと思ったのだろうか。


だとしたら助かるかな。

余計な死人は出したくないので。



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