03-02.厄介ごとはいつも向こうからやってくる
宮廷魔術師ってこんな辺境の果てにいるものなのだろうか。
宮廷にいるから宮廷魔術師じゃないのか?
よくわからん。
というか、絶対に関わりあいたくないアレだった。
しかし納得である。
宮廷魔術師って事はあれだろ、国の偉いさんのうちに入るやつだ。
強くて当然だ。
架空の両親がこいつの落とし子みたいな事を言われていたのだが、若そうに見える。
二十代ぐらいだろうか?
そもそも「宮廷魔術師」って職業だよな?
そのへん私、無知なんだよな…転生を繰り返してきた割には、そのあたりは知らない。
「…宮廷魔術師っていっぱいいるんですか」
思わず尋ねてみると「それなりに」と答えがある。
「しかし私の名は、出せばすぐにわかるはずだ」
偉いさんですか、そうですか。
だから偉そうなんですね。
私、あなたのこと嫌いです。
あれか、もしかして、私があんたのことを知らなかった事で、プライドを傷つけたか…不機嫌そうになっている。
いやお前、田舎娘にまで名を轟かせようとするんじゃない。
お前の事なんか知らない人間は結構多いと思うけど。
「今からどこへ行くんだ」
めっちゃ睨まれている。いやもう逃げ出したい。
どう答えるのが正解なのかもわからない。
「親戚のおばの家です」
困った時の親戚増加!自分で増加させる分には困らない。
「魔物を連れてか?」
「おばの言う事をきく子なんです。だからいつも、迎えに来てもらっていて」
遠いから場所がわからなくて、と。
こんな時は幼女アピールだ。
「…えぇと、場所は、よくわからないです」
困った顔をすると、相手も眉間に皺が寄っている。
明らかに不審がられている。
ですよねー。
だって私、自分の意思で止まりましたからね。
でも「止まって」ぐらいは聞いてくれないと困るだろう。
主にトイレとかトイレとかトイレとか。
まだ八歳の幼女ですからね、私。
「おばの名は」
「おばさん?…ヒヤおばさんのことですか?」
適当命名、第○弾。
架空のおばさんをセッティング。
「ヒヤ」
「いつもそう呼んでますけど」
あとはわかりません、と告げる。余計に突っ込まれると困る。
「お前の名は」
やっぱり聞かれますよね。ははっ。もちろん偽名発動です。
「アンです」
彼はじっと私を見ている。
え、偽名がバレてる…?
とも思ったが、結局、何も言わなかった。
「わかった。異世界人を見かけたらその鳥を放して連絡しろ。お前のおばにもそう伝えろ」
解放してもらえそうだ。よし、と思う。
「よくわかりませんが、つたえます」
架空のおばなので、伝わる事は一切ありませんけれどもね。
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あの野郎がついて来ないことを確認し、そっと息をつく。
《主様、黙って聞いて欲しい》
ムムが突然話かけてきたのでこくりと頷く。
私、背中にいるんですけど伝わるのかなコレ。
《あいつ、かんでいい?》
《かみころしたい!》
メメとモモが過激になって唸っている。
あれ、そういえば出てこなかったね。
珍しく、顔を出す事もなくおとなしくしてたね。
偉いけど、なんで?
《その鳥を途中で放した方がいい。追跡魔法がかかっている》
マジですか…!
うわー、最低だ、あいつ。
やっぱり見かけ通りの野郎だったか。
絶対に信用しねぇ。
《近距離だと声まで届いてしまう。主様はしばらく、黙っていた方がいい》
声まで届くのかいコレ。
なんというものを渡してくれやがったんだあいつ。
しかし、止まらなければずっと付いてきただろうしな…厄介な野郎だ。
《今から遠回りをする。イセカイジンとやらを見つけたことにして、飛ばすといい。飛ばしさえすればそれで終りだ》
持ち続けている限り、追跡されてしまうらしい。
主従契約の声は相手には聞こえないから良いとして、私が喋れないのは不便である。
結局その日、予定していた方向とは別の方角に移動し、声が届かない距離まで来て《もういいと思う》と告げられた。
「ぷはぁっ…!」
息を止めていたわけではないが、気分である。気分。
「あーもう最悪…なにあいつ。本当に」
《ご主人さま、あいつ、かんでいい?》
《かみころしたい!》
まだメメとモモは怒っていた。
周辺探索魔法を使いつつ来ているので、相手の場所はわかっている。
止まった時にマーキングをつけたからな。
しつこい奴は要注意人物である。
あれから、奴とは距離的にかなり離れた。確認している。
《そろそろ離してもいいだろう》
鳥を放したらすぐに別の方角に移動するという。
「ムム達はあいつの居る場所、わかっているの?」
《あぁ、大丈夫だ》
敵認定したからな、という発言。…なんですかソレ。
《かみ殺すリスト入り》
《なぶりぶっころしリスト、ランキング入り》
メメさん、モモさん、…そのリストとランキングの存在は知りたくなかったかな。
何人、そこに入っているのかな。
とりあえず鳥を放すと、ムムは違う方向に移動を始めた。
《予定よりも遅れたが、目的地に向かおう》
そもそも私たちは、隠れ家候補を見に来たのだ。
まったく、厄介な奴に出会ったせいで予定が狂ってしまった。




