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24-02.売られた喧嘩は今世から買いますが、ここまで派手にするつもりはなかったという言い訳をしたい



隠蔽魔法って便利だよね。

皆でかくれんぼしているようなもんだしね。


せっかくなので全員でお出かけしてみようという話になり、必要なものだけを持って、あとは地下室に厳重にしまい込みました。


「よし、行ってみよう」


私と二匹が乗れるぐらいのサイズになるのかと思いきや、もう少し大きいサイズだった。

その方が揺れないらしい。


落下防止用にムムさんの身体に布を巻きつけ、私がその内側に入るスタイルです。

見た目どうのではない。

落ちる方が怖い。


ちなみに、メメとモモは振り落とされるわけがないそうなので、そのままです。

すげぇな魔物。

いやむしろ並走できるのか。


まだ諦めずに魔の森に進攻しようとしている奴らを尻目に、お出かけです。


よし、行こう。





ちなみに現領主は療養の為、奥地に引っ込んでいるらしい。

十日ほどかかる道のりを、ムムさんの足ならば一日半程度で到着するそうですよ。


早すぎでは、と思ったのは正しくて、ものすごい風を切って走るので、揺れはマシだったけれど、息ができなくなるのは困る。

伏せていても、風圧で苦しくなるのだ。


「ムム、ムムさん!息が、苦しい、です!」


時々休憩を挟むことになり、片道三日で勘弁してもらいました。


メメとモモはなんともないようで、むしろ大はしゃぎで楽しんでいらっしゃる…。

子どもがジェットコースター大好きなアレと一緒だろうか。


いや私も外見は子どもですけどもね。

そもそも体力がないのですよ、ついていけません。


弱っちい人間でごめんよ。






自作の回復薬を飲みながら、夢の大型獣のもふもふを堪能しつつ、三日目には到着。


休憩を挟んでもらう時に周辺探索をかけてきたので、綺麗に地図が出来つつあります。

これはちょっと爽快だ。


コレクター癖はないのだけれど、地図が埋まっていくのはちょっと楽しい。


視界に入っている豪勢な離宮に領主はいるそうだ。

これだけでかくて立派なのに、王都の王宮はもっとすごいそうです。

そうですか…。


闇に紛れる必要もないので、昼間から堂々と入り込む。

隠蔽魔法はかけっぱなしです。


さすがに不安な気がして魔力回復薬を飲んでみました。

保険的な。


屋敷内まではムムさんの背に乗せてもらっていたけれど、せっかくなので降りてみた。

隠蔽魔法は効いたままなので、歩いても問題はないだろう。


というか、屋敷内、そもそもあまり人がいない。

護衛とかどうなってるんだ?


こういう場所って護衛とかそういうのがいるんじゃなかったっけ?

違う?

侵入する側なのでいないに越した事はないのだけれど。


「おぉー…」


立派なお屋敷はすごいですね。キラキラしい。

贅沢品がいっぱいですがこれ、どこからお金が出ているとか考えてイイデスカ。


庶民はそういう事がとても気になります。


《ご主人さま、こっち》


メメさんが案内してくれる。

あれだ、来た事あるって言ってたもんね。


しかし案内されていくうちに、なんだか気分が悪くなってきたんだけど。

ナニコレ。


《マスター、マスター、顔色がわるいよ。だいじょうぶ?》

「あぁ、うん…なんか胃がムカムカしてきてる」


なんだこれ。

どうも周囲の景色を見て、そうなっている気がする。


ここ、黒いもやもあちこちに飛んでいるから、三匹は長居して欲しくないんだけどなぁ。

身体に悪そう。


「なん、か、」


ムムが血まみれになったのを見た時の感じによく似ている。

目の前に見えている景色に何かが重なるのだ。


「…っぷ、」


口元を手で覆う。

もしかしてこの黒いもやが私にも悪影響なのだろうか。


《ココです》


到着してしまったので無理やり気を取り直した。




これ、隠蔽魔法がかかっている状態で扉を開けたらひとりでに開いたように見えるんだよね?


それはちょっとホラーだな。

誰か開けてくれるのを待ったほうがよいのだろうか。


悩んでいたら、ムムさんが勝手に開けました。

姿がでっかいので、ドアノブに手が届いてしまうのだ。

そうですね。


「…」


そっと入ると、中は意外に薄暗かった。

薄暗くて広い場所って怖くないですか。


広い寝室だ。入り口から遠い位置に大きなベッドがある。そこに老人みたいな男が寝ていた。


「…!?」


姿を認めて、また目の前がブレた。

痩せて弱っている男に、なぜか威張り散らした恰幅の良い男がかぶる。


『そいつか、よく手に入れた!』


唐突に声が聞こえた。遠くで。耳障りな嫌な声だ。

けれど私はその声を知っている気がした。


『よし、閉じ込めておけ。決して出すんじゃないぞ!いいな!誰にも奪われるんじゃないぞ!』


ぐるりと視界が回る。暗くて狭い一室。

牢屋と何も変わりがない。


窓も無い。光も無い。

出ることは適わないのに、足には枷がついている。重い鉛の球付きで。


『逃がそうとしただと!?そんな使用人は投獄などでは生温い!即刻打ち首だ!』


『逃げる気力を奪うためにソレの目の前で打ち首にしろ。いいな。犯罪者には自身のした罪を理解させてから殺せ』


『二度とこんなことをする奴が現れないよう、公開処刑だ』


『娘の情報が他の貴族に漏れただと?クソッ、面倒な』


『なんだと、献上しろだと!?ふざけるな!こいつにいくら支払ったと思っているんだ!爵位が高いからなんだというのだ!』


『こちらの言い値で金を支払うのか。そうか、やはり運がついている!よしよし、支払わせろ。元手は取ったな?』


『…まぁいいだろう。金に加えて美人で有名な娘をつけるらしい。ククッ』


次々に耳の奥で再生される声の数々は目の前の男のものだった。


(…あぁ)


ぶるっと身体が震えた。

急激に足が痺れたような感覚になる。

歯がカチカチと音を立てて止まらなくなる。


(私はここに居た事があるのか)


嫌な気配はソレだった。

突然連れられてきて、閉じ込められた。


《主様》


ムムがするりと身体を寄せてくれた。

少しだけ息をつくことができる。


《ご主人さま》

《マスター》


抱き上げて欲しいと請われ、腕の中に抱き寄せる。

温もりに助けられるのはいつも、私の方だ。




カチカチという歯の根のあわさらぬ音が聞こえたのか。

ベッドの上の男が喋りだした。傲慢な声だ。


あれ、もしかしてこいつ、意外にまだ若いのか?


もう死にかけの老人だと思っていたのだけれど。


「誰かそこにいるのか」


ギクッとした。


ムムが私の前に座る事で視界を遮り、メメとモモが手を舐めてくれる。

それでなんとか意識を保つことが出来ている気がする。


「『幸運の少女』は見つかったか」


部下だと思われたのだろうか。

尋ねられた言葉に体が揺れた。



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