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03-01.賭けてもいいけど、新しい保護者はたぶんすぐ解約になるよ



一夜が明け、結局私は騎士団に見つかり、保護された。

豪雨の後の見回りで事故が発覚したのだ。


残念ながら子どもの足ではそう遠くまで行けず、途中で見つかり保護されてしまったのである。


唯一良かったことは、両親が売り渡そうとしていた取引場所が、どうやら近くではなかったらしいという事だ。


騎士団からは何も言われなかったし、私の所有権を主張するような輩は現れなかった。


この世界で私はいつもピリピリしている。それがとても苦手だ。

穏やかな気持ちで暮らしたいがそれができない。


人間不信のせいかもしれない。

転生する度にされてきた監禁のせいで、「力」がバレ、誰かに攫われるのではないかと不安で緊張しているのだ。


騎士団に保護されたものの、両親が亡くなったのだ。

すぐにでも孤児院行きだろうなと思っていた。

なのに。


しばらくは騎士団で預かると言われて困惑した。


(なんで)


外見は五歳の女の子だ。

繰り返した転生の記憶のせいで中身はもう何歳と言っていいのかわからないが、一見は五歳児である。

幼女なんか、男ばかりの町の専属騎士団が長期間預かれるわけがないだろうと思っていた。


騎士団はちょっと苦手だ。

力のモノを言わせ、圧力をかけてくる野郎が多いせいだ。

だからできれば関わりあいにはなりたくなかったのだが。



私を引き取ってくれるというお人よしな団員が一人現れてしまったらしい。

彼は既婚歴三年目で、残念ながらまだ子どもはいないらしい。奥さんとの間に子どもが出来難いそうだ。


だからといって突然、こんな大きな子どもが増える事は良いのだろうか?


しかし残念な事に、騎士団に預けられ、引き取られることが決まるまでの間、私は熱を出して倒れてしまった。

雨に濡れたせいである。


脆弱な身体が心底疎ましい。

ぼんやりしている間に引き取る話が勝手に決まってしまったのだ。

ぼんやりしていなかったとしても、抵抗できなかった気もするが。


彼らにとっては良かれと思って引き取ることにしたのだろうが、勝手に決められて腹立たしい。

一応、その騎士さんとは顔合わせはした。熱でぼんやりした状態だったのだが。


結局のところ、狂うのはその人の性格ゆえだ。

業が深ければ狂っていく。

だが前世の経験から私は知っている。

幸運に左右されない人間も少なからず居る事を。


ほんの一握りの人だけれどそういう人も居るのだ。


だから私は結局、人間不信とは言え、人間を全て嫌いになりきることはできなかった。

たとえば、とても欲深な人間だとしても『それを律する事ができるだけの理性』を持ち合わせていれば、狂うことはない。

善人であり続けようとする努力がその人を変えていく。


しかし人間は大抵、欲に負ける。この世界の人間は特にそうだ。


残念ながら狂う人間が大多数であり、そういう者に害される事が多かった。


(問題は)


仮にこの騎士さんが良い人だとしても、周囲もそうとは限らないという事だ。

この人だけが良くても回りにいる人間によっては狂ってしまう。


残念ながら私は熱が出ていた。そのせいで少しばかり心が弱ってしまっていた。

熱さえ出ていなければ。

もしくはもう少し年を重ねていれば一人で逃げるという選択肢もあったかもしれない。


孤児院とどちらが良かったかと問われると、どちらとも言えなかった。

なぜならば孤児院にも良い思い出が無いせいだ。


あそこに行くと「幸運」の効果のせいで孤児院の経営状態が良くなるものの、今度は良くなりすぎて、経営している大人が欲にかられておかしくなり、すぐに変な金持ちに売られることになるのだ。

そしてそのまま監禁コースへ突入してしまうのである。


巻き込む人数を考えると、孤児院に居る子どもたちか、この夫婦か…後者を選んだほうが被害は少ないのかとも考えてしまう。


どうせ決まってしまったのだから数年だけ厄介になろう、と思う。


私を引き取ることになり、騎士さんは喜んでいた。

その喜びの意味を私はまだ正しく知らなかった。


奥さんも楽しみに待っているのだとニコニコして言ってくれた。


だが。


連れて行かれた先にいた人に、私はがっかりした。

騎士さんの奥さんだったが…一目見た瞬間、この人は駄目だとわかってしまったせいだ。


そもそも人間不信なので私の判定基準は厳しいとは思う。


まず自身の顔が整っていることを「理解」している人間は駄目である。

なぜか大抵嫌われるのだ。

ロクなことにならない。

この人はそのタイプでもあった。


美人で優しそうな奥さんは、それを鼻にかけているタイプだろう。


こんなに綺麗で優しい私がこの人を支えてあげているのだ、という気持ちが前面に出てしまっている。

本当に優しい人はそんな事を考えないものだと思うのだが。


可哀想な孤児を引き取る私は優しいでしょう?

素晴らしいでしょう?


いうアピールに使う気満々だという事が透けていた。


最初のうちは良いだろう。だがすぐに変化する。

確率的には非常に高い。


できれば良い意味で裏切られたいとは思うけれど、この人相手ではそうはならないだろう。


どういう意味であれ、大抵の人間は善人でいようとする者が多い。この奥さんだってそうだ。

自己陶酔しているかもしれないが、何もなければ出来る限り善人の皮を被り続けるだろう。


自分の欲にすべて忠実な者などあまりいない。 そんな人間ばかりでは世界は狂ってしまう。


ただ問題は、私のような存在が現れてしまった時だ。


今までは絶対に手に入らないと思われていた「幸運」が舞い込み、手が届いてしまう。

その瞬間から人はどんどん欲深になっていく。狂って行くのだ。


今世。力が強いとは言っても一目でバレる事はさすがにない。幸運は即効性ではないからだ。


それでも人はおかしくなるのだ。前世でさえあれだけ力が弱くても影響が出てしまったように。


(…せめてできるだけ早く、ここを出よう)


こういう場合、良い関係が築ける時間はいつだってとても短い。


残念ながらそういう勘が外れた例は今まで一度もなかった。




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