06-02.犠牲者はその世界の人間だけで充分だ
森の奥の家は小さな小さな家だった。何もない。
彼女も必要最低限のものしか持っていなかった。
「なき、みあやです」
名乗られた。
困ったので「センです」と返す。
ちょっと偽名が増えてきて何がなんだかわからなくなりつつあったので、元に戻してみた。
ア行の偽名は、初対面で名乗りたくない相手に使う事にしよう、そうしよう。
「その、なんでこんなところに子どもが?」
その言葉、そっくりそのまま返したい。
いや貴女も子どもでしょうが、と。
どう見ても若いのだ。間違いなく。
まだ十代だろう。
前世はちゃんと生きたのだ。
だからわかるし、不安そうな表情が物語っている。
なので彼女に合わせることにした。
「追われていて」
「えっ」
驚いた顔。そして同意するような顔をしている。
間違いなくこの子が「召喚されて追い出された」聖女だろう。
追い出されたけれど多分、あいつらは今も追っ手をかけているはずだ。
わざわざ召喚したのだ。元を取るつもりのはずである。
それでなければ彼女が私を見た瞬間、怯えるはずがないのである。
しかし私にも追っ手が掛かっているとなると、追われている相手は違うとしても、芋づる式に自分も見つかってしまうかもしれないと不安にもなったのだろう。
顔に出た。わかりやすい。
なので、やはり否定しておく。
「ウソです。旅の途中なんです」
「あ、あ…そう、なんですか」
今度は、こんな子どもが?という顔になっている。
ですよねー。その気持ち、わかります。
「少しだけここに滞在させてもらってもいいですか?話を聞いて欲しいです」
告げると彼女は困った顔をして悩んだようだけれど、「どうぞ」と口にした。
幼女だったから警戒心が解けたかな?
やったね、幼女万歳。
話を聞かせて欲しい、よりも、話を聞いて欲しい、の方がハードルは低い。
知っている。だから敢えてそう口にした。
その前に彼女に「水浴びしませんか」と誘う。
いやだって、この距離でも臭う。
マジで。
「でもあの、ここ、その、水が…」
とても少ないらしく、節約しているそうだ。
可哀想すぎる。
だから異世界に突然飛ばされるとこういうことになるわけだ。
魔法なんてない世界から来れば、魔法の使い方なんてわかるはずがない。
生まれた時からこの世界に居れば自然と身につくことがわからないのだから、苦労するに決まっている。
「水、私が出しますから」
そう言い、魔法で出して見せると目を丸くした。
「すごい、魔法!?」
こんなに小さい子でも使えるんだね、と言われたが、この世界では普通のことだ。
個人によって使える魔法は違うけれど。
とりあえず二人で水浴びをすることにした。
石鹸も予備で多めに買っていたので一つあげた。
さすがにちょっと不憫すぎて、人間不信の私でも同情してしまう。
聖女のせいで家族が死んだという話を彼女にした。
だから敵なのだと説明し、でも犯人の聖女はわかっているので、そいつが敵だという事にしておいた。
聖女として召喚されてしまった以上、自分も敵かも、と思わせるのは、聖女の立場から追い出されて不遇の身の上となった彼女には、ちょっと不憫だと思ったからだ。
「その、私は、」
私の話を聞いてから、ようやく彼女はぽつりぽつりと話し始めた。
「聖女として召喚されたみたい…なんですけど…その、魔法が上手く使えなくて」
魔力は持っているらしい。充分すぎるほどあるそうだ。
けれど、どうしても魔法が使えなかったらしい。
それはそうだろう。
だって魔法のない世界から来たのだ。
いきなり使えと言われてもわからないだろう。
「浄化?とかいうのが使えないと、聖女にはなれないみたいで。だから」
すごく酷い事を沢山言われたようである。
勝手に召喚しておいて、あいつらマジ鬼畜だな。
何度も何度も逃げ出そうとしたけれど逃げられなかったらしい。
可哀想過ぎる。
自分の過去と重ねてしまった。




