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05-02.聖女と名のつく奴は信用するな



前世、物語はよく読んだ。

単純に面白かったし好きだったからだ。


物語が記憶に残りやすいのを多分、無意識下で覚えていたのだろうと思う。

現に結構覚えている。


異世界モノとかが流行っていた。

もちろん前世では、今までの転生の記憶などまったくなく、だから平和だったのだけれど…それでも懐かしさとかを感じたのだろうか。

ちょっと惹かれたりもしたなと思い出す。


その中で「聖女」という単語はよく見かけた。

聖女を皆、大好きだったようだ。転生話とか多かったし、読む分にはとても楽しかった気がする。


だがしかし、今の私は聖女を信用しない。

なぜならこの世界ではうちの子達の敵だからだ。

あいつらは敵である。


そして今、その聖女が異世界転移者だという事がわかり、嫌な気配しかしない。


前世では楽しく読んでいた読み物の内容が、今世では現実なのである。


異世界転移には様々なパターンがあった。


だが大きく分ければ単純に、異世界に「呼ばれる」か「偶然飛ぶ」である。

「作為」か「偶発」かだ。


意図的に召喚された場合は呼んだ側の責任だろう。

勝手に呼びつけたのだ。

しかし偶発パターンだけはどうしようもない。


飛ぶ。落ちる。神様の誤作動。


作用は色々あった気がするが…とにかく、向こうの世界から弾き飛ばされて「来てしまった」者達というイメージだ。


わかるだろうか。

世界から「弾き飛ばされる」。

つまり「いらない」と捨てられたも同然だ。


それは、異世界に一度転生したからこそ理解できた。


その世界から「必要ない」と弾き飛ばされる事など、まずありえない。


そうでなければ、異世界人である私が、異世界で平穏に人生をまっとうするはずがない。


必ず「必要」だからその世界に生まれているはずなのだ。


たとえ、生まれた瞬間に死んでしまう運命だとしても。

生まれる前に死んでしまう運命だとしても。

その世界に必要だからこそ、その瞬間、その世界にいるのである。


だから。


死ぬでもなく、世界から突然弾き出された彼らは、一体何をしでかしたのだろうか。

いるのかどうかわからない神様の手違いや誤作動という事もあるかもしれないがそれだって、つまりは「必要がない」と判断されたも同然だと考える。


考えても見てほしい。

もしも神様の誤作動で何かあったとしても、その人が「その異世界に必要」ならば、異世界で「生まれ変わらせれ」ばいいのだ。

何かをさせるにしても、その世界に適した体の方がいいに決まっている。


世界が違うのだ。

空気も、環境も、何もかもが違う。

別の世界で育ち、馴染んだ体が異世界で「耐えられる」という保証などどこにもない。


それに、他の世界に飛ばしたからといって、その存在自体がチャラになるわけではない。

それは他の世界に「その人間を押し付けた」という事になるだろう。

責任転嫁だ。


何度も何度も同じ世界に転生させられている私である。

私だってまた転生するのならば、ここではない、前世のような異世界の方が良かった。


たった一度だけ別の世界に行く事ができた。

そこで生が終わればよかったのに、こうしてまた強制的に戻されてしまっている。

つまり、魂の輪廻は「その世界に特化」していて、そうそう別世界に行き来などできないものなのだ。


何が言いたいかというとだ。

世界から弾き飛ばされた人間なんてどうせロクな奴がいないに決まっている、という話である。


社会で弾かれる奴というのはそれなりにいるだろう。

クズな人間は案外多い。それでも彼らはその世界に存在する。


世界の一部として成り立たっている。

それは結局、その世界に「必要な人間」だからだ。


残念ながら、一度受肉し、生を受けたからにはもはや「その世界の一部」なのである。

少なくとも生を全うするまでの間は「その世界に必要」だから、そこに居るのだ。


だが異世界転移は、そこから弾かれるという事だ。

必要が無いから外される。

落とされる。移転させられる。


その世界に「必要な部品」であるのならば外される事は決してない。

世界を構成している一部だからだ。


それが、「必要ない」と弾かれるのである。


世界ではゴミさえも構成部品だというのに、それ以下だと言われたも同然である。


たとえば私のように、疲れきって消耗し、もう転生などしたくない、させないで欲しいと願う人間を、どこかに一時的に隔離する為の「転生」であればそれはまた別の話だと思う。

あれは一時的な入院生活みたいなものだったと、今では思う。


だとしても転生だ。

その一生を終えるまではその世界に留意させられていた。

つまり「弾かれる」こと自体がありえないのだ。


にもかかわらず、世界から弾かれた異世界人など、関わればロクなことがない。

そう思うだろう。


世界の話をしたが、召喚自体がその世界の一部を無理やり「切り取る」のだ。

強奪である。


歪ができ、「世界が歪んだとしても欲しい」という強欲さが生んでいる結果なのだ。


つまるところ世界が世界に喧嘩を売っているようなものである。

相手に怪我を負わせてまでして召喚しているのだ。


そんなことをする人間の強欲さよ…本当に…ふざけんな、と思うわけなのだが。


(…こういう場合、ロクなことが起きない気がする)


世界から弾かれた、「落ちてきた聖女」に追い出された、「異世界から強奪された聖女」はどこに行ったのだろうか。

その子は大丈夫なのだろうか。


嫌な予感しかしなかった。



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